電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』
#映画 #洋画 #パンドラ映画館
アビー(キャサリン・ハイグル)と恋愛カウンセラーのマイク
(ジェラルド・バトラー)。この直後にアビーに惨劇が起きる。
後ろに見える小僧がリモコン、そしてアビーの命運を握ってます。
©sonypictures
金髪女優キャサリン・ハイグル演じるヒロインのアビーは、ローカルTV局の独身プロデューサー。ジェラルド・バトラー扮する恋愛カウンセラーに「セクシーになれる」と勧められ、ワイヤレスバイブ付きパンティをはき、そのままうっかりレストランに出掛けてしまう。どんなうっかりだよ、とツッコミつつも、その後の展開はお察しのとおり。またまた、うっかり落としたバイブのリモコンを見ず知らずの男の子が拾ってしまい、万事休す。リモコンを手にした男の子は、まずスイッチを入れるもの。クライアントの接待という大事な席で、アビーは思わず七転八倒するハメに……。これ、9月18日(金)より公開される恋愛コメディ『男と女の不都合な真実』の1シーン。ウィーン少年合唱団もビックリの内容だ。
AVの世界では散々扱われてきたネタだが、ハリウッドのメジャー作品で、バイブ付きパンティに悶えるヒロインというのは初めてだろう。リモコンを悪者に奪われた鉄人28号が街で大暴れするシーンに子供心がときめいたことを思い出すではないか。なぜ、男子は、こうもリモコンが好きなのか? ま、それは別問題として、レストランや映画館では携帯電話とバイブの電源はオフにしておきたいもの。中川翔子に言われずとも守りたい、大人のマナーである。
さて、ロマンチックコメディの世界では、ロブ・ライナー監督の『恋人たちの予感』(89)でメグ・ライアンが他のお客さんが見てる前でオーガズムを感じるふりをしてみせたシーンが、長らくエロ表現の金字塔となっていた。それに続く第2のビッグウェーブが、ファレリー兄弟の『メリーに首ったけ』(98)でキャメロン・ディアスが白いヘア・ジェルを使って前髪をおっ立てるシーン。赤面ネタに果敢に挑んだ2人の先輩金髪女優に続いて、キャサリン・ハイグルも本作でエロ表現のK点越えを果たしたことになる。”ロマコメの新女王”と呼んで差し上げたい。女王さまたるもの、下ネタもスコーンと明るく突き抜けて演じられなくてはいけない。でも、やり過ぎると観客からドン引きされてしまう。女王さまの座に就くのは、なかなか至難の道なのだ。
など男性目線での具体的なアドバイスをする
マイクだが、恋をしたアビーがどんどんキレイ
になっていく過程にドギマギ。一応、ロマコメ
なんです。©sonypictures
キャサリン・ハイグルは『幸せになるための27のドレス』(08)のようなお上品なコメディに主演した後も、本作のように体を張って笑いを取りに行く姿勢がナイスだ。ジャド・アパトー監督の『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』(07)では、酔った勢いで知り合ったばかりの小デブ男(セス・ローゲン)とベッドインする過激なHシーンを演じている。障害者オリンピックを題材にした、ファレリー兄弟製作のキワキワ・コメディ『リンガー! 替え玉★選手権』(05)でもヒロインを演じており、おバカ映画に積極的に出演しているところが好感度、大。
なぜ彼女はここまで体を張るのか。『ロズウェル 星の恋人たち』『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』などのTVドラマで注目を集めたハイグルだが、『ノックトアップ』が全米で大ヒットするまでは映画界でのキャリアはスティーブン・セガール主演の『暴走特急』(95)や『チャイルド・プレイ/チャッキーの花嫁』(98)といったB級映画のヒロイン止まりだった。TV出身の俳優は、ハリウッドでは容易にステップアップできないのだ。ジェームズ・キャメロン製作総指揮の人気ドラマ『ダーク・エンジェル』でブレイクしたジェシカ・アルバも、結局のところメジャー映画では『ファンタスティック・フォー 超能力ユニット』(05)でのエロ要員がやっと。キャサリン・ハイグル並みの美人女優はいくらでも代わりがいるのが、ハリウッドの層の厚さだ。
そこでキャサリン・ハイグルは本作で、マネージャーである母親ナンシーと共に製作総指揮に名を連ねた。1978年生まれと”遅咲き女優”の彼女にとっては、今が勝負どころ。バイブ付きパンティは、本人から進んでのチャレンジだったわけだ。「37回も撮り直したのよ。ここまで体を酷使した演技はこれまでなかったわ」とハイグルは話している。日本でもこういう下ネタをサラリとできちゃう女優さんが登場してほしいものである。真木よう子が育児休業している今、若手女優にとってはチャンスだと思うのだが。
また、本作をただのエロコメにしていないのが、恋愛カウンセラー・マイクを演じたジェラルド・バトラーの存在。『300 スリー・ハンドレッド』(07)の腹筋が見事に割れたマッチョボディから、今回はメタボ気味のだらしない中年体型にシェイプダウンし、犬猿の仲の男女が次第に惹かれ合うというラブコメのお約束的ストーリーにリアリズムを与えている。恋愛カウンセラーという、うさん臭い肩書きを名乗るマイクのだらしない体型からは、フリーランスの俺っちは時流にとことん流され、社会のニーズに合わせて生き延びてきましたぜ……という人間臭が漂う。
TV局ではさんざんアビーに悪態を突き、番組中では下ネタのオンパレードのマイクだが、すべては視聴率を残すことしか求められていない世界で生き抜くために作り出した営業用のキャラクターであることが後半明らかになっていく。家に帰り、まだ女の子とのフォークダンスに緊張する年頃の甥っ子には「女の子には誠実であれ」と優しく説く。浮き世のアカにまみれた営業用の顔と身内には真っすぐに育ってほしいと願う素顔とのギャップにホロリとさせる。他人の恋愛には雄弁なくせに、自分のことになると及び腰になる”口だけ番長”のマイク。回想シーンはなくとも、過去に手痛い失恋をしたことがじんわりと伝わってくる。
さて、アビーは”理想の恋人像”の条件とぴったりのイケメンくんと出会い、大喜び。しかし、恋愛において”理想像”を持ち出すところが、いかにも恋愛ビギナー。恋愛でも仕事でも理想を口にしているうちは、得意なコースに甘く入ってきた球しか打てない打率2割足らずの2流バッターですよ。マジで恋愛したいのなら、デッドボール覚悟で打席に入りましょう。痛い思いをしてナンボです。
(文=長野辰次)
●『男と女の不都合な真実』
監督/ロバート・ルケティック 出演/キャサリン・ハイグル、ジェラルド・バトラー、エリック・ウィンター、マイケル・ヒギンズ、ニック・シーサー、ケヴィン・コノリー、シェリル・ハインズ 配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 9月18日(金)TOHOシネマズ六本木ほか全国ロードショー R15+
<http://www.sonypictures.jp/movies/theuglytruth/>
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