「すべてをさらして明るく美しく」はるな愛が体現する新時代のオネエキャラ
#お笑い #この芸人を見よ! #はるな愛
はるな愛が、8月4日放送の『魔女たちの22時』にて、3カ月で10.4キロのダイエットに成功したことを発表した。エステティックサロン「たかの友梨ビューティクリニック」の協力のもとでダイエット企画に挑戦。メタボ体型を卒業して、見事なくびれを披露していた。
はるな愛は、2007年末頃から口パクで松浦亜弥の物真似をする「エアあやや」のネタをテレビで披露。『あらびき団』などの番組に出演したことから人気に火が付き、一気にブレイクを果たした。その後もバラエティ番組を中心に活躍の場を広げている。
彼女が現在まで人気を保っている最大の理由は、どんな企画にも柔軟に対応する優れたバランス感覚にある。はるなは若い頃から水商売の世界に足を踏み入れ、客を楽しませるためのノウハウを実地で学んできた。また、歌手やタレントとして何度も芸能界に関わり、そこで自分がどう見られているのか、どう振る舞うべきなのかを研究していった。そういった場所で積み上げてきたものが、ブレイク後に一気に花開いたのではないだろうか。
テレビの世界では、彼女のようなタイプの人はいったん「おネエキャラ」として扱われることになる。見た目が良くても悪くても、まずは一種のゲテモノ、キワモノとして人々の好奇の目にさらされてしまう。おすぎもピーコもIKKOも、まずはそういうポジションのタレントとして芸能界デビューを果たしている。
だが、本当の勝負はそこから始まる。彼女たちが単なる一発屋を超えて生き残るためには、視聴者のニーズに合わせて戦略的に自らのキャラを打ち出していくことが不可欠となる。
この点で、はるな愛が見せた立ち回りは見事だった。彼女は「松浦亜弥に憧れるニューハーフ芸人」の地位にとどまらず、性同一性障害に悩んだ過去を持つ人間、都内にお好み焼き屋などの店舗を複数持つ敏腕実業家、芸能界の裏事情に通じる情報屋など、さまざまな顔を持っていた。そして、企画に合わせてそれぞれの要素を効果的にアピールすることで、少しずつ人気を獲得していった。
しかも、はるながすごいのはこれだけではない。彼女は、事あるごとに自分がいかにがんばってきたかを強調し、本物の女に近づくために努力を重ねてきたかということを熱く語ってきた。ここまでは「おネエキャラ」としては割とありがちなパターンだ。
だが、彼女はここからさらに一歩踏み込んで、『ロンドンハーツ』(テレビ朝日)などのバラエティ番組で、そういった彼女のメンタリティそのものをネタとしていじられることも堂々と受け入れてみせたのである。
彼女は、バラエティタレントとして、手持ちの使える武器はすべて使うという覚悟をきっちり決めている。その点こそが、はるなが他のおネエキャラと一線を画するところである。
彼女は、「大西賢示」という本名を隠さない。男っぽい声質を隠さない。興味本位の視聴者の目線を受け入れながらも、あくまで明るく美しく生きようとする姿勢を崩さない。
性同一性障害を重苦しいトラウマとして考えるのも、オカマをただの奇人変人扱いするのも、おネエキャラに対するとらえ方としてはもうだいぶ古臭い気がする。はるな愛は男と女の壁を超越した存在であると同時に、旧来のおネエキャラの枠を跳び越えた越境者でもあるのだ。
(文=お笑い評論家/ラリー遠田)
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●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第41回】明石家さんま テレビが生んだ「史上最大お笑い怪獣」の行く末
【第40回】ブラックマヨネーズ コンプレックスを笑いに転化する「受け止める側の覚悟」
【第39回】笑い飯 Wボケ強行突破に見る「笑わせる者」としての誇りと闘争心
【第38回】笑福亭鶴瓶 愛されアナーキストが極めた「玄人による素人話芸」とは
【第37回】島田紳助 “永遠の二番手”を時代のトップに押し上げた「笑いと泣きの黄金率」
【第36回】東野幸治 氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは
【第35回】ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」
【第34回】FUJIWARA くすぶり続けたオールマイティ芸人の「二段構えの臨界点」
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【第30回】はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」
【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か
【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは
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