純・木造駅舎の記憶と記録とノスタルジー 消えゆく鉄道遺産『木造駅舎の旅』
#鉄道 #サブカルチャー
草深く生い茂る山奥、単線の鉄道が田んぼの中を走る。1時間に1本しか電車が通らないような線路の横に、無人の木造駅舎がひっそりとたたずんでいる。明治5年に新橋~横浜間に鉄道が開通してから137年、当時6駅だった日本の駅も、現在は9,700駅を超えている。その大部分が改装されて、開業時の姿を留めているものも少なくなっている。
この本『木造駅舎の旅』は、全国から板壁が無塗装の駅舎88駅を選び、撮影した写真集だ。ほとんどが地方の無人駅で、中には風雨に晒され傷んだものも見受けられるが、それがかえって程よい風合いを醸し出している。それぞれ歴史と風格があり、行ったこともないのに懐かしい気分に誘われる。
北は北海道稚内付近の宗谷本線、雄信内(おのっぷない)駅から、南は九州薩摩・肥薩線、築後100年を超える嘉例川(かれいがわ)駅と、実に幅広い。北海道の駅は、扉が風雪に耐えられるように頑丈に造られていて、決まってその上に庇がついている。南の駅は風通しよく、ヤシの木なんか植わっていたりと、地方ごとに特色があって面白い。他にも、寅さんが立ち寄った岡山の美作滝尾駅や、松本清張『砂の器』に登場する秋田の羽後亀田駅など、まつわるエピソードは数知れず。鳥取・若桜線の隼駅は、スズキの大型2輪車「隼」オーナーの聖地となっているのだという。
しかしやはり、木造の無人駅に付きまとう問題は少なくない。廃線、採算、老朽化……、戦前から半世紀以上頑張ってきた木造駅舎もいつかは建て替えられ、消え行く運命にある。この純・木造の88駅も、ひとつ、またひとつと減っていくだろう。この本は、そんな木造駅舎の記憶とも記録ともいえる本だ。『木造駅舎の旅』を小脇に抱え、都会から遠く離れたところに屹立する木造駅舎の最後の雄姿に会いに行こう。
(文=平野遼)
●米屋浩二(よねや・こうじ)
1968年山形県生まれ。東京工芸大学写真学科卒業。鉄道と人の結びつきをテーマに撮影を続ける。アジア8ヶ国の鉄道を撮影した『Asian Train Love』で2003年富士フォトサロン新人賞を受賞。近著に『ニッポン鉄道遺産』など。日本写真家協会(JPS)会員。
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