じっくり観たい、夏の実力派ミニシアター系作品
#海外 #映画 #邦画 #笑福亭鶴瓶
いよいよ夏休みに突入したが、今年は『ハリー・ポッターと謎のプリンス』というビッグタイトルとの衝突を避けたのか、大作系は6月中に出払ってしまった感があり、全体的にいまひとつ寂しいラインナップ。そこで今回は、現在公開中のミニシアター系作品から上質なドラマを2本紹介。
1本目は、『ゆれる』の西川美和監督の最新作『ディア・ドクター』。物語の舞台は、住民の半分が高齢者という山間の小さな村。そこへ都会育ちの若い研修医、相馬(瑛太)がやってくる。村の小さな診療所には、伊野(笑福亭鶴瓶)という医師がひとりいるだけ。伊野はお年寄りの話し相手から救急措置まで、あらゆることを一手に引き受け、村人からは「先生」と親しまれ、神様のように崇められていた。しかし、ある日、かづ子(八千草薫)という未亡人から、先が長くないことを隠すように頼まれた伊野は、その嘘を引き受けたことがきっかけで、次第に自身が抱えていた秘密に苦しみはじめ……。
なぜ、伊野がそのような秘密を抱えるようになったのかということだが、人間の白黒はっきりしない部分を描くのが西川監督。映画のキャッチコピーは「その嘘は、罪ですか。」だが、見終わったあとに考えさせられてしまう一言だ。
常にオリジナル脚本にこだわる西川監督は、映画のアナザーストーリーとして書き下ろした小説「きのうの神さま」が第141回直木賞の候補にもなった才人で、現在もっとも注目される日本人映画監督のひとり。『ゆれる』の評判を耳にした人も多いかもしれないが、西川監督作品を未見の方は、この機会に是非。
もう1本は、主演のリチャード・ジェンキンスが今年の第81回アカデミー賞で主演男優賞にノミネートされたアメリカ映画『扉をたたく人』。
妻を亡くして以来、自分の殻に閉じこもって生きてきた大学教授ウォルターが、久しぶりにニューヨークにある別宅のアパートを訪れると、知らぬ間にシリアからの移民の青年で、ジャンベ(アフリカ伝統の太鼓)奏者タレクが暮らしていた。手違いがあったことを詫びて出ていこうとするタレクを引き止めたウォルターは、ジャンベを教わることでタレクと交流し、失っていた温かさを取り戻していく。しかし、ふとしたきっかけでタレクが警察に捕まり、不法移民として拘置所に送られてしまう……。
主演のジェンキンスは、映画ファンなら一度は顔を見たことがあるはずの名バイプレイヤーで、40年のキャリアで初めて主演を務め、見事アカデミー賞にノミネートされた。その演技を堪能したい。
『ディア・ドクター』は過疎地の医療問題、『扉をたたく人』は9・11以降のアメリカが抱える移民問題と、いずれも深刻な社会問題を下敷きにはしているが、社会派ドラマというよりも人間ドラマとして、じっくりと見入ることができる作品になっている。
(eiga.com編集部・浅香義明)
『ディア・ドクター』
『ディア・ドクター』映画評
『扉をたたく人』
『扉をたたく人』映画評
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