氷の心を持つ芸人・東野幸治が生み出す「笑いの共犯関係」とは
#お笑い #この芸人を見よ! #東野幸治 #アメトーーク!
6月18日放送の『アメトーーク』(テレビ朝日)のテーマは、「後輩の山崎に憧れてる芸人」だった。関根勤、東野幸治、TKOの木下隆行といった芸人が集まって、アンタッチャブルの山崎弘也の知られざる魅力を明らかにしていくというもの。世間では特にブームになっているわけでもない山崎という芸人を取り上げて、彼の面白さの秘密をプロの目線から語っていくというのは、いかにもこの番組らしい好企画だった。
だが、ここで何より印象的だったのは、久々に『アメトーーク』のひな壇に下りてきた東野が、途中で加わった山崎本人と丁々発止のやりとりを実に楽しそうに繰り広げていたことだった。東野は、現在では司会もこなせる安定感抜群の中堅芸人として不動のポジションを確立しているが、もともとはひな壇で鍛えられてきたタイプの芸人でもある。そんな彼が、山崎という打てば返ってくる最高の素材を得て、嬉々として超高速で次々に言葉を投げかけていく姿はまさに圧巻。元祖ひな壇芸人としての底力をまざまざと見せつけた形となった。
東野幸治という芸人のすごさは、一見しただけではなかなか理解できないところがある。実際、お笑い界内部での評価と比べて、東野の世間での評判はそれほど高くない。また、島田紳助や松本人志といった先輩芸人からも、「人を愛したことがない」「氷の心を持つ男」などと人格否定に近い扱いを受けている。
だが、単に冷酷で愛情がないだけの芸人がここまで活躍できるはずもない。東野には東野の魅力がある。それは、かつて「Wコウジ」と並び称された今田耕司と対比することでより明白になる。
今田耕司は、視聴者や観客、共演者が思っていることを的確に代弁して笑いを取るのを得意としている。いわば、人々を納得させて共感を誘う「陽」の芸風なのだ。
だが、東野にはそれがない。彼は、冷たい心と鋭い目線で他人をばっさり切り捨てて笑いを取る。今田も東野も基本的にはツッコミ芸なのだが、そこに愛があるかないかが大きな違いだ。東野は愛がないばかりか、あえて意地悪ないじり方をして、見る者を共犯関係に巻き込んでしまう。普通のツッコミ芸は「揚げ足を取る」という側面があるが、ノッているときの東野には、揚げていない足でさえも無理矢理取りに行くような強引さがある。そのワイルドさが彼の芸人としての持ち味だ。東野は今田とは対照的に、徹底した「陰」の芸風の持ち主なのである
だからこそ、今田がゴールデンタイムの人気番組『爆笑レッドカーペット』で若手芸人たちのネタを明るく肯定してみせるのに対して、東野は、深夜番組『あらびき団』で荒削りな芸を見せるキワモノ芸人たちを冷たく突き放すスタイルを貫いているのだ。
そんな東野が憧れていたのが後輩の山崎だった、というのが冒頭で挙げた企画のポイントである。山崎は圧倒的な「陽」のパワーを持つ芸人だ。東野は山崎という明るい太陽のまぶしさに目を細めながら、彼の芸風を心から褒めたたえていた。
多様な価値観が乱立する現代においては、「陽=メジャー」「陰=マイナー」という等式はもはや成り立たない。東野は「陰」の芸風を持ちながらテレビというメジャーな舞台で長きにわたって活躍を続けている。彼こそは、心の暗闇から笑いという光を生む錬金術師なのだ。
(お笑い評論家/ラリー遠田)
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