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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第46回

インパルス タフなツッコミで狂気を切り崩す「極上のスリルを笑う世界」

impuls_main.jpg『おちゃらけソーセージ』R and C Ltd.

 9月1日、コント日本一を決めるお笑いイベント「オロナミンCキングオブコント2009」の決勝進出者が発表され、東京・赤坂サカス広場にて記者会見が行われた。

 しずる、ジャルジャル、ロッチといった『爆笑レッドシアター』(フジテレビ系)で活躍する若手芸人たちが並ぶ中に、彼らの少し上の世代にあたるインパルスの姿もあった。記者会見の席でインパルスの板倉俊之は「1,000万円取ったら赤と白のボーダーハウスを建てたい」などと終始ボケを連発していたという。板倉は、どんな状況にあってもマイペースに淡々とボケるのを信条としているところがある。周りの空気に流されないでいられるのは彼の大きな魅力だ。

 芸人の書く小説を読むと、その人の脳内を覗き見するような感覚が味わえる。6月29日に出版された板倉の書き下ろし小説『トリガー』(リトルモア)を読むと、想像を絶するほどクールでハードボイルドな彼の内面がうかがえる。

 この小説では、「射殺許可法」が制定された近未来の日本を舞台に、国から発砲を許可された「トリガー」と呼ばれる人々の数奇な運命が描かれている。サバイバルゲームを趣味とする板倉の銃器に対する徹底したこだわりと共に、マナーの悪いやつは撃ち殺せばいいんだという彼独自の倫理観に貫かれていて、処女作とは思えないほど迷いのない筆致に圧倒される内容となっている。

 板倉が手がけているインパルスのコント作品にも、同じような臭いが感じられる。怪しく危険な香りのする設定のもとに、板倉は自分の価値観を無理矢理押し通す狂気に満ちた人間を演じる。いつも世の中を醒めた目で見ている皮肉屋としての彼のクールな内面が透けて見えるようだ。

 だが、それでも、インパルスのネタは決して見る者を置き去りにはしない。例えば、初期の代表作「取り調べ」では、どう見ても日本人なのに「ヨハン・リーベルト」と名乗る謎の男が、キセルで捕まって取り調べを受ける様子が描かれている。ヨハン・リーベルトとは、浦沢直樹の人気漫画『MONSTER』に出てくる冷酷無比な殺人鬼である。だが、このコントは、そんな元ネタを知らなくても楽しめるようになっている。ヨハンを名乗って強気に不気味な発言を繰り返していた男が、追い詰められて少しずつ真実を白状していく姿は、誰が見ても笑えるものになっている。

 また、そんな板倉の作り出す狂気に満ちた世界を、一気に日常に引き戻すのはツッコミの堤下敦の役割だ。堤下の安定感のあるツッコミは、板倉のミステリアスな言動を一刀両断して、あっという間にマヌケなものにしてしまう力強さを持っている。このタフなツッコミがあるおかげで、板倉の繰り出すボケが単なる独りよがりにならなくて済んでいるのだ。

 危ない世界をわかりやすい形で提供してくれるインパルスのコント。それは、安全が保証された空間で極上のスリルを手軽に味わえる、遊園地のジェットコースターのような笑いなのである。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)

●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は2009年11月下旬予定。ご期待ください。

イベント告知
・ラリー遠田presents
「お笑いトークラリーinネイキッド」
【日時】9/20(日) OPEN18:00/START19:00
【会場】ネイキッドロフト
詳細<http://owa-writer.com/2009/08/920in.html>

・ラリー遠田presents
「第2回お笑いトークラリー」
【日時】10/7(水) OPEN18:30/START19:30
【会場】ロフトプラスワン
【出演】ラリー遠田、業務用菩薩
【Guest】大谷ノブ彦(ダイノジ)
詳細<http://owa-writer.com/2009/08/1072.html>

おちゃらけソーセージ

初期のインパルス

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●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第46回】アンタッチャブル 「過剰なる気迫」がテレビサイズを突き抜ける
【第45回】おぎやはぎ 「場の空気を引き込む力」が放散し続ける規格外の違和感
【第43回】志村けん 「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる
【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ
【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末
【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」
【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心
【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは
【第37回】島田紳助 “永遠の二番手”を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」
【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは
【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」
【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」
【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由
【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」
【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」
【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」
【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か
【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは
【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が”竜兵会”で体現する「新たなリーダー像」
【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」
【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」
【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由
【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来
【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代
【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中
【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性
【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」
【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在
【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは
【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ
【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者
【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略
【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由
【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」
【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃
【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力
【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」
【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児
【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」
【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ
【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」
【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」
【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」
【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」
【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

最終更新:2013/02/08 12:19
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