品川祐さんの至言「なったらいいなと思ってることは、だいたい実現する」(後編)
#対談 #サブカルチャー #品川祐 #小明 #大人よ教えて!
──寛容ですねぇ。『漫才ギャング』で、売れない芸人の飛夫がキャバクラに行って、キャバ嬢に「何か面白いこと言ってよ」って言われてブチ切れるシーンがあるじゃないですか。ああいうことってやっぱり実際にあるんですか?
品川 あれはね、ほんとに若いときはあれ言われたら、小説以上に怒ってましたね。特にテレビに出てないときはよく言われて、100%切れてましたね(笑)。今はもう、それもそんなに思わないです。焼酎5、6杯飲んでたら怒るかもしんないですけど、シラフだったら、「無理無理―っ!」とか言って明るく流します。
──やっぱり売れてからは心に余裕が出来たんですかね。
品川 そうですね。ま、虚勢を張らなくて済むっていうか、たとえば、お金ない時代のときに、きったねえ服着てAVとか借りてたら、「あ、それしか性処理の方法がないんだ」って感じするけど、今AV借りてるとこ見られても、そんなに恥ずかしくないっていうか……奥さんもいるし。だから無理して高級車に乗ったりとかしないで中古車に乗ってても、周りが勝手に「こだわりがあるんだ~」って言ってくれるでしょ。こだわりも何もないのに(笑)、そういう感じですよ。
──つまり、売れる前は心の余裕なんか持てるわけじゃないんですね……。『漫才ギャング』は売れない芸人さんが10年続けてから、また再スタート! ってお話ですけど、正直、女子だと10年売れない状態で……っていうのもかなり辛いじゃないですか。私、もう7年目なんです。アイドルをやって全然売れなくって、ここ数年はライターの勉強をしてそっちで食いつないでいますけど、売れないアイドルを10年続けて再スタートは……。
品川 それはかなりヤバい感じというか……(小明を見て急に吹き出し)ププッ! 難しいかもしれないですね(笑)。
──……笑われた! だから、ここらでいっちょ私も自分の本(『アイドル墜落日記』洋泉社)を映画化なりマンガ化なりしてなんとか生き延びたいんですが、品川さんの場合、そういう展開は視野に入れた状態で書くんですか?
品川 『ドロップ』のときは、もちろん映画の話なんかなかったし、それでもなんとなく映画になればいいな、と、まぁ……うん、やっぱり思ってましたね。けっこうね、ぼく、なったらいいなって思ってることって、だいたい実現するんですよ。『漫才ギャング』もいっしょで、やっぱ、自分くらい信じないと、どうにもなんないし(さわやかに)。
──すごいですねー。私は自分ほど信じられないものはないですよ。意志が弱いもんで。
品川 だけど、「自分のことを信じられないですよ」っていう政治家に、一票入れようって思わないじゃないですか(さわやかに)。少なくとも、「自分は自信持ってます!」って言わないと、だれも1票投じてくれないんじゃないかな。10人いて10人に嫌われたら0人でしょ。でも、ぼくがぼくを好きだったら、少なくとも1票はある。スタートが0の場合、その0にいくつかけても0だから、もし仲間になれるやつが5人目の前にいても、自分が自分のこと好きじゃないと0と同じ。本来仲間になるかも知れなかった人まで見落としちゃうんですよ。でも、自分が自分のこと好きなら少なくとも自分はそこに1人あるから、1かける5は5でしょ、そしたら半数は取れるっていう、ぼくの持論なんです。ま、極論ですけど、そう思って生きてると、けっこう自分のことを好きになれるかなって。
――なるほど! じゃあ、私は2か3になりたい!
品川 (無視して)ぼくはネガティブな時代も、理屈とか好きなんでネガティブな理屈をこねていたんですけど、それがしんどくなったから、そのネガティブでいるぼくに対してポジティブに変換するぼくっていうやつを戦わせて、こっちが勝ったほうが楽しく生きれんだろうって、自分を洗脳したんです。
──脳内でも喧嘩で成り上がったんですね! わたしもチャレンジして洗脳してみます!
品川 でも、小明さんは、本のタイトルも『アイドル墜落日記』とか、頭がハゲたとか、そういうのが売りなんだから、死ぬまでネガティブなままでいいんじゃない?(笑)
──いやです! 幸せをさがしにいきたいんですよ!
品川 ポジティブになって仕事なくなるより、ネガティブで仕事あるほうがいいと思いますけどね。
──でも、最近ちょっと仕事が増えたりして、だんだん自分に余裕がでてくるじゃないですか。で、わーいって楽しく暮らしていると、「あいつは日和った」「昔のほうが共感できた」みたいに言われてしまって。それで「やばい、私は幸せになっちゃいけないんだ!」と思ってしまって、また負のスパイラルにはまって……。
品川 それはそれでいいんじゃない? いや、人それぞれだと思うんで、「どうやったら品川さんみたいになれるのか……」とかよく言われるんですけど、やっぱ、あんまり人にはあてはまらないっていうか。芸能界って特に、自分の中にある小さいものを大きくデフォルメして発表する場だから、せっかくネガティブってことでスポット当たってるのに、「ポジティブな人っていいなぁ」ってそっちに引っ張られちゃったら、やっぱ面白みがなくなっちゃうから。いろんな人がいて芸能界ですからね。つらいかもしんないけど、ぜひネガティブでいてくれたほうがファンの方は喜ぶんじゃないですかね。ほら、太宰治じゃないけど、あーゆう暗い人に救われる人もいるから、きっと。
──ああ、そうですね、本当にそうです……。生まれてすみません!
品川 きっと小明さんみたいな人に救われる人もいるんじゃないですかね、どこかには。たぶん。なんとなく(笑)。
──たぶん……? あー、でもそういっていただいて、すごく助かったような気がします。
品川 まさに小さい明かりだと思いますけど、あまりポジティブにならないままで、周りを照らしてあげてください(さわやかに)。
──墓場にそなえるロウソクのように弱々しい明かりって感じですね……心配しなくても不況で仕事がどんどん減ってポジティブになりようがないので、このまま頑張ります……。
(取材・構成=小明/「サイゾー」10月号より)
●品川ヒロシ(しながわ・ひろし)
1972年、東京都生まれ。お笑い芸人、作家、映画監督。95年に漫才コンビ「品川庄司」を結成しデビュー。9月18日に、2作目となる小説『漫才ギャング』(リトルモア)を発売。また、自身が原作、脚本、監督を務めた映画『ドロップ』DVD(よしもとアール・アンド・シー)も好評発売中。
●小明(あかり)
1985年、栃木県生まれ。02年、史上初のエプロンアイドルとしてデビューするも、そのまま迷走を続け、現在フリーのアイドルライターとして細々と食いつないでいる。初著『アイドル墜落日記』(洋泉社)の販売数を思って眠れぬ日々。
ブログ「小明の秘話」<http://yaplog.jp/benijake148/>
30万部突破のデビュー作
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