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暴力、腐敗……思想を超えて突きつけられる国防のリアル『自衛隊という密室』

jieitaimishitsu.jpg『自衛隊という密室―いじめと暴力、
腐敗の現場から』(高文研)

 自衛隊が日本の防衛組織として必要不可欠であることは、イデオロギーにかかわらず今や多くが認めるところ。日本共産党ですら「急迫不正の主権侵害があれば自衛隊を活用する(同党22回大会声明より)」との容認姿勢をとっている。

 その一方で、機密情報がいとも簡単に漏れてしまうなど、隊内のモラルハザードや様々な組織構成上の問題点が指摘されていることも事実。その象徴的な事例の一つが隊員の自殺の多さだ。防衛省によれば自殺で死亡した自衛隊員は04年度が100人、05年度101人、06年度101人と3年続けて過去最悪を記録。94年から08年までの15年間でみれば実に1,162人もの隊員が自殺で命を落としている。隊員10万人あたりの自殺者数38.6人(平成6年度)は、一般職国家公務員の平均値である17.1人の2倍以上。いまや自殺は自衛隊における最大の死亡原因でありながら、その動機は大半が「不明・その他」で処理されているという。

 今、自衛隊の中で何が起きているのか。本書『自衛隊という密室―いじめと暴力、腐敗の現場から』(高文研)の中で、組織防衛の厚い壁を突き崩しながら筆者・三宅勝久氏の粘り強い取材で見えてきたのは、隊員同士のリンチや悪質なパワハラ、汚職に手を染める幹部、虐待される女性自衛官など、病める組織に巣食う病巣の数々だ。

 07年に先輩隊員による激しい暴行で左目を失明した小松基地勤務の元隊員が、その様子を生々しく語る。

「いきなり拳が飛んできて左目にまともに入りました。目の奥でパキと音がするのがわかりました。鼻血がどっと出てきた」「(同僚が)止めてくれたからよかった。あのまま続いていたら死んでいたかもしれませんから」(本文より)

 暴力を振るった先輩隊員は略式起訴され罰金刑という刑事罰を受けたが、被害者は眼窩内壁骨折という重症を負い後に失明。記者クラブに提供された報道発表文には、刑事事件となったことも被害者が失明したことも一切記載されることはなかった。

 地方紙記者出身の三宅氏は、フリー転身後に闇金業界の実態を書いた「債権回収屋”G”―野放しの闇金融」で第12回『週刊金曜日』ルポルタージュ大賞優秀賞を受賞。その後も消費者金融大手『武富士』のルポを同誌に連載し、同社から損害賠償1億1,000万円を請求する訴訟を起こされるなどの武勇伝を持つ(05年最高裁決定で武富士の請求は棄却し、三宅氏側の勝訴に)。

「最初に自衛隊を取材したのは93年です。モザンビークのPKOで派遣された部隊に密着したんですが、子どもたちが隊員になつくなど、本当に平和で貧困のないいい国になってほしいと隊員はみんな願っていたのが印象的でした。当時から16年がたちますが、その間、平和を仕事にするそんな自衛隊にあこがれて多くの若者が入隊していったことと思います。再び自衛隊を取材するようになったのは5年ほど前ですが、あこがれの職場が決して『平和』ではないことがわかってきました。蔓延する暴力、汚職、規律の緩み。理不尽なことがまかり通り、モチベーションは下がる一方です。ストレスから酒やギャンブル、女遊びにはまって借金を作り、身動きがとれなくなる人は後を絶ちません。自殺者も続出。一般市民を強姦したり殺害する隊員もいます。本当に自衛隊は腐っている、嘆かわしい、そういって私の本を一番熱心に読んでくれるのはほかでもない自衛隊員やOBたちなんですね」(三宅氏)

 本文は『週刊金曜日』や市民派のニュースサイト『マイニュースジャパン』掲載記事が土台になっているだけあり、筆者のイデオロギーが随所に見られるのも特徴だ。

 いわゆる”南京大虐殺”についても、「筆者自身、二〇〇九年三月に南京を訪れた際、日本兵に家族を皆殺しにされた男性から直接当時の体験を聞いたことがあるが、田母神氏(元航空幕僚長)によれば彼の証言も『嘘っぱち』ということになってしまう。よほどの”勇気”がないとできない発言だ」と持論を展開。自衛隊については「『軍国主義』と『民主主義』の間を迷走する、軍隊でない『軍隊』自衛隊」と論じるなど、それだけで拒否反応を示してしまう保守派の読者層も多いかもしれない。

 しかし、徹底した取材と情報収集による緻密で具体的な記事構成は、思想の左右に関わらず強い説得力を持って読む者に迫る。筆者の地道な聞き取りで得られた多くの事実を知ることは、自衛隊の必要性を唱える層にとっても決して無駄にはならないはずだ。

自衛隊という密室―いじめと暴力、腐敗の現場から

いっ、息が詰まる……

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最終更新:2009/10/19 17:00
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