いよいよ最終回!『東京マグニチュード8.0』が描いたリアル(前編)
#アニメ #ノイタミナ
「ノイタミナという枠がなかったら、『M8』は作れなかったかもしれない」そう、社長も橘監督も声を揃える。
★この記事には重要なネタばれが含まれています。第10話未視聴の方はご注意ください。
高名な原作ナシの完全オリジナル作品。中1の姉・未来と小3の弟・悠貴、そして女手ひとつで5歳の娘を育てるバイク便ライダー・真理の3人が、大地震に遭遇した東京・お台場から世田谷区に戻るまでの数日間を描いた「地味」なアニメーションには、大暴れする巨大ロボットや、いかにも「萌え」といったテンプレート式のキャラクターは出てこない。だが、初回放送は午前1時00分からの放送にもかかわらず、視聴率はフジテレビ・ノイタミナ枠第1話視聴率史上1位の5.8%を記録した。
回を追うごとに、見る者の胃がキリキリと締め上げられるような展開。悠貴君の生死をめぐっては、日本のみならず海外のネット掲示板までもが紛糾した。ディザスター・フィルムの定石を覆すドラマがどのようにして生まれたのか。最終回目前のいま、ボンズの南雅彦社長とキネマシトラスの橘正紀監督に訊いた。
──そもそもの、制作のきっかけは。
南 フジテレビのプロデューサーである松崎(容子)さんが、地震にテーマをおいたアニメ企画をやりたいと、2年くらいずーっと言っていたんですよ。自分だと、たとえば近未来の時代で巨大ロボット同士の地上戦があって、建物が崩壊したところにいる市民目線でのサバイバルだったら、アニメーションとしてアリだなとか考えるのですが。でも松崎さんは軽く「ちがう」と。「南君ちがうよー」ぐらいの勢いでした。だから、最初は松崎さんの頭の中にしかイメージがない状態だったよね。
──はじめは主人公が真理さんだったということですが、どうして子どもたちに変わったんですか。
橘 そう、初期のプロットでは真理さんに当たる女性が家で待っている子どものためにお誕生日のケーキを持って帰る、という流れだったんですが、大人だと、どうやって帰るのかを熟知していたり、危険予知ができたり、物語としてはスムーズに進みすぎる。ヒーロー的な立場になってしまうんですね。それで子どもたちの目線で、親元から離れ、帰る話にしようと。それはすんなりと決まりました。
──舞台がお台場だったのは。
南 お台場っていうか、フジテレビスタートだよね。『8.0』で8チャンネル、みたいなね(笑)。
橘 どこを出発してどのルートを通るか、延々とシミュレーションしましたね。最初はお台場から東京……そのときは内地と言ってましたけど(笑)、内地のほうへ行くにはどこを渡っていけばいいかという話をして、ロケハンで歩き回って。本読み(シナリオ会議)をしていたメンバーで、まずは豊洲へ行って、銀座に向かって歩いたんです。けど、これはダメだ、ということになって。
──何がダメだったんですか?
橘 景色的に使えそうな場所がない、ランドマークがなかったんです。だったら直接芝浦埠頭に上がって、東京タワーへ行くほうが目立つよね、ということで。
──冒頭のテロップで「演出上、実際のものと描き方が異なる場合があります」とありますが、具体例で言うと?
橘 現場的にぶっちゃけて言うと、そのまま使えない建物がけっこうあったんですよ。
南 計算では「マグニチュード8.0」でも壊れない建築物が多くて。
橘 例えば、東京タワーはかなり大きな地震が起きても倒れないように作ってある。だから、活断層が足下に走っていたから倒れた、というアニメーション的な想像を加えたんです。実際に活断層が走っているかどうか調べようしたんですが、マップを見ると東京にはほとんどないんですね。ほかの県にはけっこう赤い線が引かれているのに、都内には「ない」ということになってる。
ただ、岩盤は本来、山から海に向けて深くなっていくものなのですが、東京タワー近辺は不自然に浅くなっているんですね。ということは、活断層がそこにあってもいいんじゃないか、という理屈をこねたわけです。
それと、震災時の行動で言うと、本当はじっとして動かないほうが安全なんです。これが啓蒙的なアニメだと「ここでずっと待ちましょう」と言って、自衛隊を待っているうちに話が終わってしまう。そこは「帰りたい」という心理を優先させていますね。
──検証がハンパじゃなかったようですね。
橘 お台場を脱出する場面で、炎上した橋の下を船がくぐって逃げられるかどうかを海上保安庁を訊ねたところ「いや、燃えている橋の下は絶対くぐらないですね」というので、場所を移したり。あとは、災害時にどういう活動をするのかを陸上自衛隊の人に訊いたり。「連絡系統が崩れたときは現場の判断で動く」という非常に都合のいい話を聞けて、そこはストーリーに直接活かしました。
──地震後もフジテレビは放送できていたようですが。
橘 スカイツリーに「作品の中で登場させたいのですが、よろしいですか?」と問うたところ、「ええ、絶対に壊さないでください。新しい耐震設計による制振構造ですので」と答えられました。フジテレビの本体とスカイツリーが生きていれば、放送はできると思います。
──無政府状態になったとして、最低限のライフラインは。
橘 水や食料は各自治体でけっこう保管してあるんです。いまの東京で夏になると食べ物が傷むので、そんなに何日間ももつかという疑問はあるんですが、食料を奪い合うほど飢える事態にはならないだろうと。都内でしたら3~4日ガマンすれば、ほかの県から食べ物が届きますから、心配することはないというのが識者の意見です。むしろ家に帰るまでの二次災害が大きな問題になってくる。あとは帰宅困難者ですね。そういう人たちがいっせいに動き出すと都内で混乱が起きる。
──4話では未来ちゃんがトイレで苦しむ場面がありました。普通のトイレは機能しなくなるんですか?
橘 内閣府の池内先生という方が中国の四川省の地震が起きたときに現地へ飛んだのですが、とにかく水洗トイレが流れなくなり、たいへんな臭いになると言っていました。溢れてるんだよ、って。阪神淡路大震災のときは、学校に泊まっている人がプールの水を運んでいって掃除したというエピソードがある。やっぱり水がなくて、やったらやったままになっちゃうので。
──巨大地震特有の現象は。
橘 液状化現象は神戸のポートアイランドでも大規模な範囲で起きていました。地面が1mくらいがくんと下に下がったそうです。映像については過去に新潟空港で発生したものが残っていたので、それを参考にしました。
クラッシュ症候群に関しては、四川で瓦礫の下から救助された直後に亡くなった男性のインパクトが強かったので、物語にきちんと入れようと思っていたんです。残念ながらあの次回予告(9話ラストの10話予告)のところだけになってしまいましたけれども。
──つまり、悠貴くんの死因はクラッシュ症候群ではない?
橘 そうですね。下敷きになっていたからではなく、東京タワーの瓦礫が致命傷です。
(後編につづく/取材・文=後藤勝)
●たちばな・まさき
アニメ演出家。東映アニメーションで『ドラゴンボールGT』『ドクタースランプ』などの演出助手を務めたのち、フリーに。プロダクションI.G.で「攻殻機動隊」シリーズの演出に携わり、今回ノイタミナ『東京マグニチュード8.0』監督に抜擢される。キネマシトラス所属。
●みなみ・まさひこ
アニメプロデューサー。ボンズ代表取締役社長。サンライズで制作進行、制作デスクを務めたのち、98年にアニメ制作会社「ボンズ」を設立。『鋼の錬金術師』『交響詩篇エウレカセブン』シリーズや、劇場公開作品『カウボーイビバップ 天国の扉』などハイクオリティな作品を次々に発表している。
東京マグニチュード8.0 (初回限定生産版) 第1巻 [DVD]
DVDは10月28日より。
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