日本一文章が書けるホームレス(?)が綴る、泣ける話
#本
厚労省が今年発表した日本全国のホームレスの数は1万5,049人(「平成21年度ホームレスの実態に関する調査」より)。この数字は調査を開始した平成19年から漸減傾向にあるという。とはいっても、調査方法は市町村役場の職員が管内を見回って目視でカウントするというもの。実際に調査を担当した長野県の某職員によれば、「田舎だからホームレスも顔見知りが多いけど、最近は知らない顔が増えた。遠めから確認するから服装では性別がわかりづらい。そんなときは『不明』にマルした」とのこと。「ざっくりした調査ではあるけどそれなりに正確だと思うよ」とゆるゆるのコメントをくれた。
ちなみにここでいう「ホームレス」の定義は、「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所として日常生活を営んでいる者」で、「その他の施設」にはネットカフェや24時間営業のマクドナルドは「含まれていません」(厚労省地域福祉課)とのこと。NPO「ホームレス支援全国ネットワーク」も、「保護施設と路上生活を行き来する人たちが増えているし、カウントされない人も多い」としており、広義のホームレスはこの何倍にも膨れ上がると考えてよさそうだ。
金融危機を発端とした倒産やリストラ、派遣切りで街にあぶれた人たちは、置き去りにした家族への想いを胸に秘め、今日もダンボールの家で夜を明かす。10年以上ホームレス取材を続けているフリーライターの村田らむ氏は、彼らと生活をともにして密着取材を続けながら、このほど『ホームレスが流した涙』(ぶんか社文庫)という一冊の本にまとめた。
「山谷や西成のドヤ街、炊き出しのある公園に通って数百人から話を聞いてきた。『話すことなんてねえ! 失せろ!』と追い払われるのはいつものことです」(村田氏)
そんな中で、自らも空き缶拾いや雑誌集め、上野での銀杏拾いなどをして生活をし、ときにはパック酒で一緒に酔いつぶれる。どっぷり世界に浸かりながらゆっくりとした時間の中で会話を重ねていくのだという。
「現在の生活については皆さん比較的よく話してくれるんです。川沿いにテントを張ったら増水して堤防の上まで逃げたとか、あまりの寒さにテントで火を焚いたら火事になって1分で”家”が焼けたとか、大変な苦労話を笑顔で話されます」
一方で、途端に口が重くなるのが家族の話。生死をさまよった苦労話は笑顔で話せても、家族の話を振られると顔をそむけて口を閉ざす。親族の話題はホームレス界最大のタブーだと、村田氏は言う。
「それだけに話を聞かせてくれたときは、涙なしには聞けない壮絶な物語に遭遇します。そういうときはこちらも体力を使う。聞き終わったときはぐったりしますね」
出版元のぶんか社は次のように語る。
「新聞報道で見るステレオタイプの取材記事からは伺いしれない、街で生きる人たちの悲しみや喜びが皮膚感覚で迫ってきます。彼らと同じ時間を共有してきた村田氏だから書ける話ばかりです」
上野恩賜公園で暮らす60歳の男が30年ぶりの里帰りで見た厳しい現実、月収100万の歌舞伎町ホストが女に捨てられ新宿中央公園へ辿りつくまでの心の動き、飼っていた白い犬と一緒に家を追い出された夫婦が2人と一匹で穏やかな心を取り戻すまでの物語―。
一人ひとりと向き合って、真摯に会話を重ねることで聞くことができた22のエピソードは、人の生き方や家族愛について見つめ直す大きな機会となるかもしれない。既刊の『おくりびとが流した涙』、『法廷が流した涙』に続く「泣けるシリーズ」第3弾。未曾有の不景気といわれる時代だからこそ手にしてみたい本だ。
(文=浮島さとし)
これが貧困率15.7%の日本の実情
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