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「VOCALOIDまつり IN 明大祭」レポート

「どうにでもなれと思った」 “VOCALOID”の2年を人気声優とともに振り返る2時間

vocaloid03_main.jpg左から藤田咲さん、下田麻美さん、浅川悠さん

 学祭シーズンに突入した11月1日、明治大学ではトークショー「VOCALOIDまつり IN 明大祭」が催された(主催:アニメ・声優研究会)。初音ミクで有名なバーチャル歌手音源ソフト「ボーカロイドVOCALOID CVシリーズ」にてサンプリングキャラクターボイスを演じた声優と制作開発元のクリプトン・フューチャー・メディアを招き、ボーカロイドについて洗いざらい語ってしまおうというもの。主役は言うまでもなく、キャラクター・ボーカル・シリーズ各タイトルのボイスを吹き込んだ藤田咲さん(初音ミク)、下田麻美さん(鏡音リン・レン)、浅川悠さん(巡音ルカ)のお三方だ。

「VOCALOIDまつり」というタイトルは、去る8月31日に開催されたライブイベント「ミクFES’09」と意味するところはほぼ同じである。要するにアイドルフェスなのだが、アイドル歌手のお祭りイベントとちがうのは、当の歌手であるミク、リン、レン、ルカが、自分の意思で行動することができないということだ。

 ライブ(ミクFES’09)ではコンポーザーが演者の主体となり、バンド演奏をしてミクをスクリーンに投影するという手法で、バーチャルとリアルを融合させた。今回のトーク(VOCALOIDまつり)では、キャラクターボイスを吹き込んだ声優が開発者やユーザー(リスナー)とセッションすることで、ボーカロイドの解説役となりえた。

 藤田さんは「”初音さん”が生きている存在に見えてきて、身近な姉妹みたいな立場で見守っていました」と語っていたが、ボーカロイドにおける声優の立ち位置は、まさに各キャラクターの姉であり妹という表現がしっくりくる。自分の意思で自らの説明をすることができないのが、ボーカロイドのキャラクターだ。その彼女らを血の分けた肉親のように慈しみつつ介添えできるのは、声優ご本人以外にはありえないだろう。

 聴衆は3人の軽やかな口調に乗せられ、ボーカロイドについての対話を存分に楽しんでいるようだった。

 初音ミク発売以後の2年間を振り返る「ボーカロイド想い出トーク」が、催しの主要部分を占めた。ここでクリプトン・フューチャー・メディア株式会社CSP推進室リーダーの熊谷友介さんが明かしたところでは、トータル700人の声を聞き続けるという気の遠くなる作業の末、キャラクターボイスの人選が決まったという。

 藤田さんはピュアで透明感のある声、下田さんはパワフルかつ多彩な表現力、浅川さんは前2作とは全く異なる魅力的な声質が評価され、抜擢された。

 言い換えれば、3人と所属事務所のアーツビジョンがこの依頼を受けたことも英断だった。そもそも、ボーカロイドのキャラクター・ボーカル・シリーズは、長い期間をかけて数千本売れればいい「実用ソフト」として開発されたものである。ひっそりとした存在のままで終わってしまう可能性もあったし、売れたとしても直接、声優の名誉となる仕事ではない。実際、出演を打診した声優事務所によっては製品の意義が理解されなかったり、メールの返事が返ってこないことすらあったという。さらに言えばボーカロイドの録音は非常に過酷なもので、その労苦が報われる保証はない。

 しかしミクたちが「人気歌手」となることで、藤田さん、下田さん、浅川さんはあらためて脚光を浴びた。

vocaloid03_sub.jpgクリプトン・フューチャー・メディアの
お二人。右の男性が熊谷友介さん、
左の女性が目黒久美子さん。

 2007年8月31日、初音ミク発売。直後の9月4日にはもう、ミクはニコニコ動画でネギを振っていた。それを見た熊谷さんは「どうにでもなれ」と思ったという。ボーカロイドが、自らの手を離れてひとり歩きを始めたのを感じたのだろう。

 生後2年、16歳と24カ月を迎えたミクはスーパーアイドルを目指して成長を続けている。ミクをボーカルに据えたsupercellのアルバムがオリコンチャート上位に進出し、ライブでは2,000人を動員するまでになった。

 この節目にクリプトンも新たな動きを見せている。トークショーの後半では、来春発売予定の初音ミクアペンドディスク「ソフトverβ.」を使い、藤田さん、下田さん、浅川さんが即興で編曲するというパフォーマンスを行った。ここで見せた機能は、いままでよりも微細な表現を可能にするもの。端的には声質そのものを替えたり、ビブラートを滑らかにしたりという芸当ができるようになっている。また、ヤマカンこと山本寛監督を迎えた『ブラック・ロックシューター』の90秒動画を手始めとしたクロスメディア展開の計画も着々と進んでいる。

 イベントの退場時にはCVシリーズとは異なるコンセプトの「Project if…」で制作した「崖の上のポニョ」が流された。

 これは架空の女声(を持った個体)を作るというより、ある特定の状況や印象にある「~のような声」をボーカロイドとして再現しようというもの。第一弾として「無垢な子供のような何かの声」とでも言うべきボーカロイドを制作中だ。このプロジェクトの詳細については今後あらためて触れたいと思う。

 ボーカロイドはさらに進化する。その歩みを単なるムーブメントで終わらせることなくカルチャーへと育てるには、このトークショーのような交流の試みを増やしていくべきなのかもしれない。

●トークショーの感想を訊きました

浅川悠さん「今日はボーカロイドをよく知っているファンだけの集まりということで、内輪ネタも含めて安心して話すことができ、とても楽しいひとときでした。私も学祭のイベントは初めてでどうなるか想像もつかなかったんですが……。そんな心配をよそに楽しんでくれて、とてもありがたく思っています。ボーカロイドはユーザーの方が自分自身で言葉を作っていくソフトなので、私たちが喋る機会はそう多くはないと思うんです。またいつかこのような機会があれば、3人で出演させていただき、今日のお客さんに再会したいです」

藤田咲さん「”こういうイベントを作りたい”という学生の皆さんの意向を十分加味して、かつ、ボーカロイドがどういうものなのかという初歩的な段階から、ボーカロイドを操作できる玄人の方までにご満足いただけるものを網羅するには時間も足りなかったかな? と、若干気にかけるところがありました。でも、キャラクターボイスを担当した私たちのこともしっかり見てくれるお客さんたちのおかげで、あたたかい会場になったなというのが、いちばんの感想です。一時のブームが過ぎたあと、なおも学生さんたちが私たちを呼びたいと思ってくださるなんて、すごくありがたいことだと思っています。こういう場を設けてくださった明治大学の皆さんに感謝したいし、この場に足を運んでくださった皆さんにも感謝したい気持ちでいっぱいです」

下田麻美さん「人生初の大学の学園祭ということで、めちゃめちゃ楽しみにしてやってきました。学生さんとひとつのイベントを作り上げる、そのお手伝いをさせていただけたことは、非常にいい経験になったなと思っています。お客さんもいろいろなイベントに行ってらっしゃると思うんですが、こうして私たち3人が初めて揃ったことは、皆さんにとっても新鮮だったんじゃないでしょうか。それに、ボーカロイドのことをよくご存じの方がほとんどだったので、とてもアットホームな雰囲気に、ずいぶんと助けられました。これからもボーカロイドブームが続いていくといいなと思いますし、またこういったかたちでイベントに呼んでいただけるように、私たちもがんばりたいと思います」
(取材・文・写真=後藤勝)

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最終更新:2009/11/05 12:01
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