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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.36

『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』

ookami01.jpg守るべきものを失った会社員ヒューム(ケビン・ベーコン)に、もはや怖いものはなし。頭を刈り込み、幸せな生活を奪ったギャング団に銃口を突き付ける。往年の人気シリーズ『デス・ウィッシュ』が現代に甦った『狼の死刑宣告』
(c)2007HPE Rights,Inc.

「よろしくウィッシュ」はDAIGOの決め台詞だが、『デス・ウィッシュ』(74)は故チャールズ・ブロンソンが当たり役とした人気アクション映画。街のギャング団に最愛の妻を殺され、娘をレイプされてしまった設計技師ポールが「法が裁けないなら、オレが裁く」と手当たり次第に街のワルたちを抹殺していく復讐談だ。ちなみに邦題は『狼よさらば』。テレビ東京の”午後のロードショー”の人気プログラムだった。愛妻家ブロンソンの見事な切れっぷりから『デス・ウィッシュ』はシリーズ化され、『ロサンゼルス』(82)、『スーパー・マグナム』(85)、『バトルガンM−17』(87)、『狼よさらば 地獄のリベンジャー』(94)と全5作がつくられている。ブロンソン演じるポールは新手のギャングたちを成敗するのに忙しく、復讐の炎を沈める暇がない。さて『デス・ウィッシュ』の原作者ブライアン・ガーフィールドによる姉妹編『デス・センテンス』を映画化したのが、10月10日から公開中のケビン・ベーコン主演作『狼の死刑宣告』。愛する息子を殺されたサラリーマンが、夜の街を支配するギャング団を相手にたった1人で反乱を起こすバイオレンス映画だ。

 ブロンソンの当たり役だった『デス・ウィッシュ』を21世紀に蘇らせたのは、ジェームズ・ワン監督。超低予算映画『ソウ』(04)を27歳の若さで完成させ、映画界に殴り込みを掛けた俊英だ。密室劇『ソウ』シリーズはケチな物取りに妊娠中の嫁を流産されられたことから温厚な”赤ひげ先生”が復讐鬼ジグゾウとなり、平和をむさぼる社会にキバを剥くという理不尽ホラー。ジグゾウが『ソウ3』(06)で死んだ後も、ジグゾウが残した遺言代わりの復讐ゲームは延々と続き、『ソウ6』(11月6日公開)へと受け継がれている。ワン監督の監督第2作となる『デッド・サイレンス』(07)も、女腹話術師が自分の芸にケチを付けた少年と村人に執拗なまでに復讐を重ねるというオカルトもの。ワン監督は、よっぽど”復讐”というキーワードがお気に入りらしい。今回の『狼の死刑宣告』は非ホラー系映画だが、バイオレンス度は『ソウ』以上といっていい。

『狼の死刑宣告』の中で圧巻なのは、中盤の立体駐車場を巡る攻防。新米ギャングの度胸試しというチープな理由で長男を殺された会社員ヒューム(ケビン・ベーコン)は自分の手で新米ギャングを私刑に処するも、面目を潰されたギャング団の反撃が待っていた。勤務中のヒュームを見つけ、真っ昼間から襲い掛かり、逃げ場のない立体駐車場の屋上へと追い詰める。ギャングに追われるヒュームの背中を、カメラも一緒になって懸命に追い掛ける。息つく暇なく、アクションシーンを一気に長回しで見せる手法は、ワン監督お見事。”ホラー&バイオレンス界の相米慎二”と呼びたくなる。あまりに単純明快な落ちでホラーファンを唖然とさせた『ソウ』で培ったシンプルな演出は、いまだ健在だ。

ookami02.jpg息子を虫ケラのように殺され、慟哭するヒューム
の妻ヘレン。演じるケリー・プレストンはジョン
・トラボルタ夫人として有名。サイエントロジー
礼賛映画『バトルフィールド・アース』(00)に
仲良く夫婦で出演していました。

 一般市民が自分の手で自分たちの暮らすコミュニティーを自衛するアクション映画は”ヴィジランテ(自警)もの”と称され、確立されたジャンルとなっている。最近のものだと、クリント・イーストウッド御大の大傑作『グラン・トリノ』は典型的なヴィジランテ映画だし、日本でいえば『桃太郎侍』(日本テレビ系)は一種のヴィジランテ時代劇といえるだろう。東野圭吾原作の『さまよえる刃』(現在公開中)も、ひとり娘を殺された被害者遺族(寺尾聡)が少年法に守られた凶悪犯を自力で追い詰めていく同系列のストーリーだ。

 古い作品だが、ヴィジランテものでお薦めなのが、ロベール・アンリコ監督の『追想』(75)。『ニュー・シネマ・パラダイス』(89)の老映写技師など朴訥な田舎紳士の印象が強い名優フィリップ・ノワレが美人妻と娘をナチス兵になぶり殺されたことで、孤独な戦争をぶッ始める。青春との惜別を描いた『冒険者たち』(67)で知られる名匠ロベール監督ゆえに、復讐を遂げても愛するものは2度と帰ってはこないというラストシーンの虚しさが身に染みる。隠れた名作なのだ。日本だと若松孝二監督&原田芳雄主演『われに撃つ用意あり』(90)も、男泣きヴィジランテ映画だ。

 さて、立体駐車場でのギャング団の追跡を何とか振り切ったヒュームだが、その後にはさらに悲惨な結果が待っていた。いわゆる”報復の倍返し”である。もはや自宅に帰っても「おかえりなさい」と声を掛けてくれる家族がいないヒュームは、警察に頼ることを諦めたというよりは、怒りのやり場をギャング団のアジトへと向ける。『タクシードライバー』(76)の主人公トラヴィスよろしく、髪を刈り込んだ上で完全武装し、ギャングたちに捨て身で襲い掛かる。ギャング団は”守るべきものを失った”サラリーマンを甘く見ていたのだ。勤勉なサラリーマンは、勤勉に復讐を遂行する。

 最後にまめ知識をひとつ。「目には目を。歯には歯を」のおっかない条文で知られる古代バビロニアの「ハンムラビ法典」だが、実は復讐を奨励するものではない。むしろ、”報復の倍返し”を禁じたものなのだ。片目を突かれたら、相手の片目を突き返すのは認めるが両目を突くのはダメ、というのが主旨である。司法の手が及ばない異文化のコミュニティー間で繰り返される”復讐の連鎖”をどう断ち切るかは、いにしえの時代から大きな社会問題だったのだ。
(文=長野辰次)

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●『狼の死刑宣告』
原作/ブライアン・ガーフィールド 監督/ジェームズ・ワン 出演/ケビン・ベーコン、ギャレッド・ヘドランド、ケリー・プレストン、アイシャ・ライラー、ジョン・グッドマン 
配給/ハピネット 10月10日よりシアターN渋谷、テアトル梅田ほか全国順次ロードーショー公開中 R15
http://www.ookami-sikei.jp/

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最終更新:2012/04/08 23:09
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