ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』
#海外 #映画 #パンドラ映画館
ヨハンソン)が同棲生活を送っているところに、アントニオの元妻マリア
(ペネロペ・クルス)が参戦。男と女の修羅場がエンターテイメントとして描かれる。
もはやウディ・アレン監督の独壇場だ。
(C)2008 Gravier Productions, Inc. and MediaProduccion, S.L.
何かいいことないか子猫チャン? ふふ、あなたも好きものね。ということで、今週はウディ・アレン監督の『それでも恋するバルセロナ』をご紹介。ウディ・アレン御大は今年すでに73歳。『アニー・ホール』(77)『マンハッタン』(79)のダイアン・キートン、『カメレオンマン』(83)『カイロの紫のバラ』(85)のミア・ファローに続く、”第3のミューズ”スカーレット・ヨハンソンを手に入れたウディ・アレンは、ホームグランドであるNYを離れても絶好調。ロンドンを舞台にした犯罪ミステリー『マッチポイント』(05)『タロットカード殺人事件』(06)に続くヨハンソンとの”年の差コンビ”第3弾となる本作は、南国スペインでロケが行なわれた。『ノーカントリー』(07)のおかっぱ殺人鬼ハビエル・バルデムを自分の分身として、恋愛自由主義の米国娘スカーレット・ヨハンソン、芸術家肌の情熱的な美女ペネロペ・クルス、生真面目な女子大生レベッカ・ホールたちとウハウハな”おいしい生活”を送る。”重罪と軽罪”なんて知らないよとばかりに、ウディ・アレンの脳内願望がそのまま映像化されたアンモラルな恋愛コメディなのだ。
自称、芸術家の卵のクリスティーナ(ヨハンソン)と婚約者のいる女子大生のヴィッキー(ホール)はひと夏を過ごすため、スペインのバルセロナへ。深夜営業のレストランで、プレイボーイの芸術家アントニオ(バルデム)から「これから小旅行に出て、3人でセックスしよう」と持ち掛けられる。アントニオの提案に興味津々のクリスティーナだけでなく、お目付役としてヴィッキーも同行することに。スペインの開放的な”サマー・ナイト”を過ごしたクリスティーナとヴィッキーは次第にアントニオに夢中になっていく。そこへ、ぶち切れると刃物を振り回す危険なアントニオの元妻マリア(クルス)が登場。恋の三角関係ならぬ変形四角形がくるくると回り出す。そんな”バナナ”と言うなかれ。みんな本当は関心があるくせに、ちょっと口に出しにくい大人のSEXのすべてがウディ・アレンによって軽快に描かれていくのだ。
したスカーレット・ヨハンソンだが、ウディ・アレンは
「彼女はユーモアがあって、切り返しがうまい」
と相変わらず絶賛している。
それにしても、1935年生まれのウディ・アレンが、1984年生まれのヨハンソンを今回も見事に料理していることに感心させられる。年齢差49歳ですよ。前作『タロットカード殺人事件』では親子漫才さながらのコミカルな掛け合いを見せていたが、まさに親子以上恋人未満という不思議な関係。ヨハンソンが演じるクリスティーナは「短編映画を1本撮ったが、批評家たちに酷評されまくった」というキャラ設定。オムニバス映画『ニューヨーク、アイラブユー』(09)で自分の作品だけ全編カットされたという屈辱を味わっているヨハンソンにとって超自虐的なキャラである。しかも尻軽。さらにペネロペ・クルスとのレズシーンまで用意されている。ウディ・アレンのヨハンソンいじりはますますエスカレート。『マッチポイント』では過激なベッドシーン、『タロットカード殺人事件』ではヌードよりエロい水着を着せられたヨハンソンだが、今後どこまで進むのか心配である、というより楽しみだ。
『ラジオ・デイズ』(87)や『ニューヨーク・ストーリー』(89)などでもウディ・アレンは母親が強い影響力を持った女系家族で育ったことが度々描かれているが、2002年に発刊された評伝『ウディ・アレン バイオグラフィー』(作品社)には”ウディ”という芸名はハイスクール時代に憧れていた女の子の飼っていた犬の名前であるという説が紹介されている。梶原一騎の”梶原”は少年院から一緒に脱走した初恋の少女の姓をもらったことは漫画マニアの間では有名な逸話だが、米国きっての”インテリ”監督の芸名が片想いだった女の子の飼っていた犬の名前とは、トホホすぎるよ。ジョークだとしても、ハマりすぎです。
また、同評伝にはウディ・アレンはギャグライターとして働き出す以前は、マジシャンという職業を考えていたことも触れている。コンプレックスの塊で女の子とまともにしゃべることもできず、ブロンクスの狭いユダヤ人街で悶々とした思春期を過ごしたウディ・アレンは、かなり真剣に奇術で自分の住んでいる世界を変えることを願っていたらしい。たしかに『ブロードウェイのダニー・ローズ』(84)には場末の演芸場の雰囲気がぷんぷんと溢れていたなぁ。幸いにもマジシャンになる夢は果たせなかったウディ・アレンだが、主演作『ボギー!俺も男だ』(72)でダイアン・キートンをヒロインに起用して以来、映画の世界で女優たちに魔法を掛け続けている。まるで『スコルピオンの恋まじない』(01)に出てくる催眠術師のように。趣味のクラリネットを吹くウディ・アレンの姿は、どこか哀愁漂う蛇使いのようでもある。
実生活では”女たち、妻たち”と映画以上のドタバタ悲喜劇を重ねてきたウディ・アレンだが、少なからず自作のヒロインたちには一生もののプレゼントを贈っている。”最初のミューズ”ダイアン・キートンは『アニー・ホール』でアカデミー主演女優賞、『シザーハンズ』(00)の親切な化粧品のセールスレディ役で有名なベテラン女優ダイアン・ウィーストは『ハンナとその姉妹』(86)と『ブロードウェイと銃弾』(94)で2度もアカデミー助演女優賞を、『誘惑のアフロディーテ』(95)で娼婦を演じたミラ・ソルビーノもアカデミー助演女優賞、さらに本作では母国語で生き生きとした表情を見せたペネロペ・クルスがやはりアカデミー助演女優賞を獲得。ウディ・アレン作品に出た俳優たちは多くの名誉と称賛を浴びている。彼女たちに魔法を掛けた肝心のウディ・アレンは映画祭や映画賞といった”セレブリティ”の集まる場所にまるで興味がなく、アカデミー賞授賞式も9.11テロの翌年に特別スピーチした以外は欠席を続けている。
演技派の箔をつけたいがためにドリュー・バリモアが『世界中がアイ・ラヴ・ユー』(96)に強引に出演したり、『マッチポイント』も企画当初はヨハンソンではなくケイト・ウィンスレットが予定されていたり、ハリウッドの女優たちは「正規のギャラでなくて構わない」と、ウディ・アレン作品にこぞって出たがっている。女優なら誰しも『ギター弾きの恋』(99)のサマンサ・モートンみたいな健気なヒロインを一度は演じてみたいだろう。母国アメリカでは興行成績が奮わず、”僕のニューヨークライフ”に”さよなら、さよなら”を告げたウディ・アレンだが、ハリウッド女優たちのハートは今もメガネをかけた小さな偏屈男を中心に回っている。
(文=長野辰次)
●『それでも恋するバルセロナ』
脚本・監督/ウディ・アレン
出演/スカーレット・ヨハンソン、ペネロペ・クルス、ハビエル・バルデム、レベッカ・ホール、パトリシア・クラークソン、ケヴィン・ダン、クリス・メッシーナ
配給/アスミック・エース
6月27日(土)より丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
http://sore-koi.asmik-ace.co.jp/
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