“嘘”という最大のタブーを犯す 偽ドキュメンタリーの世界
#松江哲明 #ドキュメンタリーDVD
ドメンタリー監督。99年に在日コリア
ンである自身の家族を撮った『あんに
ょんキムチ』でデビュー。他の作品に
『童貞。をプロデュース』(07)など。
新作『あんにょん由美香』公開中。
『ライブテープ』が近日公開予定。
一般的には記録映像、記録作品とも呼ばれるドキュメンタリー。演出を加えないことが前提であるため、放送コードや倫理規制をも凌駕する多くの名作が生まれた。CBSドキュメントの「ピーター・バラカン」、報道カメラマンの「不肖・宮嶋」ら、ドキュメンタリーに一家言を持つ賢人が、そんなタブー破りのDVDを選出する。
ドキュメンタリーとは事実をそのまま撮ったものだから、ヤラセはご法度だと思いがちです。でも僕の定義では、ドキュメンタリーとは現実を素材にした物語。カメラで何かを撮ろうとした時点で、フレーム外に隠された部分を生み出すという演出をしているんですよ。つまり、作り手は自らが見たいものを選択している。そうしないとドキュメンタリーはそもそも作れませんから、嘘か本当かという点で躍起になるのはリテラシーが低いということなんです。
そこで今回は、タブーとされる嘘をついたドキュメンタリー――あらかじめ台本があるのにドキュメンタリーのスタイルで撮っている「フェイク・ドキュメンタリー」を選びました。まず外せないのが『光と闇の伝説 コリン・マッケンジー』。ニュージーランド出身のピーター・ジャクソンが1908年に製作されたコリン・マッケンジーという監督のフィルムを発見したことで、映画の歴史が浅いニュージーランドでトーキーもカラーも全部先取りしていた人物の存在が明らかとなり、映画史が変わるという作品です。当然それはフィクションですけど感動的なのは、監督のピーター・ジャクソン自身がその後ハリウッド進出して『ロード・オブ・ザ・リング』などを撮ったニュージーランド映画界の開拓者であること。その彼が96年に同作品をテレビ放送したら視聴者はみんな信じちゃった(笑)。でもそれは素敵な嘘ですし、フェイク・ドキュメンタリーのあり方として正しいはずです。
そんな『コリン~』のように、フェイク・ドキュメンタリーが最も機能するのはテレビなんです。不特定多数の人を騙せますからね。その意味では、『放送禁止』シリーズは秀作ですよ。面白いのは、真実とはひと言も語られないオカルト・ドラマなのに、それが徹底的にわからないように作られていることです。霊媒師や怖がるタレントがいる安っぽいオカルト番組ではなく、テロップやナレーションを最小限に抑えた報道ドキュメンタリー風に見せている。そのため、視聴者の頭の中に真実を作ることができ、深夜に寝転がって観ていた人たちを「なんじゃこりゃ!」と起き上がらせることができたのです(笑)。
そして、フェイク・ドキュメンタリーの最新形が『オカルト』。かの『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のようなハリウッドのフェイク・ドキュメンタリーがぶつかってきた壁は、有名俳優を起用しなかったり、CGでリアリティを出したり、作り手が嘘なのに本当のフリをしなければならなかったことです。しかしこの映画は、白石晃士監督が通り魔殺人事件の真相を究明しようと取材を進めていくうちに、事件現場の映像にUFOが映っていたり、インタビュー・シーンで映画監督の黒沢清さんや漫画家の渡辺ペコさんが実名で登場したり、最後には未来や別の次元まで見せてしまうなど、次々とあり得ないことが起こる。そう、嘘をどんどんバラしていくんです。そんなフェイク・ドキュメンタリーは観たことがなかった。これは世界中で最も進んだドキュメンタリーですよ。
これらの3本を観て「単なるヤラセじゃん」と思考停止してしまう人もいるでしょう。でもドキュメンタリーは手法に差はあれど、何を伝えるかというその役割に違いはないです。むしろ、フェイクのほうが作り手のメッセージをダイレクトに届けられる場合もありますからね。それを知れば、ドキュメンタリーの深さをより感じられるはずです。
(談)
(構成=砂波針人/「サイゾー」10月号より)
光と闇の伝説 コリン・マッケンジー
1996年製作/監督:ピーター・ジャクソン/松竹ホームビデオ/廃版(ニュージーランド)
ピーター・ジャクソン監督の幻の快作。映画の歴史が浅いニュージーランドでD・W・グリフィス以前にスペクタクル映画を撮っていた監督がいた……という虚構に基づく。
放送禁止 DVD封印BOX
2003年放送/企画・構成・演出:長江俊和/7980円/ポニーキャニオン(日本)
03年4月からフジテレビで深夜放送されたテレビシリーズ。巷で噂になっている不可思議な現象に迫る……というスタイル。フェイクに目くじらを立てるのは笑止!
オカルト
2008年製作/監督:白石晃士/3990円/クリエイティブ アクザ(日本)
無差別殺人、幽霊、ネットカフェ難民、古代文字、UFO等々の項目が並列する新感覚ドキュメンタリー。Hair Stylistics(中原昌也)の音楽が怪しさを増幅。
●タブー破りのドキュメンタリーDVD INDEX
・ピーター・バラカン「政府、企業、メディア……体制の裏側を暴く社会派作品」
・宮嶋茂樹「群衆をナチスに導き熱狂させた素晴らしき映像芸術とその系譜」
・佐藤健寿「超常現象の疑わしさを突破する未確認の『何か』に迫った映像」
・ECD「アナーキスト、暴走族、ペインター 抵抗と闘争の実録&記録作品」
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