ハリセンボン 徹底した自己分析で見せる「ブス芸人の向こう側」
#お笑い #この芸人を見よ! #ハリセンボン
2005年から06年にかけて深夜で放送されていた『10カラット』(TBS)というコント番組があった。ここに出演していた10組の若手芸人の中で、明らかに頭一つ抜きん出ていたのは、オリエンタルラジオとハリセンボンの2組だった。オリエンタルラジオは「武勇伝」のネタですでに人気に火がつきかけていたが、ハリセンボンは当時はまだ無名に等しい存在だった。番組自体は短命に終わったものの、彼女たちは新人らしからぬ堂々とした立ち回りを見せて、視聴者に強烈な印象を残した。その後の活躍ぶりは誰もが知るところである。
彼女たちがブレイクした最大の理由は、自分たちの見せ方をよくわきまえていたということに尽きるのではないだろうか。ハリセンボンの2人は、自分たちが世間でどういうふうに見られていて、それをどのような形で生かしていけばいいのか、ということをつかむセンスに長けていた。
近藤春菜には「デブ」、箕輪はるかには「ヤセ」というそれぞれわかりやすい身体的特徴がある。一昔前ならば、こういう芸人はお互いの外見をけなし合うような伝統的なフォーマットにのっとった漫才をやっていればそれで十分だっただろう。
だが、現代においてはその単純な戦略は必ずしも有効ではない。極端に見苦しいわけでもない若い女性が、自分の見た目の欠陥をことさらにネタにすることにはもはやリアリティが感じられなくなっているからだ。必死でブスやデブを売りにする女性芸人は、今ではただうさん臭いだけでなく、痛々しくも見えてしまう。デブやヤセといった何らかのキャラクターを背負いながらも、痛々しくならない程度のかわいげをかもし出すことはもはや不可欠になっているのだ。
その点、彼女たちは、どちらも決して美形ではないが、何とも言えない愛嬌がある。そして、世間にはそう見えているということも十分理解しているので、自分たちを過剰にさげすむ卑屈さもなければ、女らしさを不用意にさらけ出す軽率さもない。だからこそ、誰も敵に回さず、誰からも愛されるあのキャラクターを確立することができたのである。
ハリセンボンは、持ちネタの漫才やコントでは、はるかが落ち着いた口調でつぶやくようにボケて、それを春菜がやや大げさにつっこむ、というスタイルをとっていた。いわば、春菜がはるかの手の平の上で踊らされるようなネタを演じていたのだ。
ただ、その後明らかになったのは、春菜ははるか以外の芸人に踊らされるのも実に上手かった、ということだ。テレビ番組の中でも、何らかの前フリを与えられたときの春菜の反応の速さは群を抜いていた。どんな話を振られても即座に正解を返せる春菜は、バラエティ番組でも重宝される存在となった。
だが、春菜のその能力があまりに優れていたために、ハリセンボンはコンビとしての魅力を打ち出すことが難しくなってしまった部分もある。2007年の『M-1グランプリ』では決勝進出するほどの実力を持ちながらも、2人そろってテレビに出る機会はどんどん減っていったのである。
そんな矢先に起こった事件が、はるかの結核騒動だった。幸か不幸か、はるかが休んでも休まなくても、テレビ界は相変わらず春菜を求め続けた。春菜の露出はますます増え、彼女のテレビタレントとしての経験値はさらに積み重なっていった。
箕輪はるかは、6月14日にコント番組『侍チュート!』(TBS)の収録に臨み、約2カ月半ぶりに仕事復帰を果たした。はるかは、バッファロー吾郎の木村明浩が主催する大喜利イベント『ダイナマイト関西』でも活躍するほどの切れ味鋭い発想力を誇る芸人でもある。彼女のそういう一面は、今までのテレビではまだあまり披露されてはいない。入院騒動を経てさらに一回り成長した彼女が、隠れた才能を世間に見せつける日は訪れるのだろうか。
(お笑い評論家/ラリー遠田)
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