群衆をナチスに導き熱狂させた素晴らしき映像芸術とその系譜
#ドキュメンタリーDVD
1961年兵庫県出身。世界中のスクープ
を撮り続ける報道カメラマン。『不肖
・宮嶋のビビリアン・ナイト』(祥伝
社)など著書多数。DVD『不肖・
宮嶋 これがホンマの海上自衛隊、ス
ーパーウェポンや!!』(イーネット・
フロンティア)が今秋発売予定。
一般的には記録映像、記録作品とも呼ばれるドキュメンタリー。演出を加えないことが前提であるため、放送コードや倫理規制をも凌駕する多くの名作が生まれた。CBSドキュメントの「ピーター・バラカン」、報道カメラマンの「不肖・宮嶋」ら、ドキュメンタリーに一家言を持つ賢人が、そんなタブー破りのDVDを選出する。
僕も狭い範囲ながらドキュメンタリーと呼べる仕事をしていますが、他人の作品の中には少なからず雑な撮り方のものも散見できます。カメラの性能が良くなり映像制作が身近になったのは構わないけど、誰もがドキュメンタリストとかジャーナリストと気軽に名乗ってほしくない。そういうヤツに限って、大上段に構えて毒にも薬にもならないカッコいいことを言うのですが、そんな作品は疑ってかかるべきですよ。タブーを破るという意味で、差別用語や放送禁止用語などを使うという、テレビではハードルの高いことも基本的にできるのが、良質なドキュメンタリー映画本来の魅力ですからね。ここでは、そんな優れたドキュメンタリーの要素が詰まった作品を挙げたいと思います。
まずは『意志の勝利』。ニュルンベルクで行われたナチ党の全国大会の記録映画で、戦後長らく上映できず、いまもドイツでは公開できない作品ですが、そんな話題性は抜きにして撮影技術が素晴らしい。僕はこれを学生時代に映画館で観ました。当時写真を専攻していたので、写真家でもある監督のレニ・リーフェンシュタールに興味があったのですが、ゴンドラやレールをひいたり、熱狂する群衆を望遠レンズで圧縮したりする撮影方法は非常に勉強になりました。
また編集も巧みで、ヒトラーが乗った総統専用機が上空を飛ぶ静かなシーンから始まるのですが、だんだん盛り上がって最後には映画館の観客みんなの右手が挙がりそうになったぐらいです。そうした効果を生む表現方法は見事で、映画館にいたナチスとは無縁の人たちが熱狂していくさまを感じましたね。しかも1930年代に20代の女性が撮った作品だから驚きです。でも、”進歩的な人”は観もせずにナチのプロパガンダと決めつけてしまう。もちろんナチスやヒトラーについては負の面が圧倒的に多いのは認めますが、この映像芸術が革新的だったのは間違いなく、その点で僕は多大な評価をしていますね。
そのリーフェンシュタールが撮った『民族の祭典』は1936年のベルリン・オリンピックをドキュメントした作品ですが、それを参考に市川崑監督は『東京オリンピック』を製作したと聞きます。『民族の祭典』は、黒人選手が優勝した場面を一切使っていなかったり、なるほど政治的な側面もありますが、あくまでメイン・テーマはスポーツですからさほどエグい映像はありません。むしろ、スローモーションを多用した飛び込みのシーンなど、当時のハイテク映像に目が行きます。
そうした映像技術に、市川監督は多分に影響を受けたと思いますね。『東京オリンピック』冒頭の画面いっぱいに太陽が昇る映像などにそう感じます。でも、あれは後から撮り直したと聞きますし、フィナーレのマラソンのためにはカメラマンを大量に動員したそうです。ともあれ、望遠レンズやゴンドラ、クレーンまで多用してスポーツを大掛かりに撮ったのは日本で初めてだったので、彼女から学ぶことはあったのでしょう。
そんな『東京オリンピック』のスケール感を受け継いだ『日本万国博』は、僕の小学校で上映されたときに観ました。これは、雪が降る太陽の塔の汚い工事現場で、アフリカの黒人の子どもが雪を珍しがって口を開けて食べようとするシーンから始まるんです。しばらくして華やかな場面になるのですが、その出だしは印象深かった。また、赤軍派が太陽の塔を何日間か占拠しビラを上からまいたりして観客が騒然とするシーンも、ちゃんと撮られています。万博は「世界のみんなが仲良くする」というテーマで罪がないように思えますが、そんな時代背景も見える作品として面白いですね。(談)
(構成=砂波針人/「サイゾー」10月号より)
意志の勝利
1934年制作/監督:レニー・リーフェンシュタール/Synapse Films/輸入盤(ドイツ)
当時ナチ党の統制を拡大する一助となった禁断の映画であるが、善悪の彼方にある強大な訴求力と高クオリティを備えるがゆえに映像作家の教科書となり得る。
東京オリンピック
1965年製作/監督:市川崑/6300円/東宝(日本)
1964年開催の東京五輪をドキュメント。完成後、「記録か芸術か」という議論が沸き起こったが、リーフェンシュタールの影響に気づけば後者なのは明らか。
日本万国博
1971年製作/監督:谷口千吉/5985円/ジェネオン・エンタテイメント(日本)
1970年に大阪で催された大博覧会の記録映画。切符売り場でパニック状態となった観客たちの映像は、「人類の進歩と調和」というテーマの裏側でもある。
【関連記事】 政府、企業、メディア……体制の裏側を暴く社会派作品
【関連記事】 「生きた”小さなメディア”を作れ」若手評論家が語る「新聞・雑誌の死後」(前編)
【関連記事】 光通信、みずほ、INAX……タブーなき男が狙う”企業の闇”
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事