ニッポンの文化遺産!? ”かかし萌え”に目覚める写真集『カカシバイブル』
#サブカルチャー #写真集
先月21日に、東京書籍よりユニークな写真集が発売された。その名も、『カカシバイブル』。田舎の田んぼに行けばどこにでもある、スズメやカラスなどの鳥をよけるために立てられた一本足のかかし。そのかかしについて、ひたすら撮り続けたという驚きの写真集だ。「え、かかしが写真集になる時代なの!?」と、おそるおそるページをめくってみると……人形に古着を着せただけの正統派のかかしから、美形のマネキンに流行の服を着せたビジュアル系のもの、人間と見間違うほどの不気味なヒト型など……、全国で撮影された数多くのかかしが、カテゴリ別に掲載されている。
(衝撃的なかかし写真の数々はこちらから)
だが、なぜかかしを撮影しようと思ったのだろうか。さっそく、著者のピート小林氏にインタビューを試みた。
――もともと、かかしを撮りはじめたきっかけは何だったんですか?
「ぼくは高校野球が好きで、毎年夏は甲子園球場まで見に行ってるんです。それで7年前の夏のある日、あまり興味のなかった試合の時に球場を抜け出して、岐阜の郡上八幡のお祭りを見に行ったことがあって。その帰り道に、長良川鉄道の始発に乗ったんですよ。朝4時か5時くらいだったかな、車窓から遠くの方にかかしが見えて、何だか僕を呼んでいるような気がしたんです。思わず電車を降りて写真を撮りにいったのがはじまりですね」
――かかしのどこに惹きつけられたのでしょうか?
「かかしって一見シュールですが、その反面、言葉もなくただ立ち続けている姿にとても哀愁を感じますよね。そして、かかしはもともと鳥害よけのために人間に似せて作られた”人間の分身”。その現実と非現実の間の存在、という不思議さに惹かれました。また、被写体としての面白さにも純粋に興味を持ちましたね」
――確かに、かかしって見れば見るほど愛着がわいてくる、というか。ところでピートさんは、子どものころから、かかしには馴染みがあるんですか?
「僕は埼玉県で育ったのですが、当時は通学路に田んぼとかかしがあって、よく友達と『山田の中の一本足のかかし~♪』なんて冷やかしで歌いながら学校に行っていましたね。そのころは、特にかかしには興味はなかったので、大人になってかかしの写真を撮るなんて思いも寄らなかったですね」
――ちなみに、今まで何体くらいのかかしを撮影されたのですか?
「1000体以上は撮りました。北海道から九州まで、『青春18きっぷ』で回りました」
――田んぼで撮影していて、農家の人はどういう反応だったんですか?
「みんなに『あほか』って呆れられました(笑)。農家の人にとって、別にかかしなんて面白いものじゃないので、『何でそんなもん撮ってるんだ』と不思議に思われましたね」
――怒られたりしたことは。
「それはないです。でも、ある日、作業中の農家の方に『かかしの写真を撮らせていただいてもよろしいですか?』と声をかけたんですが、何の反応もなくて。近寄ってよくよく見たら、人間そっくりのかかしだったことがありました(笑)。あれはびっくりしましたね」
――それは驚きますね(笑)。そのかかしは農家の方が作ったんですか?
「そうです。中にはかかしを専門に作っている作家の方や、かかし作り教室を開いている方もいて。かかしに愛を注いでいる人がいることに驚きました」
――では、この本をどういう方に見ていただきたいですか?
「やはり、若い方に見ていただきたいですね。今の日本って、どこかしら閉塞感がある。でも、そういう時こそかかしを見ると元気が出てくると思うんですよ。かかしって、古代から日本の歴史や暮らしに結びついてきた存在で、『今日よりもより良い明日』を信じて歩んできた日本の農村社会の象徴。日本人の原風景のひとつとして、この機会に振り返ってみるのもいいかもしれませんね。また、貴重な”日本遺産”として、海外の方にも、ぜひ見ていただきたいです」
……と、かかしへの想いを熱く語ってくれたピート小林さん。あなたもかかしの新たな魅力を発見するべく、『カカシバイブル』をぜひ手に取ってみて!
名人によるかかし作り講座も付いてるって!
●ぴーと・こばやし
20世紀生まれ。駐留軍基地と米国カリフォルニアで雑役夫・バーテンダー職ののち、英語教師、国際線フライトインタビュアー、マッキャンエリクソン博報堂、電通などを経て独立。(有)ピート小林アドバタイジング主宰。
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