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『わたし出すわ』公開記念インタビュー

成熟に背を向ける森田芳光監督が語る「お金と映画」にまつわる本当のところ(後編)

watashidasuwa_04.jpg「人物寄りのズームアップは今回はして
いません。引いた構図の中からお客さん
がいろいろと自由に読み取ってほしいか
らです」と語る森田監督。CMも流さず、
口コミでじわじわと話題が広まること
を狙っている。

前編はこちら

──ヒロインの摩耶役は、早くから決まっていたんでしょうか?

「いや、脚本ができてからですね。イメージキャストで脚本を書いて、断られるとショックなんで(苦笑)。でも、今回は小雪さんがぴたっと役にハマった。それって、やっぱり摩耶と同じように、彼女もプライベートで裏表を感じさせない女性だからでしょう。普通、女優といえばブランド物が好きとかそんなイメージがあるのに、彼女の場合はプライベートで見えてくるのは、飼っている犬か実のお姉さんくらい。そんな彼女だから『あなたに会いたかった』『わたし、出すわ』という台詞がフィットし、ミステリアスでみんなが気になる女性の役に合ったんでしょう」

──不思議な人間関係は、森田監督自身の原体験みたいなものが投影されているんですか?


「ボク自身は、本当はホットな男なんです。学生時代に観てきた映画の影響はあるかもしれません。エンターテイメント作品を好きでよく観ていたけど、後に残らないんですよ。実際に自分で映画を撮るとなると、エンターテイメントじゃないものを考えてしまう。いろんな娯楽がある現代に、大エンターテイメント作品を作る意味があるのかとも考えますしね。そう考えると、映画って自分を変えてくれるもの、自分を一歩先にさらしてくれるものじゃないのかと思うし、ボクはそういう映画が好き。オリジナル作品なら、そういうのを目指すべきじゃないかとね」

──学生の頃に影響を受けた作品というのは?

「やっぱり、ゴダール、アントニオーニ、フェリーニですね。もちろん今ならスピルバーグも好きですよ。彼は技術がしっかりしているし、言いたいことがハッキリしていますからね。お金があれば、キューブリックみたいな大作に挑んでみたい。キューブリック作品は好きですし、自分はまだまだあのレベルには到達していない。到達する前に死んじゃうかもしれないけど、やれるものならやってみたいですよ」

dasuwa_main02.jpg冬の函館を舞台に、ミステリアスなヒロイン・摩耶
を演じた小雪。森田作品は函館ロケ作品が多く、
『ときめきに死す』(84)、『キッチン』(89)、
『海猫』(04)に続いて4本目となる。
(c)2009アスミック・エース エンタテインメント

──日本を代表する”大監督”に失礼かと思いますが、『阿修羅のごとく』の頃は「森田監督も”成熟”の域に近づいているなぁ」なんて感じていたんですが、最近の『間宮兄弟』など観ていると、成熟に背を向けているように感じるのですが……。

「あぁ、それはですね、若い頃からですよ。『家族ゲーム』の後に『それから』を撮ったときは、”若き巨匠”なんて持ち上げられたのに、その次の『そろばんずく』(86)は”失敗作”と酷評されました(苦笑)。ボク的にはうれしかったんですけどね」

──キネ旬(キネマ旬報 )第1位の文芸作品『それから』の後が、とんねるず主演の業界コメディですからねぇ(笑)。

「そりゃ、ないですよねぇ(笑)。でも、自分では失敗作とは思ってないし、あれは勢いがないと作れない作品ですよ。ボクとしては、いつまでも”振り子”のように振れていたい。まぁ、その代わり、ファンは付いて来ないですよね」

──あはは、付いて来ませんか?

「笑ってますけど、本当なんです。『森田作品で一番好きなのは?』と尋ねると、見事にバラバラ。同じテイストのものを作り続ける監督のほうがファンは増えるんです。そこがボクの問題点(苦笑)。いろんなタイプの作品を撮りつつ、お客さんが増えてくれればいいんですけどね」

──では、ショービジネスの世界で長年生きてきた森田監督にとって、”お金”とは一体何なんでしょうか。

「残念ながら、お金があるなしと作品の質は結び付きません。ボクも雇われの身として、売れた原作を渡され、人気俳優を使って撮った作品もありますよ。そういう作品は自分の良心に従って撮ったというよりは、お金を出してくれた企業のためのものになりがち。大きな会社が集まって映画を作るとなると、どうしても最大公約数的な作品になる。もっともっと小さな会社で作る映画があっていいと思いますよ」

──森田監督のデビュー時と違って、今のデジタル機材なら低予算で撮れますからね。

「そうです。ネット専門の配給会社があってもいい。100~200万円程度で映画を撮ってしまう。でも、その代わり、英語・中国語・スペイン語と各言語に対応して、世界に配信できるようにするんです。ボクがプロデュースした『バカヤロー!』から堤監督や中島監督が出てきたように、そこから新しい才能が生まれてくると思いますよ。まぁ、ボクが撮らなくても、若い才能に対して監修役を買って出てもいい」

──森田監督としては業界に新しい才能が参入するのは歓迎なんですね?

「そりゃ、そうです。ライバルが現れるのはうれしいことですよ。ボクは『(ハル)』を撮る前はしばらく現場から離れていたんですけど、岩井俊二さんが現われて騒がれ始めた。彼の登場に刺激を受けて、『やっぱり撮らなくちゃ』と『(ハル)』に取り掛かったんです。岩井さんがいなければ、あの作品は生まれていなかった。やっぱり、ライバルは必要ですよ」

──シネコン全盛の今、単館系がシビアになっている現状を森田監督はどう見ていますか?

「いや、これからは分からないと思いますよ。土日だけの数字を見てプログラムを決めるというシネコンのやり方は、もう見直される時期に来ているんじゃないですか」

──名画座はどうでしょう? 森田監督はデビュー前、飯田橋の名画座ギンレイホールでバイトをしていたと聞いています。

「よく知ってますね(笑)。最近は名画座にまた若い人たちが集まるようになってきているみたいですよ。ある種、シネコンの機能性を突き詰めていった部分から外れたものを求めているお客さんも少なくない。映画というメディアが最大公約数ばかり狙ってきたことで、こぼれ落ちるものがどんどん多くなっていると思うんですよね。反動が必ず来ますよ」

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 成熟することなく、常に時代に敏感であり続ける森田芳光監督。あらゆる映画ジャンルで才能を発揮したスタンリー・キューブリック監督のような大傑作に取り組んでもらうためにも、まずはひとりでも多くの映画ファンに「わたし、観るわ」と言っていただきたい。
(取材・文=長野辰次)

『わたし出すわ』
脚本・監督/森田芳光 出演/小雪、黒谷友香、井坂俊哉、山中崇、小澤征悦、小池栄子、仲村トオル、小山田サユリ、ピエール瀧、北川景子、永島敏行、袴田吉彦、加藤治子、藤田弓子 配給/アスミック・エース 10月31日(土)より恵比寿ガーデンシネマ、新宿バルト9、銀座テアトルシネマほか全国ロードショー<http://www.watashi-dasuwa.com>

もりた・よしみつ
1950年東京都生まれ。日大芸術学部放送学科卒業。28歳のときに撮った8ミリ作品『ライブイン茅ヶ崎』(78)が注目を集め、『の・ようなもの』(81)で劇場映画デビュー。松田優作主演『家族ゲーム』(83)は映画賞を総なめし、米国でも公開された。続いて松田優作と組んだ『それから』(85)も高い評価を得る。11月6日(金)より公開されるドキュメンタリー映画『SOUL RED 松田優作』にも出演している。その他、R-15指定を受けた恋愛ドラマ『失楽園』(97)、大竹しのぶが怖すぎるサイコホラー『黒い家』(99)、痺れるラストシーンを用意した『模倣犯』(02)、黒澤明の名作リメイクに果敢に挑んだ『椿三十郎』(07)など様々なジャンルで話題作、ヒット作を手掛けている。

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最終更新:2009/10/29 17:25
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