週刊誌ジャーナリズムの原点 『女性自身』の長寿連載の真価
#雑誌 #出版 #元木昌彦 #週刊誌スクープ大賞
部数低迷が叫ばれ、その存在意義が問われども、テレビや大手新聞が”書けない”真実を暴く週刊誌ジャーナリズム──。毎週発売される各週刊誌の中から、伝説の編集長・元木昌彦が選りすぐりのスクープ大賞を認定!!
●第2回(6月16日~6月22日発売号より)
第1位
「「シリーズ人間 『人生最後の街』で届ける!温もり弁当」(「女性自身」6月30日号)
第2位
「亡国の『田原総一朗』を斬る」(「週刊新潮」(6月25日号の連載「福田和也の世間の値打ち」
第3位
「えっ、いいの?小向美奈子『ストリップヌード盗撮』を大解剖」(「週刊ポスト」7月3日号)
今週は、どの週刊誌もこれといった記事がなかった。「週刊女性」の「王貞治老々介護苦渋の現実」は、母親が107歳で健在なことに驚いたが、ただそれだけ。
「女性自身」の「薬師丸ひろ子『未入籍婚』『両親同居同棲5年』で見つけた”幸せ”」は、タイトル通り、読まなくてもわかる。
女性誌だけではないが、どれもこれも、ページ数が少なくなり、ワイドの一本のようなスカスカな特集が多くて、読み応えのある記事が少ない。読者は、テレビでは知ることのできない、もっと深い情報を望んでいるはずだ。ちったあ考えてほしいね。
と、まあ苦言はそこまでにしておいて、今週の第3位は、「週刊ポスト」の「フライデー」批判(?)。 先々週の「フライデー」が、浅草ロック座でストリップの真似事をした小向のステージを隠し撮りして完売になったことへの当てこすりかと思って読んだら、そうでもない。ロック座の入り口に「盗撮は罰金300万円」と張り紙がしてあっても、駐車場に「無断駐車・罰金5万円」と書いてあるのと同じように、一方的な告知には必ずしも法的な効力はないというものだ。
「盗撮行為」が罰則の対象になるのは映画だけで、歌舞伎座も、劇団四季も、ロック座も、盗撮被害から逃れるのは難しいらしい。これは、編集部内で「盗撮」についてのお勉強をしたことを記事にしたのではないか。それとも、これからはポストも堂々と盗撮するという「宣言」か。期待しよう。
第2位は、テレビ・ジャーナリズム界のドン・田原総一朗さんを、言論界の重鎮・福田和也さんが真っ向から批判した新潮の好評連載。
6月13日の朝日新聞オピニオン欄に田原さんが書いた「北朝鮮と交渉せよ」という寄稿に、噛みついている。
先にテレビで田原さんが、北朝鮮に拉致された横田めぐみさんと有本恵子さんについて「外務省も生きていないことを知っている」と発言して騒ぎになり、謝罪した。
それなのに今度は、麻生太郎総理大臣がイニシアティブをとって、1兆円規模の援助と引き替えに北に核を放棄させる交渉をすべきだと主張している。
福田さんは、黒の親玉に語るという形式をとりながらこう書いている。北が核を放棄するわけはない、1兆円やったら1万本のテポドンを作るだけだとして、「ただの司会者ですよ。一度対談をしたことがあるけれど、運動神経だけですね。(中略)思いつきでコロコロ喋るだけ。信念も哲学もない」とメッタ斬り。このガチンコ勝負、これからどうなる?
今週の第1位は「女性自身」の超長寿連載「シリーズ人間」。今回で1950回だから、35年以上になる。新潮の「黒い報告書」と同程度の長さだろうか。
私が出版界に入ったとき、先輩から、この連載だけは毎週読んだほうがいいと勧められて、初めて読んだ。「女性誌だから」とややバカにして読み始めたが、綿密な取材、練りに練られた文章、感動的なヒューマンドラマに、時間を忘れて読み耽ったものだ。
今週は「『人生最後の街』で届ける!温もり弁当」。東京の山谷、大阪のあいりん地区と並ぶ「日本三大ドヤ街」である横浜市・寿町。行き倒れのようにしてたどり着き、簡易宿泊所などに住む人たちに、毎日、弁当をつくり、家庭の味を届ける「時代屋」店長・野山昌孝氏(42)の物語。
約6300人が簡易宿泊所で暮らし、そのうち60歳以上の高齢者が約3700人と6割を占め、独居がほぼ100%。生活保護受給者は全体の9割弱になる。
それぞれのお客のために、カロリーを控えめにしたり、塩分を控えたりして、必ず、温かいうちに届ける。
寝たきりで、布団の上でメシを食い、用もそこで足してしまうから、三畳一間の部屋に入ったとたん、アンモニアの臭いに涙が止まらなくなる客も多くいる。
数日見ないと、あっけなく死んでしまう人も多い。野山氏は、金融業、不動産業を経験して、ここに弁当屋を開業。一日として休む暇がないが、やりがいがあるという。「ここの人たちは、妙な駆け引きがいっさいないんです。人生ここで最後と思っているからかもしれませんが、すべて本音。だから、おいしい弁当をもっていけば喜ばれるし、まずかったら怒られる。ここのおいしいは本当のおいしい。ここのありがとうは本当のありがとうなんです」
こうした記事を読むとホッとする。これが、いま多くの週刊誌が忘れてしまっている、週刊誌ジャーナリズムの原点なのだ。
●元木昌彦(もとき・まさひこ)
1945年11月生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社入社。90年より「FRIDAY」編集長、92年から97年まで「週刊現代」編集長。99年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長を経て、06年講談社退社。07年2月から08年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(2006年8月28日創刊)で、編集長、代表取締役社長を務める。現「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催、編集プロデュースの他に、上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで教鞭を執る。
【著書】
編著「編集者の学校」(編著/講談社/01年)、「日本のルールはすべて編集の現場に詰まっていた」(夏目書房/03年)、「週刊誌編集長」(展望社/06年)、「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社/08年)、「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス/08年)、「競馬必勝放浪記」(祥伝社/09年)、「新版・編集者の学校」(講談社/09年)ほか
やっぱり弁当です
【関連記事】 「フライデー」の”百聞は一見にしかず”強硬グラビア
【関連記事】 年間赤字50億円!? 週刊誌「フラッシュ」の光文社に倒産危機
【関連記事】 『ちびくろサンボ』を殺したのは抗議事件か、メディア自身か
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事