『エロスの原風景』江戸~昭和50年代の出版史──蘇るエロの記憶たち
閑静な住宅街の、草むした空き地の隅に落ちている捨てられたエロ本の山。それらを発見した時、まるでキャプテン・○○の財宝を発見したかのような気分になった。雨に濡れ、ページがパリパリにくっついたものでも、小学生のぼくらは胸はずませ、夢中になって”お宝”を眺めた。そんな体験が男性ならどなたにもあることだろう。小学生にとってエロは禁忌であり、それだけ貴重なものだった。
この「エロスの原風景」は、著者、松沢氏の膨大な資料を元にした、江戸時代~昭和50年代後半のエロ本の歴史を紹介した本だ。江戸時代の風俗情報誌ともいえる吉原細見から、検閲を逃れて作られた戦前の地下本、戦後すぐに大流行したカストリ雑誌に昭和50年代の自販機もの及びビニ本、果てはホモ雑誌にスカトロ等の変態ものまで、日本のあらゆるエロ出版物を網羅した一冊だ。
「エロ本は遠からず消える運命にある」と、松沢氏は語る。ある雑誌で「30代の独身男性にオナニーのオカズは何か?」というアンケートをとったところ、1位=DVD(80%)、2位=無料配信動画(11%)、3位=有料配信動画(5%)、4位=想像(2%)、5位=その他(1%)という回答であったという。もはや、エロ本をオカズに使っている人は皆無といっていいだろう。しかし、失われつつあるという点と、誰も蒐集(しゅうしゅう)していない分野であるという点に、エロ出版史をつづったこの本の意義があるのではないだろうか。
エロは、髪型、化粧、表情、照明、ポーズに、また本や雑誌の作り、文章やイラストにも時代が映し出されている。その時代の風俗や社会背景と密接な関係にあり、人間の生き方の根源的な問題であるがゆえ、興味はつきない。たとえ”オカズ”にはならなくとも、そのエロが通ってきた道をたどることは、十分に好奇心を満たしてくれることだろう。時代に消費されるエロの宿命と、失われゆくもののはかなさを”こっそりと”と楽しもう。
(文=平野遼)
●松沢呉一(まつざわ・くれいち)
1958年生まれ。フリーライター、コラムニスト、編集者、性風俗研究家、古本蒐集家。「実話ナックルズ」(ミリオン出版)、「スナイパーEVE」(ワイレア出版)、「お尻倶楽部」(三和出版)などで連載するかたわら、有料メルマガ「マッツ・ザ・ワールド」を毎月配信している。主な著書に『松沢堂の冒険 鬼と蠅叩き』『魔羅の肖像』など。
エロ本173冊、図版354点がフルカラー掲載
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