「ステージに立ってすみません!」日比谷にこだましたアニメとロックの正面衝突
#アニメ #イベント #さよなら絶望先生 #大槻ケンヂ
絶望したァ! 筋少(筋肉少女帯)ばりのプログレッシブ&ヘビーサウンドを隠れ蓑に、うら若き女性声優の萌えボイスをロックの聖地に響かせるオーケンに絶望したァ!
……とでも形容すべき、アニメ『さよなら絶望先生』のキャストが一堂に会したトーク&ライブイベント「絶望葬会in日比谷野音」が10月31日、日比谷野外音楽堂で開催された。
明快な現代日本批評である原作マンガの毒を薄めることなく、「なんでもアリ」のアニメ化に成功した『さよなら絶望先生』。音楽制作にもその冒険精神はいかんなく発揮され、これまでオンエアしたTVシリーズ3期の主題歌すべてを「大槻ケンヂと絶望少女達」が担当してきた。その集大成であり決起集会ならぬ「絶望葬会」は超満員。立ち見のファンが通路にまで溢れかえり、暴動寸前の熱気が立ちこめる。
いまかいまかと第1部開演を待ち望むオーディエンスを最初に歓迎したのは、ウェブラジオ『さよなら絶望放送』(アニメイトTV)のマスコットさのすけ(CV:神谷浩史)の自虐発言だった。
「ぶっちゃけよー、これマジな話なんだけど。『懺・さよなら絶望先生』のDVD、『化物語』の1/10しか売れてねーんだよ(苦笑)」
客席のボルテージの高さにそぐわない内情暴露!? で一気に暖まった(寒くなった?)会場は、続く第1部トークパート、自虐的ギャグを次々に繰り出す男性キャスト陣の奮闘でさらにヒートアップ(※この様子はアニメイトTVにて有料配信決定)。トークをよそに、屋台の大盛り焼きそば500円をかき込む前列の聴衆に「フリータイムみたいなもんですから大丈夫ですよ。焼きそばおいしいですか?」と温かく問いかけつつ、新谷良子の声をサンプリングした「新谷サンプラー、名付けて良子ロイド」に「モロ○ン!」と卑猥な言葉を連呼させて笑いの渦を巻き起こしたまま、雪崩れ式に第二部ライブパートへと突入した。
自己批判が身上の『さよなら絶望先生』だけに、第2部でも出演者は自虐的。ソロ曲で登場した加賀愛役の後藤沙緒里に至っては、「私のような者が野音のステージに立ってすみません」と、気弱なキャラそのままに謝罪してしまう始末だった。
すみません? だが、それがいい。「ロックの聖地」として名高い野音を「年若い女性声優」がジャックするとは、まさに日本ポップミュージック史上の無血革命。不振のJ-POPをよそに、アニソンがオリコンチャートを席捲したっていいじゃないか!
「絶望少女達」と「大槻ケンヂと絶望少女達」の合間には、当日参加できなかった声優の谷井あすか、沢城みゆき、小林ゆうのビデオコメントがスクリーンに映し出された。「お悔やみの言葉」と題し、この日、出演できない悔しさを語るものだったが、とくに小林ゆうがスゴかった。前の二人が普通に客席に向かって和めるトークをしているのに、なぜか一人だけ「演劇」。『徹子の部屋』(テレビ朝日系)的設定なのか、司会の女性と小林ゆう本人の一人二役を演じ、しかも小林ゆう本人の人格が木村カエレばりにコロコロと入れ替わる。そればかりか、「そこのスクリーンを飛び出せるかな?」というが早いか、カメラに顔から突進し、当然のごとく「ゴツッ」という鈍い音とともに跳ね返されて、「飛び出せなかったァー!」と絶叫。ついには芝居の尺が長すぎて、途中「5分経過」と編集されてしまった(それでも映像はトータル5分半)。最後のほうは客席も引き気味になるほど、そのキレっぷりはTVでオンエアできない性質のもの。あまりの衝撃パフォーマンスに、直後に登壇した大槻ケンヂはほとんど打ちひしがれた体でMCを始めざるを得ず、「あんなもん勝てるか! ミック・ジャガーだって勝てないよ」と叫ぶほかはなかった。
イベントのクライマックス、大槻ケンヂと絶望少女達の演奏は圧巻だった。NARASAKIの曲と大槻ケンヂの詞が醸し出すシアトリカルな展開、インダストリアル・メタル調のハードなアレンジに、絶望少女達のハイトーン・キュートボイスが絡む音像は極度に先鋭的。ノイズや現代音楽を採り入れて実験を繰り返した80年代ロックを、高次元のエンターテインメントに昇華させたかのようだった。それを成し遂げられた要因は、やはり声優のプロフェッショナリズムにあるだろう。大槻ケンヂは「プロフェッショナルに素晴らしい女っぷり」と言っていたが、キャラクターを破綻させない完璧な演技をしながら歌うという、声優ならではの表現力が、ステージで誇示したダイナミズムの源泉となっていたのは確実。ミスをせずに声をコントロールする技術の高さには、正直舌を巻かざるを得ない。
全員素晴らしかったが、とくに「ニート釣り」における井上麻里奈のシャウトは、かなりロックが入っていてガッツが伝わってきた。巷に溢れる自称・歌姫に、絶望少女達の爪の垢を煎じて飲ませたいと思わせてくれるギグ(短いセッション)だった。
ラストは「林檎もぎれビーム!」。タテノリの坩堝と化したままステージは壮絶に幕を閉じた。セットリストは以下の通り。
<出演者一覧&セットリスト>
「神谷浩史と絶望少年達」によるトーク、そして「絶望少女達/大槻ケンヂと絶望少女達」によるライブの2部構成。
第1部は『さよなら絶望先生』主人公・糸色 望役の神谷浩史をMCとして上田燿司(臼井影郎役)、水島大宙(久藤准役)、杉田智和(一旧役)、寺島拓篤(木野国也役)の「絶望少年達」がウェブラジオ『さよなら絶望放送』からの出張コーナーを含む笑いを展開。
第2部はまず、野中藍(風浦可符香役)、井上麻里奈(木津千里役)、新谷良子(日塔奈美役)、真田アサミ(常月まとい役)、後藤邑子(小節あびる役)、松来未祐(藤吉晴美役)、後藤沙緒里(加賀愛役)の「絶望少女達」が「絶望レストラン」ほか5曲を披露したあと、バンド(ボーカル:大槻ケンヂ、ギター:NARASAKI、ベース:村井研次郎、キーボード:DIE、ドラム:OKAZAKI)と合流。「人として軸がぶれている」など8曲を熱唱した。
<絶望少女達>
1.絶望レストラン
2.密室ロッカーズ・ルーム
3.灰かぶりの少女
4.恋路ロマネスク
5.デッド・ラインダンス、デス
<大槻ケンヂと絶望少女達>
0.INTRO
1.人として軸がぶれている
2.ニート釣り
3.マリオネット
4.絶望遊戯
5.おやすみ
6.空想ルンバ
7.さよなら絶望先生
8.林檎もぎれビーム!
(取材・文=後藤勝)
今回は『化物語』の何分の一? 11月26日発売。
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