「ホントに儲かるの? 誰に許可を取ればいいの?」(前編)
#ビジネス #海の家
「暑くてやってらんねえ~!」なんて言いながらも、夏はやっぱり暑いほうが盛り上がる。猛暑になれば、クーラーやビアガーデンなど季節性の高い商品やサービスが売れ行きを伸ばし、行楽地を目指す観光客も増えて経済効果も期待できるのだ。そして、そんな季節サービスの代表格ともいえるのが、ビーチを彩る海の家。イモ洗い状態の海水浴場はどこもお客でいっぱいだ。ところがこの海の家、実は不可思議なルールに守られているアンタッチャブルな存在であることをご存知だろうか?
海の家の営業期間は、海開きの7月1日から8月末までの2カ月間が一般的。といっても、実際は「海の日」の祝日前後(今年は7月18日)からお盆の8月中旬までが勝負。実質1カ月で全体の6~7割を稼ぎ出さなければ儲けがないといわれる厳しい世界だ。毎日晴れてお客が押し寄せればいうことはないが、冷夏で雨が続けば目も当てられない。お天道様のご機嫌に全権を委ねるリスクの大きい商売なのだ。
営業を開始するには当然ながら、保健所を通して食品衛生法に基づく飲食店営業許可が必要となる。しかし、保健所の許可よりもっと重要でかつ面倒なのが「営業権」の存在だ。基本的に海岸は国有地で、管理をするのは国から事務委託を受けている県である(より正確にいえば、県土木部の出先機関である土木事務所など)。従ってビーチで店を開くには土木事務所から海岸の占用許可をもらう必要があるのだが、日本の浜辺は海岸法により私的利用が大幅に制限されているため、ほとんどの自治体では新規の申請に対して許可を出さず、古くからそこで生活をしてきた住民に限定して許可を出しているのが実情である。
たとえば、江ノ島海岸(藤沢海岸、茅ヶ崎海岸、鎌倉海岸などの総称)の場合、海岸の管理は藤沢土木事務所が行なっている。占用許可については、「昔からそこで生業を立ててきた方たちに限定して許可している。今後、新規に許可を出すことはない」というのが基本スタンス。
「海岸法が整備される前の時代から住み続けてきた住民に、突然今日から商売はできませんと切ってしまえば彼らの生活は立ち行かなくなる。そこで、双方が話し合いを続けてきた結果、当該住民が組織する事業組合のみを対象に、経過措置として許可を与えてきたのです」(同土木事務所)
つまり、新参者が参入するには、既得権を持つ組合にお金を払って営業権を借りるしかない。営業権は通常、1年単位で売買され、その価格も地域や海岸の立地条件により大きく異なる。例えば、全国的にも集客数が多い江ノ島エリアの海岸は「人通りの少ない場所では安いところで100万円くらいから」(江ノ島海水浴場営業組合)。「ニューカマーは300万前後の物件を狙うのが現実的」(ある組合員)との声も聞かれた。権利金には通常、建築費などは含まれていないが、中には「建物の建築や撤去、設備費用など全部込みで1000万円。希望者は手ぶらで営業を始められます」(別の組合員)というパッケージ型も。さらには「1シーズンだけでない永代権利が3000万円」(同)という”一生もの”の権利も存在する。いずれにしても高額な権利金が初期投資に必要であるということが前提となる。
他の地域はどうか。海の家を「浜茶屋」と呼んでいる新潟県の鯨波海水浴場は、「日本の渚百選」にも選ばれた北日本を代表する海岸の一つ。ここでは1年単位の売買は通常行なわれず、永代で800万円~1000万円程度が目安(某営業者)という。交渉次第ではさらに下がるという話もあるが、ともあれ江ノ島ほどは集客が見込めない場所で、1000万円規模の投資を何年で償却できるかが鍵だろう。
一方、千葉県九十九里町の片貝海岸のように、経過措置として与えてきた許可を廃止し、不法占用業者の立ち退きを強制代執行したうえで、新規の受け入れを町役場が一括管理している例もある。既得権者がいないから権利金も存在しない。条件として「地元の観光協会に加入して活動実績があるか、または市に住民登録をしてから3年以上経過しているかなど、複数の要件を満たす必要がある」(九十九里町役場)というものの、地域住民として生きる覚悟さえあれば、高額な権利金を払わずとも平等に海の家ビジネスに参戦できるというわけである。
(後編へつづく/文=浮島さとし)
海辺の小宇宙
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