スパイシーだけどマイルドな存在!”怪優”麿赤兒は1日にして成らず
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舞踏集団「大駱駝艦」を主宰する一方、『ツィゴイネルワイゼン』(80)、『どついたるねん』(89)、『キルビルvol.1』(03)ほか、さまざまな映像作品で短い出番ながら圧倒的な存在感を放つ怪優・麿赤兒。現在公開中のハードボイルドコメディ『不灯港』では、漁村唯一のオシャレショップの店長として、うさん臭い魅力を発散させている。
──映像作品に出演する際は、”スパイシー麿”と自称しているそうですね。
「以前は”ちょい麿”と言っておったんですが、それじゃあ自嘲的なんで最近は”スパイシー麿”と自分のことを呼んでおります(笑)。ま、少ない出番でも薬味のようにピリリと味が出せればということですな。でも、そのピリリが意外と難しいもんですよ。結局、作品の中で役者を生かすも殺すも監督次第ですから」
──園子温監督、SABU監督、坂口拓監督、そして『不灯港』の内藤隆嗣監督、とインディペンデント系の若手監督の作品に多数出ていますが、作品選びの基準などはあるんでしょうか?
「いやぁ、そんなのないですよ。監督が才能あるかどうかなんて、やってみないとわかりませんから。『ツィゴイネルワイゼン』の鈴木清順監督みたいに名のある人ならともかく、若い監督の場合はわかんないですよ。園子温監督なんかは新人の頃から独特な世界を持ってましたけどね。若い監督たちがボクのことをどのように見ているんだろうかということが、逆に興味があるんです。ギャラは松竹梅といろいろ。梅以下のことも多いですよ(笑)。それこそ、園子温監督は今でこそ売れっ子だけど、彼が若い頃は出演者であるボクがお金をカンパしていました。新しい才能ほど、なかなかすぐには世間の評価を得られないもんです。今回の内藤監督は若いけど、脚本が面白かった。でも『不灯港』は不思議な作品だなぁ。主人公の万造は漁師なのに、すごく気障な台詞を口にする。漁師はあんなインテリなしゃべり方しないよ。あんまりシャレた台詞を言うので、観ていて思わずウヌヌヌ……となったね」
──確かにそうですね。「花瓶で枯れたいと思う花はない」なんて気障な台詞を漁師は普通口にしませんよね。
「ハハハ、あんたも映画の取材に来たのに無責任だなぁ(笑)。でも、万造が子どもに漁の仕方を教えるシーンは、クリント・イーストウッド監督の『グラン・トリノ』みたいでいいなぁと思いますよ。しかし、ヒロインをあそこまで悪女に描くのは、どうなんだろうねぇ。ボクは優しい性格だから、どこか救いがあってもよかったんじゃないかと思うんだ」
──内藤監督としては、ヒロインの美津子は赤ずきんちゃんみたいな存在で、万造に美しい思い出を残してメルヘンの国に帰っていった、というイメージを込めていたようです。
「あぁ、そういうことなのか。今わかったよ(笑)。内藤監督はデビュー作ということもあって、いろいろイメージを詰め込み過ぎたのかもしれないな。『あっ』と思わせるシーンが3つもあれば、映画って面白いものになるんだよ。映画って、全部映り込んでしまうから、切っていくことも大事。切っていくことで見えてくるものもあるからね。でも、ボクが出演作に対して、こういうふうにとやかく言うのは珍しいんだよ。長男の大森立嗣が『ゲルマニウムの夜』(05)を撮ったときも、『キリスト教徒でないお前に、キリスト教のことがわかるのか』と厳しいことを言いましたけどね。でも、今後それだけ伸びる可能性があるってこと。素晴らしいことだよ」
──次男の大森南朋さんが小学生の頃は、親子で噛み付き合うことで愛情を確認していたそうですね(09年6月7日朝日新聞『おやじのせなか』)。
「噛み付き合うことで互いにストレスを発散させてたんじゃないかな。ライオン流の子育て? そんなカッコいいもんじゃないよ(苦笑)。子どもの肌は柔らかいから、肉でも食べた気になってたんじゃないか。本気で噛み付いてしまって、泣かせてしまったこともあるなぁ」
──そうやって、2人のお子さんはすくすく育ったんですね。
「ハハハ、お陰でひねくれて育ったようですな(笑)」
──『不灯港』は”男の美学”をテーマにしていますが、麿流の美学について今日は教えていただきたいと思います。
「ボクらの世代はね、もっと汗臭かった。タバコ臭いとか男臭いとかね。酒臭いのはちょっとイヤだけど(笑)。『男の顔は履歴書だ』みたいなね、ボクらが若い頃は”クサいのがカッコいい”時代だったんです。生活臭を漂わせているのは違うよ。もっと無頼なカッコよさだよ。今はクサいのは流行らないみたいだね。草食系って言うの? よくわかんないけどさ。犯罪とかも誰がやらかすのかわからない怖さが今の時代はある。ボクと違って顔の表情ものっぺりした人が最近は多いよなぁ」
──失礼ですが麿さんの若い頃は、大森南朋さんみたいに甘いマスクだったんでしょうか?
「昔から、いかつい顔でしたよ。顔は変わりませんな。中学の頃から『オッサン』と呼ばれてた(笑)。若い頃から老けておったんです。ハハハ。でも若い頃は長髪だったんで、その分柔和には見えたと思いますよ。これはね、ボクが29歳の頃の写真です」
──うわ、すごいイケメンじゃないですか。20代の頃はずいぶんバタ臭い顔だったんですね。
「三船敏郎さんや仲代達矢さんの活躍を観ながら育ったからね。濃い顔のほうがカッコいいと思っておったんです。『七人の侍』(54)とかを観てても、三船さんたちが立っているだけで、男臭さが漂ってくるでしょう? 匂い立つような男がカッコいいとされておったんです」
──なるほど、”男臭さ”が美学ですか。”宵越しの金は持たない”というのも麿流美学ではないかと推測しているのですが……。
「持ちたくても、持っていないだけだよ(笑)」
──金粉ショーをやっていた時は、羽振りがよかったと聞いています。
「あぁ、あの頃は稼いでましたな。みんなで全国のキャバレーを回っておりました。ひとりで、ひと晩1万~1万5,000円くらい。30~40年前の1万5,000円はけっこうな額ですよ。それを40~50人でやっていたから、ひと晩で50万円くらいはバッと稼げたわけです。まるで女郎屋のオヤジのように、指をなめなめ札束を数えておりました(笑)。でも、稼いだお金は、舞台や稽古場を借りるのに全額消えたんです。もう少し、商売っ気があればよかったんだろうがね」
──他にもレコードのプロデュース、闇米の販売もされていたとか。
「よく調べたねぇ(苦笑)。『麿レーベル』といって1枚だけレコードを出しました。山下洋輔さんの初めてのレコードですよ。学生紛争中の早稲田大学構内で山下さんがピアノ演奏するのを、田原総一朗さん(当時、テレビ東京のディレクター)がテレビ放送することになり、そのときのライブ演奏を録音したんです。田原さんに『録音しま~す』とひと言断ったら、田原さんは『うぅ』としか返事しかったけど。ま、いわゆる海賊盤ですな。今だったら、犯罪ですよ(笑)。でも、セクト同士がゲバ棒で殴り合っているところに、ピアノを運んできて、山下さんの演奏中だけ紛争が収まった。生々しい臨場感に溢れたレコードですよ。このときのことはワッペイ(立松和平)が小説(『今も時だ』)にしております」
──レコードの売れ行きは、どうだったんですか?
「今では山下さんの初レコードとして、3~4万円の値が付いてるようですな。レコードができて仲間でふろしきに包んで全国を売り歩いたんですが、みんなの食費や酒に消えて、東京に戻ってきたときには売上金はなくなってた(苦笑)。闇米の販売も失敗。ササニシキが出回り始めたときに、仲間に農協のお偉いさんの息子がいて、そのルートで”産地直送”と謳って売り歩いたんです。レコードのときと同じように売上金は全く残りませんでしたな(笑)。でも、闇米とか闇屋とか”闇”が付くと面白そうじゃない。サイゾーって雑誌名も忍者の名前だよな。”闇”っぽくていいじゃないか(笑)」
──麿さんが主宰する「大駱駝艦」では、”生まれてきたことが大いなる才能である”という『天賦典式(てんぷてんしき)』を掲げています。格差社会の中で生き辛さを感じている現代の若者にとっては胸を打たれる言葉です。
「格差社会とか、辞書にも出てないような流行語をボクは信用しないんだ。格差なんて、昔からあるもんですよ。人間に欲望がある限り、誰かがお金か権力を握るわけです。最近じゃ、宗教も欲望に走っている。流行語を追い掛けるのはバカバカしくてね。なんか流行語って、お仕着せられてるみたいで、イヤなんですよ。そりゃ、お金がなければ、人は叫びたくなるでしょう。それは、わかりますよ。格差でいえば、ウチの舞踏団なんて下の下ですから(苦笑)」
──しかし、舞台の上では自由になれるわけですね。
「そうです。それが唯一の救いですな。舞台の上には格差も何もありゃしない。ただ必要なのは想像力だけです。舞台の上は遊び場みたいなものであり、また明るい修行の場みたいなものでもあるんですよ。全国から若者を集めて舞踏をやっているせいで、お金は全然貯まらないけど、舞台の上ではあらゆるものから自由になれる。ま、それ以外はな~んもありません(笑)」
映像作品の中で麿赤兒の放つ存在感はとってもスパイシーだが、話す内容はビンテージワインのごとく超マイルド。この”コクまろ”ぶりは一度味わうと忘れられない。体ひとつで生きる”男の美学”、しかと拝聴しました。
(取材・文=長野辰次)
●『不灯港』
漁師の万造は一輪の赤いバラを愛するダンディーな男だが、口数の少なさが災いして彼女いない歴ン十年。そんな万造の前にミステリアスな都会の美女が現れる。ロッテルダム国際映画祭で”日本のアキ・カウリスマキ”と評された新人・内藤隆嗣監督のハードボイルドコメディ。
監督・脚本/内藤隆嗣 出演/小手伸也、宮本裕子、広岡和樹、竹本孝之、鹿沼絵里、ダイアモンド☆ユカイ、麿赤兒 配給/クロックワークス 渋谷ユーロスペースにて現在公開中。8月1日より大阪シネ・リーブル梅田、8月8日より愛知・伏見ミリオン座ほか全国順次ロードショー。
http://manzo-movie.jp/
●まろ・あかじ
1943年奈良県出身。早稲田大学中退後、状況劇場設立に参加。72年に舞踏集団「大駱駝艦」を旗揚げ。この世に生まれてきたことこそが大いなる才能であるという”天賦典式”を掲げ、国際的に活躍。園子温監督の『部屋 THE ROOM』(94)、SABU監督の『弾丸ランナー』(96)、坂口拓監督の『魁!!男塾』(08)など数多くの映画にも出演している。10月にはシアタートラム(東京都世田谷区)にて新作『G.は行く』舞踏公演を予定。
浪速のロッキー、もうひとつの奇跡。
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