トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 志村けん「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる
お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第43回

志村けん「進化する全年齢型の笑い」が観る者を童心に帰らせる

 7月4日の東京公演を皮切りに始まった志村けん一座の舞台『志村魂4』が、7月31日に名古屋の中日劇場にて千秋楽を迎えた。「志村魂」は、志村けんが中心となって2006年から毎年行われている舞台である。4回目となる今年は、ラサール石井が演出を担当し、テレビでおなじみのバカ殿コントやショートコントから、志村けんの津軽三味線生演奏に松竹新喜劇「人生双六」まで、3時間を超えるボリュームたっぷりの内容だった。

 今の20代後半~40代くらいの世代の人たちは、子供時代にテレビでザ・ドリフターズや志村けんのコントを見て育ってきた人が多い。彼らは、小さい頃に『8時だョ!全員集合』『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』『志村けんのだいじょうぶだぁ』といった番組を毎週わくわくしながら見ていたという記憶を持っている。そのため、ドリフや志村の生み出す笑いは「子供向け」のものだったのだというふうに思い込んでいる人もいるのではないかという気がする。

 だが、恐らくそれは正しくない。志村の出演していた『全員集合』は、最盛期にはコンスタントに視聴率が30%を超えていた「お化け番組」でもある。子供たちだけではなく、大勢の大人の視聴者にも支持されていたからこそ、『全員集合』は国民的人気番組となったのだ。

 また、私は7月6日の『志村魂4』東京公演に足を運んで、改めてそのことを実感した。大入り満員の客席に詰めかけていたのは、驚くほど幅広い年齢層の観客だった。親に連れられてきた小さい子供から、若者、中高年、お年寄りまで。年齢、性別、世代もばらばらの人たちがそこには集まっていたのだ。

 志村のコントを生で見て衝撃を受けたのは、彼のコメディアンとしてのずば抜けた存在感だった。コントを演じる上での身体能力が高く、ちょっとした動きやセリフ回しの一つ一つに隙がない。舞台上に複数の演者がいても、目線が勝手に志村を追ってしまう。頭のてっぺんからつま先までの全身が、コメディのために磨き上げられた武器と化しているようだった。

 そして、もう一つ特筆すべきは、彼の圧倒的なサービス精神である。今の志村ほどの知名度と実績があれば、何をやっても観客にはある程度は満足してもらえる。お決まりのパターンのコントをいくつか演じて無難にその場をしのぐ、ということも不可能ではなかったはずだ。

 だが、実際にはまったくそんなことはなかった。コント、三味線、新喜劇の三部構成で、観客を決して飽きさせない。ショートコントではセットも衣装もめまぐるしく変わり、これでもかというくらい笑いどころを詰め込んでいる。ひとみばあさん、変なおじさんといったおなじみの人気キャラクターも総出演しているし、客を楽しませるためなら、オナラやウンコで笑わせるような下ネタも平気で繰り出す。とにかく、力の限り客を楽しませたい、満足させたい、笑わせたいという志村の心の叫びが伝わってくるようなライブだった。

 志村けんは決して子供向けのコントをやる芸人ではない。彼のネタを見る人が皆、その圧倒的な存在感とサービス精神に魅了されて、細かいことを考えずに面白がるだけの子供の心に戻ってしまうだけである。大勢の「志村チルドレン」の期待を一身に引き受けて、今もなお一途にコントを作り続ける志村は、お笑い界に君臨する偉大なる「ゴッド・ファーザー」である。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)

●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は2009年11月下旬予定。ご期待ください。

志村けんのバカ殿様 大盤振舞編 DVD箱

一生モノ。

amazon_associate_logo.jpg

●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第42回】はるな愛 「すべてをさらして明るく美しく」新時代のオネエキャラ
【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末
【第40回】ブラックマヨネーズ  コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」
【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心
【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは
【第37回】島田紳助 “永遠の二番手”を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」
【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは
【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」
【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」
【第33回】ロンブー淳 の「不気味なる奔放」テレ朝『ロンドンハーツ』が嫌われる理由
【第32回】柳原可奈子 が切り拓くお笑い男女平等社会「女は笑いに向いているか?」
【第31回】松本人志 結婚発表で突如訪れたカリスマの「幼年期の終わり」
【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」
【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か
【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは
【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が”竜兵会”で体現する「新たなリーダー像」
【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」
【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」
【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由
【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来
【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代
【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中
【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性
【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」
【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在
【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは
【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ
【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者
【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略
【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由
【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」
【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃
【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力
【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」
【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児
【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」
【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ
【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」
【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」
【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」
【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」
【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

最終更新:2013/02/07 12:53
ページ上部へ戻る

配給映画