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『ひぐらしのなく頃に 誓』DVD発売直前インタビュー

「制作会社に採用されなくてよかった」原作者・竜騎士07の挫折と下克上(後編)

higu02.jpg(C)2009 竜騎士07/オヤシロさまパートナーズ

前編はこちら

──作りたいものを作って受け入れてもらえた、数少ない成功例のうちのひとつなのではないですか。

竜騎士 たしかに、ゴハンを食べていこうと思うシナリオライターの人たちに、好きなものを作れとは助言しづらい。私がいまこうして取材を受けているのも運がよかったからで、決して文才があったからではないのだと、肝に銘じています。好きなものを思い切り書いているから売れているんだと、寝ぼけたことを言うつもりはありません。しかし人に喜んでもらおうと思うと、どうしても顔色を窺った、おっかなびっくりな書き方になってしまう。書いていることそのものが楽しくないと宿らない「すごみ」を得るために、私はこれからも自分が書いていて楽しいものを書くでしょう。自分がその物語の最初の体験者である、と感じでもしなければ、何十万文字も何百万文字も書いていられません(笑)。書くことが楽しいという原点は忘れないようにしたいと思います。

──クリエイターとして立とうと思ったときに、制作会社に就職できなかったのはひとつの「挫折」だったのでしょうか。

竜騎士 私にとっては挫折でしたね。新卒でゲーム制作会社に落ちて。これでダメならこの業界では働けない、と思っていたんですよ。「中途採用」なり「浪人」というあり方すら浮かんでこなかった。クリエイティブな業界を諦めようと公務員になったのですが、2年、3年が経つと、沸々とした思いがこみ上げてきたんです。やはり自分はものを作らなければ生きていけない、と。このままではたとえ死んでも、自分の痕跡が何も残らない。そう気付いたある日、悲しくなって。自分が確かにここにいたという何かを残したいと、焦燥感ともフラストレーションともつかない感情が湧き上がった。20代中盤の頃でした。しかし何を作ったらいいかがわからない。マンガは描いてみたけどダメだったし、アニメとゲームもモノにならなかった。そうした試行錯誤を始めてから何年も経って、ようやく出会ったのが舞台脚本でした。それも実らず、最後にはサウンドノベルに辿り着いた。だからいきなりサウンドノベルの『ひぐらし』を作ったんじゃないんです。舞台脚本を書いてから1年後のことでした。

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──公務員は社会的には認められた地位にありますよね。退職するにあたって、相当迷ったのでは?

竜騎士 悩みましたよ。趣味で喰えるという保証はない。一方、公務員はお給料がいい。いちばんいいのは本業と趣味の両立だったのですが、これが難しかった。皆さん公務員は暇だと思っていらっしゃるかもしれませんが、実はかなりの激務なんです。作品の執筆が遅れてしまい、両立することができなくなった。図らずもその頃は『ひぐらし』の評価が上がってきていて、ユーザーの方に次作をお待ちいただく状況になっていた。忙しいからといって休筆することはできなかったんです。そこが人生の岐路でした。一歩を踏み出した時点では喰っていけるかどうか、不安でいっぱいでした。

──アニメ、マンガ、ゲームの業界で働いている人々の何割かは、次々にドロップアウトしていきます。しかし学校を出るときに就職できなかった竜騎士さんは、それでも諦めることなく、コツコツと書き続けてきました。

竜騎士 不思議なものですね。公務員という、もの作りとは異なる世界に行き、一度自分を見つめ直すことができたのも幸いしたんじゃないかと思います。もし私があのとき、ゲーム制作会社に就職できていたら? いまおっしゃられたように、数年でドロップアウトし、星くずのひとつになっていたかもしれない。就活に失敗したからこそ、仕事の合間にでも書きたいと思う心境に至った。そう考えると、いまの自分を作るうえで、私の人生に無駄なことはなかったと思えるんです。公務員の経験は直接的に生きています。『ひぐらし』での沙都子への虐待における児童相談所の対応は、職員研修に使ってもいいんじゃないかというくらい、リアルにできている。役所ほどいろいろな世代の人々が集まる場所はありません。お店にも入れないような辛い境遇の方もいらっしゃるんです。人間というものについて学ぶことができました。

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──就活当時のご自身を、未熟だったと省みていらっしゃるようですが……。

竜騎士 おそらく就活をしていたときの私は、巨大なゲーム制作会社に願書というボールを送り、採用というボールを返してほしいと思っていた。箔のつく肩書きが欲しかったんでしょう。ボールは届きませんでした。投げる方向が違っていた。ほんとうはユーザーに向かって投げるべきだったんです。ゲーム制作会社に認めてほしいという甘ったれた考えで、ボールが届くはずがない。本当にゲームを作りたいやつは願書を書く前に、自分でゲームを作っていますよ。会社に入るのは就職であって、それが即ち創作ではない。当時の私は自分のゲームを他人に作ってもらおうと、頼る気持ちがあった。例のゲーム制作会社さんには感謝しています。そんな男を採らないでくれて本当によかった!

──「そんな男を採らないでくれて本当によかった」「当時の自分は甘ったれていた」という、謙虚な気持ちになれず、苦しんでいる作り手もいると思います。もし竜騎士さんからおっしゃっていただけることがあれば、一言お願いします。

竜騎士 趣味で喰おうと思わないほうがいいかもしれないな。趣味で喰わなければならない、という昭和からの妄執があるような気がするんです。その妄執から逃れている趣味のひとつが釣りです。釣りを趣味にしている人は、釣りでお金を得ようとは思わないですよね。お給料で買ったリールを持ち、長期休暇をとって島へ行き、思う存分釣りを楽しむ。もの作りの路を進むにあたって悩んでいる人は、いま持っている趣味を釣りのようなものだと思ってほしい。そうすれば、仕事をしてでも続けられる、と思えるじゃないですか。二足のわらじでもやっていけるくらいの根性がなかったら、制作の仕事はやっていけないですよ。副収入が本業の収入を上回りそうなら、そのときプロになるかどうか、考え直せばいいんだと思います。働くと嫌な仕事に耐える根性がつくから、もの作りに生きてくるんですよ(笑)。
(取材・文=後藤勝)

竜騎士07(りゅうきしぜろなな)
1973年、千葉県生まれ。専門学校を卒業後、公務員を経てシナリオライターに。同人サークル「07th Expansion」代表。サウンドノベル『ひぐらしのなく頃に』が04年頃からネット上で口コミを呼び、空前の大ヒットに。以降、同作はマンガ、小説、アニメ、劇場公開映画など多方面にメディアミックス展開され、同人サークルの成功例となる。

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発売日:2009年11月6日
価格:3,990 円(税込)
発売元:フロンティアワークス
販売元:フロンティアワークス、ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント
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最終更新:2009/11/01 15:00
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