大量の遺留品が招いた初動捜査の混乱 果たしてDNAに人格は認められるか?
#事件 #殺人 #犯罪 #日本"未解決事件"犯罪ファイル
何かが狂ってしまった現代社会。毎日のようにニュースに流れる凶悪事件は尽きることを知らない。そして、いつしか人々はすべてを忘れ去り、同じ過ちを繰り返してゆく……。数多くある事件のなかでも、未だ犯人・被疑者の捕まっていない”未解決事件”を追う犯罪糾弾コラム。
[第2回]
上祖師谷三丁目一家4人強盗殺人事件
(2000年12月)
20世紀最後の大晦日を迎えることなく、何者かに惨殺された一家4人。幸せな家庭を血の海に沈めた悪魔は、今もどこかで日常の生活を送り続けている。捜査の糸は、一体どこで切れてしまったのか? 残された痕跡から、あらためて事件を振り返ってみる。
トレーナー、ジャンパー、ソフト帽、手袋、包丁、ハンカチ、香水、ヒップバッグ、砂、鳥の糞、ガラス球の破片、金属・鉱物などの粒、蛍光剤の塗料、足跡、指紋、頭髪、唾液……そして血液。これだけ多くの遺留品がありながら、未だ被疑者特定に至っていない殺人事件も珍しい。「上祖師谷三丁目一家4人強盗殺人事件」……通称”世田谷一家殺害事件”。2000年12月31日、20世紀最後の日に東京・世田谷の一軒家で一家4人が他殺体で発見された凶悪事件である。
警視庁のこれまでの調べによると、犯人は2000年12月30日午後11時頃、東京都世田谷区上祖師谷三丁目の外資系コンサルタント会社勤務・宮沢みきおさん(当時44歳)宅に侵入。2階の子供部屋で寝ていた長男・礼ちゃん(当時6歳)の首を絞めて殺したあと、1階から2階に上がってきたみきおさんを刃渡り24cmの柳刃包丁で全身をメッタ刺しにしながら、1階の階段下まで追い回して殺害。その後、3階の屋根裏部屋で寝ていた妻・泰子さん(当時41歳)と長女・にいなちゃん(当時8歳)の顔や首を数度に渡って切りつけて殺害。泰子さんとにいなちゃんの遺体は3階と2階の間の踊り場で発見され、3階の布団と遺体付近に落ちていたティッシュペーパーににいなちゃんの血液が付着していたことから、まだ意識のあった泰子さんが踊り場で倒れていたにいなちゃんの手当てを行おうとしたが、それに気付いた犯人が台所にあった文化包丁で再び2人を襲ったのではないかと見られている。現場には救急箱を開けた形跡があり、身元不明の指紋が検出された絆創膏、家族以外の血液が付着したタオル数枚と生理用品が残されていた。犯行時に家族の誰かともみ合った犯人は手のあたりに怪我を負い、止血を試みたのだろう。
凄惨な犯行を終えた犯人は、そのまま立ち去らずに家の中を物色する。キャッシュカードのほか、運転免許証や手帳など、個人情報が書かれているものを2階の居間のソファーの上に並べ、暗証番号を探り出そうとした形跡を残している。頭が良く几帳面な性格かと思えば、不必要な書類や広告チラシをハサミで切り刻んで浴槽に捨てるという大雑把な部分もあった。結局、犯人が持ち去った主なものは、現金約15万円(泰子さんが経営していた学習塾の授業料)と2000年の年賀状、そして返り血を浴びたトレーナー(丸首/ラグラン袖)の代わりに着用したみきおさんのトレーナー(前面に魚模様で「DIVE」という文字入り/デサント製)の3点と見られている。
さらに犯人は大胆な行動をとる。まるで自宅で過ごすかのように、1階のキッチンの冷蔵庫からペットボトルのお茶とアイスクリーム4個、メロンなどを取り出し、飲み食いした形跡を残しているのだ(犯行中にガムを噛んでいたことも報告されている)。そして、1階の書斎にあったパソコンを操作してインターネットに接続し、みきおさんの会社、大学の研究室、科学技術庁、劇団四季(みきおさんのブックマークに登録あり)などのホームページを閲覧している。驚くべきは、その接続時刻である。一度目は午前1時18分、二度目は午前10時頃……つまり、犯人は4人を殺害したあと10時間近くも宮沢さん宅に居続けたことになる(電話が繋がらず不審に思った隣に住む母親が合鍵で中に入り、午前10時55分に遺体が発見されている)。
この事件は年の暮れ、しかも世紀末最後の日に起こった(発見された)凶悪犯罪として、多くの人々の記憶に深く刻まれている。しかし、未だに犯人逮捕はおろか、被疑者特定にも至っていない。これだけ多くの遺留品があるのに、一体ナゼなのか?
まず1つに、現場の宮沢さん宅が都立「祖師谷公園」の立ち退き区域に指定されていたため、都内の住宅地であるにもかかわらず、周囲の同区画に民家が4軒しかなく、激しく物音を立ててもなかなか気付かれない、逃走後の目撃者がいない、などの理由が挙げられる。実際、犯人が侵入した直後と見られる30日午後11時30分頃に「ドスン」という物音が聞こえたという近隣住人の証言があるが、そこで途切れてしまったため、気にせずやり過ごしてしまったという。次に、侵入経路特定の不確実性。当初、犯人は玄関から侵入したものと考えられていたが、母親や捜査員・救急員らによって踏み荒らされてしまったために判断が遅れ、その後に「侵入口は2階の浴室」と断定されたものの、このことが捜査員への通達の遅れに繋がったとされている。そして最後に、遺留品が多いことによる弊害。例えば、血液からは「アジア系と地中海系のDNA」、靴からは「韓国製のスニーカー」、ジャンパーやヒップバックから見つかった砂粒からは「アメリカ西部・ラスベガス付近の砂漠の砂」「アメリカ・韓国の硬水」、ハンカチからは「アメリカの人気スケートボーダーが愛用しているフランス製の香水」……など、”犯人=外国人”を想像させるものや、逆に「(宮沢さんは)暴走族や近所の公園で深夜に遊ぶスケートボーダーと口論をしていた」などの周辺情報が交錯し、初動捜査に混乱を招いたことも被疑者の絞り込みに時間がかかった原因と思われる。
警視庁は犯人確保に繋がる有力な情報を提供した人に最大300万円の懸賞金(2009年12月15日まで)を用意し、これまで捜査員約14万人、現在も約100人が事件解決のために捜査を行っているとのことが、遺族が「捜査結果に新展開はありません」と話すように、現状は行き詰まったまま時間だけが1秒また1秒と過ぎ去っている。あまりにショッキングな事件のため、ついこの間に起きた事件のような気がしてしまうが、気がつけば時効まであと6年……。遺族らは殺害現場に残された犯人の血液のDNAに”人格”を持たせることで時効停止・延長ができるように法務省に訴えかけ、必死の思いをぶつけている(アメリカでは「ジョン・ドゥ起訴」と呼ばれ、性犯罪などで実施されている)。
現在、再審を行っている(2009年10月25日時点)「足利事件」がきっかけとなり、警察庁・安藤隆春長官は新たにDNA鑑定専門の捜査チーム設立を示唆。ここ数年で飛躍的に進歩した鑑定技術の導入により、すべての未解決事件において、犯人逮捕の糸口が掴めることを願ってやまない。
(取材・文=神尾啓子)
<プロフィール>
犯人像:40歳以下の男性、体格は中肉、身長170〜180cm、A型、右利き
犯行当時の服装:ソフト帽(灰色/毛糸織り/黒のライン)、ジャンパー(黒色/Lサイズ/ユニクロ製)、※トレーナー(丸首/ラグラン袖)、マフラー(緑・赤・オレンジ色の格子柄)、運動靴(28cm/韓国製「Slazenger」)
犯人の携行品:ヒップバッグ(深緑色)、ハンカチ2枚(黒色)
凶器:柳刃包丁(「関孫六 銀寿」の刻印入り)、文化包丁
備考:フランス製の香水『DRAKKAR NOIR(ドラッカー・ノアール)』を愛用?
公訴時効成立:2015年12月
※犯人の遺留品と思われるトレーナーが販売されたのは都内で10着のみ(全国では130着)。販売店は下記の通り。
M/X聖蹟桜ヶ丘オーパ店(京王線「聖蹟桜ヶ丘」駅前)
M/X八王子京王SC店(京王線「八王子」駅前)
マルフル荻窪店(JR「荻窪」駅ビル内)※現在は閉店
マルフル青戸店(京成線「青砥」駅ビル内)※現在は閉店
<情報>
懸賞金:300万円
(平成21年12月15日まで)※延長の可能性あり
<連絡先>
警視庁 成城警察署「上祖師谷三丁目一家4人強盗殺人事件特別捜査本部」
03-3482-3829
犯人の目的は……?
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