週刊誌ジャーナリズムの最前線で闘う男たちのドラマ『週刊誌は死なず』
#週刊誌 #元木昌彦
忌野清志郎、マイケル・ジャクソン、山城新伍……と、多くの有名人・芸能人が鬼籍に入った2009年上半期だったが、雑誌の世界でも、休刊・廃刊が相次いでいる。「諸君!」「広告批評」「STUDIO VOICE」と、一時代を築いた名物雑誌がその墓標に名を連ねている。出版業界にとっての”厳冬期”は、まだまだ続きそうだ。週刊誌もまた、例外ではない。「週刊文春」「週刊朝日」「週刊新潮」「週刊現代」「週刊ポスト」、雑誌といったらコレ、とすぐ思い浮かぶようなメジャー誌も、軒並み部数を減らしている。きわめて危機的な状況であるという。
この『週刊誌は死なず』は、90年代半ば、「週刊現代」が150万部まで部数を伸ばした時期の編集長であった”ヘア・ヌードの名付け親”元木昌彦氏が、自身の体験をもとに、週刊誌ジャーナリズムの現状を見つめ、内部外部の諸事情を赤裸々に書いた一冊だ。週刊誌のその本位とあるべき姿、そして週刊誌が生き残る道を、かつて出版業界が盛んだった頃を振り返りながら、真摯に、わかりやすく語っている。熱気のあった当時の息づかいを肌に感じられるような文章だ。巻末には、評論家・佐藤優との対談も掲載されており、読み応えのある内容となっている。
去る09年5月15日、上智大学にて、週刊誌10誌の現・前・元編集長らが一堂に会する「闘論! 週刊誌がこのままなくなってしまっていいのか」シンポジウムが開催された。ゲストに田原総一朗氏、佐野眞一氏、田島泰彦氏を招き、400人を超える人が集まり、会場は熱気に溢れかえった。本書1章では、そのシンポジウムの様子が描かれている。「週刊新潮」誌上にて、2月5日号から4週にわたって掲載された「87年、朝日新聞阪神支局襲撃事件」誤報問題をうけて、各登壇者が舌鋒鋭く論じている。
雑誌が売れなくなっている背景には、雑誌がまず「暇つぶし」以上の価値を創り出せていないことにあるのだという。ネットや携帯の普及により世相が変わってきたことで、旧態依然とした雑誌の体質が浮彫りになって、部数を直撃している。10年前と比べると、下がり幅の大きいところで4~5割の部数減となっている。
また、司法の圧力による出版社側の自主規制にも問題がある。出版社は高額な賠償金の支払いを恐れて、臆病になっている。当局の発表に依らない独自の取材をし、タブーに切り込むことこそ、大新聞社に出来ない週刊誌の本義であり、そこにしか生き残る道はない、と元木氏は言う。週刊誌ジャーナリズムが衰退していけば、多様な言論がなくなり、われわれ国民の知る権利も狭められていく。
このウェブの世界だって安穏としていられない。プロバイダーの大元が締め上げられれば、ネット上の自由な言論など、新疆ウイグル自治区の報道を許さない中国のように、”大きな力”によって、あっという間に規制されてしまう。
雑誌が休刊することは、市場経済の結果とはいえ、私たちの知る権利がひとつ失われてしまうことになる。長年愛読してきた雑誌がなくなるのはさびしくもある。相次ぐ休刊に誤報問題……、週刊誌ジャーナリズムの最前線で何が起こっているのか。この本はきっと、その世界を覗くための窓となってくれることだろう。
(文=平野遼)
●元木昌彦(もとき・まさひこ)
1945年11月24日生まれ。月刊「現代」「週刊現代」編集部を経て、「FRIDAY」編集長、「週刊現代」編集長。インターネットマガジン「Web現 代」創刊編集長の後、三推社専務取締役。その後「オーマイニュース日本版」で編集長、代表取締役社長を務める。現在、「元木オフィス」主宰。主な著書に『週刊誌編集長』『メディアを思う日々』『新版 編集者の学校』など。
週刊誌再生の道とは?
【関連記事】 〆切が明暗分けた週 のりピー、押尾、大原まで網羅した「週刊朝日」圧勝劇
【関連記事】 年間赤字50億円!? 週刊誌「フラッシュ」の光文社に倒産危機
【関連記事】 赤報隊虚偽告白記事 批判のジャーナリストに”報復”を目論む新潮社の愚
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事