成熟に背を向ける森田芳光監督が語る「お金と映画」にまつわる本当のところ(前編)
#映画 #インタビュー #邦画
世にお金の使い方を問う森田芳光監督。
「才能や夢に対して、もっと投資していいのでは」
というのが森田監督の考えだ。大監督にも関わらず、
気さくに”出すわ”ポーズをとってくれた。
実家を担保に自らの手で製作費3,000万円を用意し、商業デビュー作『の・ようなもの』(81)で映画界に斬り込んでいった森田芳光監督。その後は『家族ゲーム』(83)、『それから』(85)、『(ハル)』(96)、『阿修羅のごとく』(03)、『間宮兄弟』(06)……とその時代の空気を鮮やかに写し取った意欲作を放ち続けている。小雪主演の最新作『わたし出すわ』は、ネット時代の人間関係を先取りした『(ハル)』以来となるオリジナル作品。”お金”をテーマにしながらも、初期の森田作品を彷彿させる不思議な味わいのあるものとなっている。今や日本映画界を代表する”大監督”である森田監督が、お金のこと、そして日本映画界の今後について忌憚なく語り倒した。
──『わたし出すわ』、面白かったです。『失楽園』(97)以降、原作ありきが続いていましたが、久々に森田監督らしさに溢れた作品だなと感じました。
「ありがとうございます。まぁ、いつも”らしい”作品を撮ってきたつもりですけどね(笑)」
──M・ナイト・シャマラン監督ばりにミステリアスな展開、その上で森田監督ならではのユーモアがまぶしてある。森田監督としては、「予算さえあれば、シャマラン監督より面白い作品を撮ってやるぜ」という心持ちでしょうけど。
「ははは、本音を言ったらね(笑)。まぁ、今回の『わたし出すわ』というタイトルは、デビュー作の製作費を自分で用意したボクの頭の中にずっとあった言葉なんです。『製作費、わたしが出しましょう』と名乗り出てくれる人物が現われないかなぁといつも思っているわけですよ(苦笑)。映画業界では、予算と作品の質の関係、新しい才能への投資など常にお金の問題が付いて回りますからね」
──デビュー作『の・ようなもの』は、料亭だった渋谷円山町の実家と土地を担保にして、製作費3,000万円を自分で集めたんですよね。
「はい、でもお金を集める苦労よりも、8ミリしか撮ったことのない素人がどうやって35ミリの作品を撮ればいいのかというノウハウの問題のほうが大きかった。役者さんにギャラをどれだけ払えばいいのかも分からなかった。そこで知人を通して、セントラル・アーツの黒澤満プロデューサーに予算表を作ってもらったんです。それで3,000万円で、どうやれば映画を作ることができるか仕組みが分かったんです。黒澤さんには今回、エグゼクティブスーパーバイザーとして参加してもらっています。また、一緒に仕事ができたことを黒澤さんも喜んでくれています。そういう意味でも『わたし出すわ』は、ボクにとってゼロに戻ったような作品かもしれません」
──テレビ局とタイアップして、公開直前にテレビで大量露出し、公開第1週の観客動員の数字を残す(上映日数を決める判断データとなる)ことを狙った映画ではありませんね。
「そういう映画とは正反対の作品です。もちろん、そういう映画もあっていいとは思いますが、せっかくのオリジナル作品なんで、敢えてそういう作品を狙ってみたんです。カウンターカルチャーっぽくていいだろう、とね」
──貨幣そのものには価値はないはずなのに、今は拝金主義の時代。そんな現代社会に一石を投じる映画です。
「この間、NHKのドキュメンタリー番組を見ていたんです。ITバブルで羽振りのよかった人たちが不景気になって、すべてを失ったわけです。その人たちが『友達がいなかった』と言っていたのが印象的だった。シビアな言葉だなぁと思いましたね。すでに脚本を仕上げた後でしたが、本作が言いたいことも同じなんです。ヒロインの摩耶(小雪)は東京で大金を手に入れて故郷の函館に戻ってくるが、別に贅沢をするわけでもないので、お金の使い道がない。病気の母親に厚生省の認可が下りてない最新の治療を受けさせるぐらい。そんな時、高校時代の友達が自分に掛けてくれた言葉を思い出して、みんなに会いに行くわけです。『わたし、お金を出すわ』という台詞よりも『会いたかった』という台詞のほうが重たいんです。そんな一種の寓話を撮ってみたかった。堀江貴文さんなんかを見ていても、一時期は時代の寵児ともてはやされ、でも事件になると人がさ~と引いていく。そういう時に頼りたくなるのは、学生時代の思い出だったり、肉親なんじゃないかと思うんですよ」
──バブル時代は、森田監督も羽振りが良かった?
函館に戻り、路面電車の運転手になった道上
(井坂俊哉)ら高校時代の友人たちの夢を実現
させるための資金を提供する。
(c)2009アスミック・エース エンタテインメント
「あの頃はオムニバス映画『バカヤロー!』シリーズ(88~91)をプロデュースしていました。あのシリーズから堤幸彦監督や中島哲也監督が出てきた。ボクがお金を出したわけじゃないけど、『わたし、企画を出すわ』でしたね(笑)。まぁ、映画をつくる側としてはいい時代でした」
──時代の流れに敏感な森田監督ですが、今回の企画は不況になる前から考えていたとか。
「そうです。ここまで酷い不況が来るとは予測してなかったけど、どこかで歪みが生じるだろうとは感じていました。でも、時代を予測するとか、大げさなものではないですよ。ボクは新商品が好き。昔ならウォークマン、今ならwindows7や地デジですね。そういった新商品がメディアとなって、人々に影響を与え、人間を変えていくというのがボクの持論。やっぱりメディアは良くも悪くも人間を大きく変えますよ。だって、今の犯罪はほとんどがネットがらみでしょ?」
──なるほど、人間が変われば人間関係も当然変わっていくわけですね。これまでも森田作品は独特な人間関係を描いてきました。本作と同じ函館を舞台にした『ときめきに死す』(84)なども奇妙な男女関係でした。
「人間関係を描くのが好きなんです。それも表面的な関係ではなく、無意識な一面を通した関係を描きたいと思っているんです。例えば、今回だとさくら(小池栄子)の夫の箱庭男(ピエール瀧)は消費者金融に勤めているけど、”箱庭づくり”という意外な趣味を持っている。普通、消費者金融の人間を描く場合は取り立てをしてるシーンだったり、『他に仕事がないから』とぼやいたりしてるシーンを描くんだろうけど、もっと意外な一面があるかもしれなとボクは思うわけです。人間を多面的に描くのが好き。どんなに悪いヤツでも友達がいるわけだし、その友達の目線で描いてしまうんです。だから、『森田の映画には悪人が出てこない』と言われてしまう」
──あぁ、前作『椿三十郎』(07)も悪人がちっとも悪人らしくなかったですねぇ。
「そうなんです(笑)。悪人なのに、お人好しな一面を持っていたりする。ボクの映画では勧善懲悪の構図が成り立たないんです。『森田作品のそこがキライ』なんて言われています。でも、ボクは人間が好き。人間関係を見つめるのが好きなんです」
(後編につづく/取材・文=長野辰次)
●『わたし出すわ』
脚本・監督/森田芳光 出演/小雪、黒谷友香、井坂俊哉、山中崇、小澤征悦、小池栄子、仲村トオル、小山田サユリ、ピエール瀧、北川景子、永島敏行、袴田吉彦、加藤治子、藤田弓子 配給/アスミック・エース 10月31日(土)より恵比寿ガーデンシネマ、新宿バルト9、銀座テアトルシネマほか全国ロードショー<http://www.watashi-dasuwa.com>
●もりた・よしみつ
1950年東京都生まれ。日大芸術学部放送学科卒業。28歳のときに撮った8ミリ作品『ライブイン茅ヶ崎』(78)が注目を集め、『の・ようなもの』(81)で劇場映画デビュー。松田優作主演『家族ゲーム』(83)は映画賞を総なめし、米国でも公開された。続いて松田優作と組んだ『それから』(85)も高い評価を得る。11月6日(金)より公開されるドキュメンタリー映画『SOUL RED 松田優作』にも出演している。その他、R-15指定を受けた恋愛ドラマ『失楽園』(97)、大竹しのぶが怖すぎるサイコホラー『黒い家』(99)、痺れるラストシーンを用意した『模倣犯』(02)、黒澤明の名作リメイクに果敢に挑んだ『椿三十郎』(07)など様々なジャンルで話題作、ヒット作を手掛けている。
「ボタンダウンの似合うスタッフが新しい笑いとニュアンスの映画を作りました」という当時のキャッチコピー。
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