トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > カルチャー  > 最強批評家タッグが贈る、ゼロ年代総括誌が夏コミに登場!
「批評界の最先端は"平成仮面ライダー"にあり!」

最強批評家タッグが贈る、ゼロ年代総括誌が夏コミに登場!

fcr.jpg『Final Critical Ride』表紙は
『仮面ライダーディケイド』でヒロ
インをつとめた森カンナちゃん。

 批評界の夏がアツい。

 08年に創刊されたハードな思想雑誌『思想地図』(NHK出版)誌の異例の売れ行き、それに講談社BOX主催の次世代批評家養成プロジェクト「ゼロアカ道場」など、この1~2年でニッポンの批評・思想のシーンは大きく活気づいている。この活況の中心人物と言えるのが、上記ムーブメントを主導し、若手のトップとして君臨する批評家・東浩紀氏と、その立場を処女作『ゼロ年代の想像力』(早川書房)やカルチャーミニコミ誌『PLANETS』などの刊行で真っ向から批判した新進評論家・宇野常寛氏だ。

 90年代以降に発展した「萌え」や「セカイ系」などのオタク系作品を通じて日本型のポストモダン社会を理論化した東氏と、テレビドラマ等の幅広いコンテンツ分析を通じて「決断主義」や「バトルロワイヤル系」のはびこる00年代のシビアな社会の変化に対処しなければダメだと煽った宇野氏。いわば「論壇プロレス」的な興味を集めた二人の対立を軸にして、ゼロ年代終盤の思想・批評シーンが形成されてきたと言っても過言ではない。


 そんな激しく火花を散らした東・宇野両氏が、ついに本格的に手を組んで責任編集にあたったスペシャルミニコミ誌『Final Critical Ride』が、8月16日(日)、東京国際展示場で開催される同人誌即売会「コミックマーケット76」にて発売される。

 二人の接着剤となったのが、現在シリーズ10周年記念企画として『仮面ライダーディケイド』(テレビ朝日)が放映中の「平成仮面ライダー」シリーズ。ネットに公開された本誌の予告動画からも、まさに彼らが体を張って「平成ライダー」に賭けているさまがうかがえる。いったい彼らは、この本で何を成そうとしているのか? 東・宇野両氏を直撃した。

──なぜ「平成ライダー」で批評本を作ろうと思ったのですか?

宇野 僕は小さい頃から『仮面ライダー』が大好きで、玩具もたくさん持っていました。「昭和ライダー」については物語にはあまり興味がなくて、あの造形が好きだったんですね。あと僕は『必殺仕事人』や『スケバン刑事』とか、いわゆるB級ドラマの類も大好きで、そういう興味もあってずっと追いかけていました。そんな中、学生の頃に「平成仮面ライダー」シリーズが始まって、特に2作目の『アギト』と3作目の『龍騎』に衝撃を受けました。完成度の高いドラマや練り込まれたシナリオ展開にも魅せられましたが、なにより物語構造や設定が新しかったんです。この2作で、僕は旧『エヴァンゲリオン』的というか、「セカイ系」的というか、90年代後半的な想像力が完全に塗り替えられたと思ったんです。昔「PLANETS」にこの辺の事情を書いたことがありますが、この2作に出会ってなかったら『ゼロ年代の想像力』も書いていなかったですね。だから『ゼロ年代の想像力』では『龍騎』と8作目の『電王』では大きく取り上げましたし、単行本になるときは1章まるまる使ってシリーズの変遷を追いました。僕はずっと東さんのサブカルチャー批評を更新することを目的にしていて、同シリーズは僕にとってそのための手がかりとなった作品だったんです。ところが、なんとその東さん自身が滅茶苦茶ハマってくれて(笑)、ここ半年は会えば必ず深夜まで「ライダー」の話ばかり。10年間シリーズを追いつづけた僕から見ても引くくらいのハマりっぷりで、気がつけば東さんが最大の理解者になっていました。そして、この夏の『ディケイド』の映画がどうやらスゴいことになるらしいと聞いたとき、もうこの熱い思いを何かにぶつけずにはいられない……。そんな思いが生まれて、いてもたってもいられなくなったんです。そして、この同人誌が生まれました。

sumple.jpg『Final Critical Ride』平成仮面ライダーの軌跡
を追った”聖地巡礼”。マニアにはたまらない企画。

 僕の方は、実は子供の頃から、特撮もの、ヒーローものはぜんぜん受け付けなかったんです。それが去年、娘が保育園で『(炎神戦隊)ゴーオンジャー』(テレビ朝日系)の話を聞いてきた。それで一緒に見てみたら意外と面白い。続きの放映枠なので「仮面ライダー」も見るようになって、そういえば宇野くんも『ゼロ想』で大きく取り上げていたことだし、『ディケイド』は最初から本腰を入れて見ようと思ったんです。

 そうしたらもう大興奮です。メタフィクションだし、ライダーは変形するし。こんななんでもありのエンターテインメントがあるのかと驚きました。そこで過去の「ライダー」シリーズもつぎつぎ借りて……。この半年間で300話は観ちゃいました。

 具体的な読解ひとつひとつについては同人誌を見てもらいたいのだけど、「平成ライダー」は長いシリーズで、多様なヒーロー像を出しているので、ゼロ年代の文化シーンを語るうえで「便利」な雛形がとにかくたくさん用意されているんですね。だからじつにさまざまな問題が、ライダーの隠喩で語れてしまう。たとえば、キャラ概念の東浩紀的な理解と宇野常寛的な理解が『電王』と『キバ』の差異に現れているとか、宮台真司の『日本の難点』(幻冬舎)は『ディケイド』だとか。そんな楽しみ方ができるコンテンツはあまりない。その意味でじつは「ライダー」は批評本に相応しいコンテンツだと思います。

 でもまあ、とにかく『ディケイド』のインパクトは大きかったです。コンプリートフォームを見たときには、これはもうなにか応答するしかない、と焦りにも似た批評家魂が疼きました(笑)。同人誌はそんな流れで一気に作ったんです。

──具体的には、どんなコンテンツになっているのでしょうか?

 メインコンテンツは、ぼくと宇野くんで敢行した平成ライダーの有名ロケ地巡り、いわゆる「聖地巡礼」の記録と、同時に行われた4万字対談です。聖地巡礼では、ぼくと宇野くんがライダーの真似して飛んだり跳ねたりしているバカ企画ですが、他方対談はめちゃめちゃマジです。家族の問題、物語の問題、キャラクターの問題などなど、ライダーに託してゼロ年代の問題をいろいろ小難しく語っています。

 サブカル批評って、そういう振幅の大きさが大切だと思うんですよ。ベタとメタのそのギャップをこそ楽しんでもらえればと。

宇野 もちろん、「ライダー」以外の企画も充実しています。宮台真司さんのロングインタビューは、『日本の難点』みたいな厄介な本を記したその思想的背景に迫る、おそらくは近年の宮台さんのインタビューの中でももっともクリティカルなものでしょうし、濱野智史さんと藤村龍至さんの対談は東浩紀的アーキテクチャ論を背景に、それがどう具体的なコンテンツ生成や政治的決定に影響を及ぼすかというかなり本質的な議論になっていると思います。他にも、『ヱヴァ破』や『1Q84』(村上春樹著/新潮社)をバッサリ切ったクロスレビューなど、1ページも読み飛ばせないつくりになっています。そして驚くべきことにそのどのコンテンツのクリティカル・ポイントも冒頭のライダー対談につながっている。これが「平成仮面ライダー」シリーズの魅力ですね。まさにあのシリーズ自体がゼロ年代の総括なんです。

──本誌もさることながら、豪華な特典CDが付いてくるということですが。

宇野 以前から僕と東さんで、ときどきイベント用のトークコンテンツをやっていたんですよ。タイトルは「決断主義トークラジオAlive」。もちろんタイトルはTBSラジオの某番組へのリスペクトを込めてつけさせていただきました。「Alive」は『龍騎』の主題歌『Alive a Life』にも引っかけています。で、今回はその第3弾を収録したCDが付録になります。今回はついにゲストとして、本家のラジオ番組のパーソナリティである鈴木謙介さんに出てもらいました。わざわざ本家をリミックスしたパロディ曲までつくってもらって、どうせだったらと濱野智史、荻上チキと親しいところを急遽召還して盛り上げようと思ったんですが……。その結果かなり予想外な方向に……。

 いやあ、あれはねえ……。いまでも微妙に販売を後悔しているコンテンツですね。しかも全員が後悔してますね(笑)。とにかく、論壇プロレス好きにとって必聴な内容であることは保証しますよ! それ以上はノーコメント!

──「ゼロアカ道場」も終結し、東さん・宇野さんを意識したさらに若い世代からの動きも出てきていますね。ゼロ年代最後の夏に、この『Final Critical Ride』を送り出す意義や、意気込みのほどはいかがでしょうか?

 ぼくは93年から批評家をやっていますが、ゼロ年代は、90年代以上に思想・批評に逆風が吹いていた時代だったと思うんです。先行世代はつぎつぎ倒れ、みなが後退戦を強いられていた。でもそんなゼロ年代も終わり、少しずつですが風向きが変わってきている。思想地図も売れているしゼロアカも話題を集めたし、『Final Critical Ride』みたいな同人誌も作れるようになった。

 来年から始まる10年代には、そうやって力を蓄えた「新しい批評」が、相応の影響力を駆使し、ちゃんと世の中を変えられるようにしなければならないと思っています。いまはまだ言えないのですが、来年に向けて、二の手、三の手も用意していますので、ご期待ください。

宇野 この本は言ってみれば『セロ年代の想像力』の直接的な続編でもありますし、もっと大きな次元では『思想地図』誌を中心とした新しい批評の流れの最前線を切り取ったものでもあります。そして、その中心テーマになぜか「仮面ライダー」が据えられている。現代の批評は、ここまで自由になっているしそしてそこにはまったく新しい世界が広がっている。こうした一連の動きを連動させて次の10年は実際に社会を、システムを変える力にしたい。そう考えています。とりあえず、「ライダー」が好きな人もそうでない人も、手にとってください。一読すればここで僕らの言ったことの意味がおわかりになるかと思います!

『Final Critical Ride』 
A5版64頁 頒価1,000円
コミックマーケット76 2009年8月16日(日)
東地区 “M” ブロック 23b 波状言論
東地区 “M” ブロック 22b 第二次惑星開発委員会にて発売
http://www.geocities.jp/wakusei2nd/fcr.html

●東浩紀(波状言論)
http://d.hatena.ne.jp/hazuma/

●宇野常寛(第二次惑星開発委員会)
http://www.geocities.jp/wakusei2nd/

仮面ライダーディケイド Volume.3

これを観ずにはゼロ年代は語れないっしょ

amazon_associate_logo.jpg

【関連記事】 「生きた”小さなメディア”を作れ」若手評論家が語る「新聞・雑誌の死後」
【関連記事】 “松本人志以降を総括する”インディーズ誌「PLANETS」お笑い批評特集
【関連記事】 「ヤンキー論」に必ずつきまとうナンシーの影を追っ払え!

最終更新:2009/08/13 16:00
ページ上部へ戻る

配給映画