「介護」「引っ越し」「健康食品」……アノ業界の生死をわける条件(後編)
#企業 #ビジネス
●冷凍食品業界 『冷凍食品新聞』山本純子編集長
「加ト吉」「ニチレイ」に続け! 海外展開が大手の主流に
冷凍食品に限らず、食品業界は不況でいきなりガクンと落ちることはない業界です。業界トップ10に入るメーカーを見ても、非常に厳しい環境下にあった昨年度でも、ほぼ横ばいか数%減止まり。中には102%というところもあります。ただ、強い業界だといっても少子高齢化でパイそのものが縮小しているので、競争に負けた場合は事業の縮小や、去ることを余儀なくされる企業も多くなってくるでしょう。冷凍食品売り場をよく見ると、少なくとも15社程度のブランドがあるのに驚くと思います。冷食は業務用も含めあらゆる食品分野に及ぶため、700社程度とメーカー数が多いですが、業界内で競争ばかりせず、再編が必要だという声も高くなっています。
大手の企業は海外にも目を向けています。すでに海外で日本向け商品を作っている企業は多数ありますが、今後は海外で現地やその他の国々向けの冷食を作る企業がさらに増えてきます。まず、「加ト吉」が得意の冷凍うどんやフライ類で海外に打って出ています。「ニチレイフーズ」「味の素冷凍食品」「日本水産」は中国やタイを中心に生産拠点があり、日本以外の販売実績を積み上げてきています。マルハニチログループの「アクリフーズ」も中国の「煙台阿克力食品」という子会社で現地向け商品を作っています。もちろん、国内の畜肉原料調達力を強みとして、昨年度売り上げが前年度比119%という「日本ハムデリニューズ」のような企業もあるように、国産に対する安心感に訴える商品は今後も根強いでしょう。
食品業界は、堅実にノウハウを積み重ねてきた業界。厳しい企業があるとしても、統合の形で生き残っていけるのではないかと思います。
●健康食品業界 『健康食品新聞』山内洋行編集長
機能の裏付けデータなくして、健康食品への信頼回復なし
毎週水曜日発行/年間購読料2万1000円/
主な購読層:食品メーカー、大学、医療機関
コエンザイムQ10のヒットなど、健康食品市場は2005年まで右肩上がりでした。というのも、テレビ番組で紹介されると、その原料を使った商品が急激に売れる状態が続いていたからです。ところがその後、テレビ番組のねつ造問題で、健康食品そのものに対する信用が落ちてしまいました。
業界全体が厳しい中で、企業は生き残りをかけて、より確実にデータの裏付けを取るようになりました。今の食品表示制度では、厚生労働省が認可した特定保健用食品(トクホ)以外は、企業が機能性のデータを取っても消費者の目に触れるところでは公開できないという制約がありますが、企業は自主的に行い、きちんとしたものを売ろうとしています。消費者の理解が進み、安い商品に集中せずにきちんと選別しているからです。データを確実に集めることで業界内でも一目置かれているのは、「富士化学工業」や「インデナジャパン」でしょうか。そのノウハウがなく、安さだけで勝負しようとする企業は厳しいかもしれません。
「健康食品」の定義は実は曖昧で、法による規制がありません。トクホの表示許可が出ているものは約850品ありますが、審査が厳しいし、コストがかかるので中小企業は手を出しにくい。このため、中小を中心に、トクホに次ぐ規定を作ろうという動きもあります。
いま業界が注目しているのは、「日本ハム」が総合医科学研究所と共同で開発し、疲労軽減作用でトクホ申請を行っているイミダゾールジベプチドという成分を配合したドリンクです。これが認められれば、すごいことになりますよ。将来、「疲れが軽減できる!」と明記した商品が店舗に並ぶかもしれませんから。
●介護業界 『シルバー新報』川名佐貴子編集長
「コムスン」方式は通用しない。適正価格で確実なサービスを
毎週金曜日発行/年間購読料2万2020円/
発行部数6万部/主な購読層:介護保険の事業
者(在宅・施設)、行政団体、研究機関、福祉
用具メーカーなど
2000年の介護保険創設から、介護報酬のマイナス改定が続き伸び悩みましたが、今年4月の介護報酬改定での3%アップ、政府の緊急経済対策も追い風になり、少し上向きました。しかし今後の少子高齢化を考えれば、以前の「コムスン」のように、いかに効率よく介護報酬を受けるかに尽力するビジネスは、特に大手では厳しくなっていくでしょう。
上場している企業の決算を見ると、有料老人ホーム、高齢者住宅を運営している企業は介護報酬の動向に左右されにくく、比較的安定しています。介護報酬以外にも入居一時金、利用料などの収入があるし、都市部を中心に施設が慢性的に不足していることが大きい。有料老人ホームというと高所得者層向けというイメージがあるかもしれませんが、岡山に本社を置く「メッセージ」は入居金をゼロにして価格破壊旋風を巻き起こしました。現在は全国に160以上の施設を展開し、「ベネッセスタイルケア」(ベネッセコーポレーションの100%子会社)と並ぶ業界大手です。ベネッセも、対象所得層を3段階に分けて、それぞれに見合った額のホームを提供しています。
介護・福祉は不況に強い業界ですが、最も大きな問題は、需要に対するマンパワーの確保。今後は人材を集めるだけでなく、育て、定着させていくことができるかが企業にとっての強みとなっていくのではないでしょうか。それと、個人的には、もっと女性の経営者に頑張ってほしい。サービスを受ける人も、提供する人も多くが女性という業界ですから。それに、女性は日常で得たヒントからサービスを考え、ビジネスにするのがうまい。まだまだチャンスがあると思いますよ。
●プレハブ住宅業界 『日本プレハブ新聞』新谷和明編集長
建設ラッシュは二度と来ない……独自の顧客を持たぬ中小は危険
毎月5日・15日・25日発行/年間購読料
1万2600円/主な購読層:住宅メーカー、工務
店、住宅設備メーカー、官庁・地方公共団体など
不動産業界自体が落ち込んでいるので、やはり住宅業界も落ち込んでいます。土地付きで住宅を販売しているような会社は、地価の下落の影響で悲鳴を上げています。それに加えて、消費者の持ち家志向の落ち込みもあり、住宅建設戸数も減少。今年3月の決算期には、大手住宅メーカーは黒字でしたが、4月以降は業績において前年同月比でマイナスになっている会社がほとんどですし、先はまだまだ見えないです。
元気な中小企業もいくつかあります。神奈川県の「近代ホームグループ」は地域に根差した高級住宅の販売で堅調ですし、埼玉県の「富士住建」は、エアコンからカーテンまで生活に必要な設備類をあらかじめフル装備した木造住宅を据え置き価格で販売しています。コスト削減の面でかなりの企業努力をしていると思います。東京都では、「みらいテクノハウス」が世田谷区・練馬区などで高所得者層に絞った高級住宅を、「相羽建設」が東京多摩地区・西部地区で質の良い狭小住宅を販売しており、それぞれ独自の顧客層をつかんでいる住宅企業は堅調なのです。
一方、大手を見ると、大きく落ち込んでいるところはありません。大手の顧客は高所得者層が多く、安定した消費者を抱えているので、全体的に見て有利です。ただし、住宅が以前のように爆発的に建設されることはないと考えると、大手といえど、今後経営戦略を間違えると、黒字の維持は難しくなるでしょう。中小企業は、持ちこたえている社とそろそろ経営的に危ない社が二極化しています。独自の特色があり、営業力や提案力が強く、地域に根差した販売網があるところでないと、今後厳しくなるのではないでしょうか。
(構成=梅田カズヒコ、小川たまか [プレスラボ]/「サイゾー」8月号より)
資本主義崩壊最終ラウンド―2009~2013 大恐慌はまだまだこれからが本番だ!
えーー!!!
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