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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第47回

ナインティナインがあえて引き受ける「テレビ芸人としてのヒーロー像」

99allnight.jpg『ナインティナインのオールナイトニッ本』
ヨシモトブックス

 9月9日に発売された書籍『ナインティナインのオールナイトニッ本 vol.1』(ヨシモトブックス)がすさまじい売れ行きを見せている。発売当日には重版となり、すでに累計12万部を突破したという。

 この本は、1994年から続く人気ラジオ番組『ナインティナインのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)の15周年を記念して発売されたもの。この爆発的な売れ方は、この番組に対するリスナーたちの根強い支持を反映していると言えるだろう。

 現在のテレビお笑い界は、中心なき時代を迎えている。日本中の誰もが見ているような国民的人気を誇るお笑い番組というものはもはや存在しないし、若者の間で圧倒的な支持を受けている芸人というのが、特に1組に絞られるような形で見つかるわけでもない。ビートたけし以降、あるいは松本人志以降、お笑い界には時代を背負って立つ「カリスマ芸人」と呼べるような人物は現れていないのである。

 そんな時代の流れの中で、ポストダウンタウン世代でただ1人、「みんなのヒーロー」であることを引き受けて孤独な戦いを続けている男がいる。それが、ナインティナインの岡村隆史だ。

 ナインティナインは、若手芸人の登竜門だった深夜番組『新しい波』で、フジテレビのディレクターを務めていた片岡飛鳥にその才能を見いだされた。その後、『めちゃ×2イケてるッ!』ではレギュラー陣の最前線に立って番組を引っ張っていった。特に、特別企画の「岡村オファーシリーズ」では、岡村は抜群の運動神経を生かして、フルマラソン完走、具志堅用高とボクシング対決、EXILEのライブに出演するなど、常識外れの活躍ぶりを見せた。岡村が起こした奇跡の数だけ番組は大きくなり、現在では『めちゃイケ』はフジテレビを代表する看板番組になった。

 岡村には、芸人としての天性の才能がある。親しみやすいサル顔と低身長、動きで笑いを取れる高い身体能力、いざというときの瞬発力と度胸、笑いに対する圧倒的な貪欲さと真面目さ。どれを取ってもお笑いを志す人間の資質としては十分である。だが、彼が芸人として最も偉大な点は、それらの才能の上にあぐらをかかないで、どこまでもプロのテレビ芸人であろうと意識を高く保っている、という点にある。

 岡村には、漫才やコントのネタを作り込んだり、テレビの企画について細かく注文を出したりするようなこだわりはあまりない。だが、与えられた仕事には己の全てをぶつけるし、求められたなら中心なき時代の「みんなのヒーロー」の立場でさえもあえて引き受ける。そして、内面的にストイックで根暗な部分はあっても、それをテレビでは決して表に出さない。だからこそ、そんな彼がラジオでぽつりと本音をこぼしたり弱みを見せたりする姿が、一部のお笑いファンには熱く支持されているのである。

 もちろん、そんな岡村を陰で支えているのが、彼に全幅の信頼を寄せて優しく「岡村さん」と”さん付け”で敬語ツッコミをする相方の矢部浩之であることも忘れてはならない。ナインティナインの2人の優しげなイメージは、矢部のゆったりした構えから来ている部分が大きいだろう。

 彼らは、明石家さんま、笑福亭鶴瓶をはじめとする先輩芸人たちとも親交が深く、志村けんやとんねるずにもその才能を認められている。また、後輩の若手芸人などと共演しても、相手の良さを引き出そうと常に温かく接しているのがうかがえる。岡村は、同世代の芸人の中で頭一つ突き抜けた存在ではあるが、決して孤高の英雄ではない。テレビの枠の中では、誰からも愛される優しさあふれるヒーローなのだ。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)

●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は2009年11月下旬予定。ご期待ください。

イベント告知
・ラリー遠田presents
「お笑いトークラリーinネイキッド」
【日時】9/20(日) OPEN18:00/START19:00
【会場】ネイキッドロフト
詳細<http://owa-writer.com/2009/08/920in.html>

・ラリー遠田presents
「第2回お笑いトークラリー」
【日時】10/7(水) OPEN18:30/START19:30
【会場】ロフトプラスワン
【出演】ラリー遠田、業務用菩薩
【Guest】大谷ノブ彦(ダイノジ)
詳細<http://owa-writer.com/2009/08/1072.html>

ナインティナインのオールナイトニッ本

ビタースイートサンバに乗せて。

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●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第46回】インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」
【第45回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける
【第44回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感
【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる
【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ
【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末
【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」
【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心
【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは
【第37回】島田紳助 “永遠の二番手”を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」
【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは
【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」
【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」
【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由
【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」
【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」
【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」
【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か
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【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」
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【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由
【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来
【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代
【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中
【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性
【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」
【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在
【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは
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【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

最終更新:2013/02/07 11:07
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