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アニメ監督・中村健治インタビュー

絶賛と拒否反応が渦巻くハイブリッドアニメ『空中ブランコ』の果てなき挑戦(前編)

IMG_9926.jpgアニメ業界が注目する新鋭・中村健治監督

 アニメファンのみならず、一般視聴者からも注目を浴びるフジテレビ系列”ノイタミナ”枠のアニメ作品。数多くの話題作を生み出してきた同枠だが、この10月にスタートした『空中ブランコ』は、実写を取り入れるなどアニメの既成概念を打ち砕く演出で、多くの視聴者に大きな衝撃を与えた。アニメのトレンドたる「萌え」とは一線を画した、独特の作品を生み出し続けるアニメ界の異端児・中村健治監督は、何を思い、本作を映像化したのだろうか……?

──まずはアニメ版『空中ブランコ』がスタートした経緯からお聞きしたいのですが。

中村健治監督(以下、中村) 実は、最初は原作も知らないようなところから、企画書を作るってお仕事だったんです。まさか、自分が監督するとは思っていなくて、「こうしたら面白いんじゃない?」みたいな企画書を提出したところ、次の会議で自分が監督をやることになっていたんです(笑)。それで他の仕事を全部止めてこれをやることになった、という感じですね。

──企画書の段階で、すでに現在のような方向性というのは提示していたんですか?

kuchukey01.jpg(C)空中ブランコ製作委員会

中村 いや、最初はもうちょっとファンタジックな感じでした。ただ、今回プロデューサーの方々から、これはファンタジーではなくて、現実の人間の悩みを描くリアルなドラマなので、あまり異世界っぽい方に持っていくと視聴者の「本当に自分たちの現代社会で起こっていることなんだ」、という感覚が薄くなるんじゃないの? っていうお話があって、そこからちょっと写実的な方向に戻すことにしました。ただ、あんまりリアルにして地味になるのはよくないんじゃないかということで、その折衷案として今の形に落ち着いたというところです。

──路線を変更することに葛藤はなかったのでしょうか。

中村 わざわざ自分が監督をお願いされたので、自分に求められるものをやろうかなと思いました。作品を作るとなった時に、こういう理由でこの人間を使おうとクライアントサイドが思われるならば、それに応えないといけないのかなって。

──原作の奥田英朗さんからアニメ化に関するオーダーはあったのでしょうか。

中村 全くなかったですね。いろんなアイデアをあれこれ投げてみたんですが、全部OKでした。ただ、本作は企画のかなり早い段階から、ちょっと変わった絵と直木賞作品を融合させようというのは決まっていて、僕らの中では真面目に原作をアニメ化しているつもりなんです。見ている人からしたら、こいつら好き勝手にやりやがって、みたいに見えるかもしれないですけどね(笑)。

──ちゃんと原作を尊重して作品を作っている。

中村 原作はすごく研究しましたね。最初の印象はすごくカジュアルな小説で、僕的には褒め言葉なんですけれど、”楽しい時間潰し”みたいな。そういうエンタテイメント作品だと思ったんですね。最初はそういう方向で、病気とかにこだわらずに、単なるエンタメとして作ろうと思っていたんです。ただ、臨床心理士や精神病院の人に取材を重ねていった結果、実際に現場で働いている方が、「これはリアルだ」と言ってくださったんですよ。

──リアルというのは。

中村 やっぱり患者さんの病状や行動ですね。それで、「実際の患者さんってどうなんですか?」って聞いたら、小説よりももっととんでもない例を聞かされて、「人間ってそういう風になるんだ」というカルチャー・ショックを受けてしまったんです。それで取材が終わってからは、これを普通の小説としてさらっと読んじゃったらもったいない、って考えにガラッと変わったんです。実は、その時点でシナリオもだいぶ進んでいたんですけど、一度全部捨てて患者サイドのことを多めに描写していく方向に切り替えました。ただ、やっぱり毎週放送するアニメとしての感覚というか、もともと原作小説の持っていたお手軽な感じは生かしたかった、というのはあります。ですので、重厚なドラマを作るのではなく、軽さとか明るさは維持したままで、現実感があるのかないのか分からないビジュアルなんだけれども、意外と中身はけっこう本当にある話なんですよ、というところは意識するようにしています。

──アニメ版『空中ブランコ』は、サイケデリックかつエキセントリックな映像表現が多く使われていますが、これは監督からのアイデアなんでしょうか。

中村 そうですね。ただ作りながらもまだ固まっていない部分もあって、日々スタッフと悪戦苦闘しています。段々、スタッフの中にも「この人は理解した」みたいな人が増えてきているので、かなり妙ちくりんな作品になってきたな、という実感が沸いてきていますね。当初は、これは作れないんじゃないかって、すごく不安でした(笑)。

──妙ちくりんな絵を徹底する理由はなぜでしょうか。

中村 それは多少は見る側に「ショック感」がないと、チャンネルをザッピングしている人の手が止まらないかなと思ったからです。まあ、一つの賭けなんですけどね。こういう絵は、嫌な人はすごく嫌だと思うのですが、やっぱりテレビは不特定多数の人に作品を流すっていうメディアだと思うので、偶然の出会いみたいなものを作れないかなあ、と普段から考えています。
後編につづく/取材・文=有田シュン)

『空中ブランコ』
30分×全11話

毎週木曜24:45~
フジテレビ”ノイタミナ”ほかにて放送中!
<http://www.kuchu-buranko.com/>

空中ブランコ

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最終更新:2009/12/07 21:13
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