スタイリッシュな動物の骨格と機能美 動物の”ホネ”を集めた写真集『BONES』
#本
ゾウの鼻はなぜ長いの? ネコはなぜ猫背なの? こんな疑問を、誰だって一度は抱いたことがあるだろう。魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類、ぼくらに馴染みの深い動物は脊椎動物に分類され、総じて骨格を持っているのが特徴だ。その形態は多種多様で、走行、飛翔、跳躍、遊泳、掘削、と、それぞれの生息環境に適応した形となっている。トラなどネコ科の動物は、獲物を捕らえるため、速く走行出来るようになっているし、ゾウは、発達した上唇(一般にいう鼻)のため、頭蓋に大きな穴が空いている。そしてその巨体を支えることが出来るよう、均一に体重を乗せられる四肢の構造になっている。合理的だ。
この本『BONES』は、多くの脊椎動物の中から80種を取り上げ、155枚の”ホネ”写真を掲載した写真集だ。全てモノクロで撮影され、背景は黒一色、といったこだわりよう。とことんシンプルで、小粋なブック・デザインだ。これに、著者、獣医師である東野晃典氏の詳細な解説が加わり、サイエンスとアートの融合を見事に果たしている。ヘンな頭のシュモクザメ(ハンマーヘッドシャーク)の頭蓋骨は、やっぱりヘンな形だし、ワニの顎は物々しい。勇ましいトラも、ホネになると少しまぬけ。カエルの後肢がかわいい。マナティーなど、普段あまり見ることのない動物のホネも見ることが出来る、楽しい写真集だ。
「動物の骨格は、生きていくための能力を形として凝縮させたものであり、自然淘汰が生み出した精巧なしくみと、機能美をかねそなえた究極の装置であるといえるのだ」と東野氏は語る。運動のために無駄を削ぎ落としたホネの形状は、スタイリッシュで格好よく、走り、飛び、泳いだ在りし日の姿を髣髴とさせる。ホネは、その動物の生きたあかしなのだ。
155枚の動物のホネがずらりと並んだこの本を眺めていると、理科室か博物館に居るような気分に誘われる。この『BONES』を開いて、薬品臭く、ちょっぴり神秘的だった理科の時間の雰囲気をもう一度味わおう。
(文=平野遼)
・【写真】湯沢英治(ゆざわ・えいじ)
1966年神奈川県生まれ。海外の写真集やファッション誌を通して写真に興味をもち、独学で撮影技術を学ぶ。広告、雑誌の分野でカメラマンとして実績を積むかたわら、シュールレアリスムをテーマとした作品の個展も多数開催している。ウェブサイト<http://www.eiji-yuzawa.com>
・【文・構成】東野晃典(あずまの・あきのり)
1976年兵庫県生まれ。東京農工大学農学部卒業。獣医師。現在、横浜市野毛山動物園に勤務。野生動物の臨床、動物学に関する啓蒙・教育活動に携わる。
骨とアートの融合
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