イケメン旋風、ここにも到来!? 出版業界を延命させる時代小説
#テレビ #出版 #イケメン
大河ドラマの原作小説がバカ売れ&マンガ化されたり、「私の好きな時代小説」特集が女性誌で組まれたり、若い女性の間で時代小説がアツいらしい。オジサンの読むものだったはずが、いつの間に乙女たちに受けるものになったのか? ブームの発祥と実態を探る。
今、巷では時代小説ブームが起きている──。こう言い切ってしまうのはいささか大げさかもしれないが、本誌を手に取る読者諸兄の中には、ブームの到来を実感している方も少なくないだろう。書店に足を運べばフェアが開かれ、雑誌を見ても、「小説すばる」の「時代小説が、いま元気だ!」特集や、女性ファッション誌「LEE」(ともに集英社)の「時代小説、私のおすすめ」特集など、以前より「時代小説」の4文字を目にする機会が増えている。しかも、今回のブームの担い手は、若い女性が中心になっているようだ。
この背景としてまず考えられるのが、NHK大河ドラマのヒットだ。ご存じ”篤姫ブーム”により、最高の形でバトンタッチを受けた『天地人』は、初回24.7%の高視聴率を記録。原作の『天地人』も2009年上半期ベストセラーで4位にランクインするなど絶好調だ。そんな気運の高まりを受けてか、書店員がいま一番売りたい本を選ぶ本屋大賞でも、09年はなんとベスト10のうちの4作品を時代小説が占め、関係者やウオッチャーたちを驚かせた。
ひとくちに時代小説といっても、扱われる時代は多様だが、相変わらず読者には戦国、幕末が人気だ。同賞第2位にランクインした戦国モノ『のぼうの城』は、”読みやすい時代小説”として評判を呼び、07年12月の発売以来、現在までに累計30万部以上を売り上げた。そのヒットを支えたのは20~30代の女性。「歴女」と呼ばれる、歴史好きな女性から支持を受けたことが、拍車をかけたといわれている。人気の理由を、大手書店の文芸担当者は、こう分析する。
「同作は展開がスピーディーで、池波正太郎や藤沢周平といった大家が書くような作品とは別物という印象。著者はもともと脚本家ですし、ドラマや映画にも似た独特のテンポがあるのだと思います。それが若い女性にとってはとても読みやすいんでしょう」
“別物”という言葉が象徴するように、今回の時代小説ブームは、若い層が過去の名作を楽しむようになったということではない。「時代小説」という枠の中に、これまでとは異なる新たなエンターテインメント性を持った作品が登場し、彼女たちがそれを楽しんでいるということだ。
イケメン揃いのゲームからやがて定番の小説へ
さて、このブームの立役者とされる歴女だが、彼女たちが歴史の世界に足を踏み入れた要因としては、04年放映のNHK大河ドラマ『新撰組!』や、05年発売のアクションゲーム『戦国BASARA』のヒットが挙げられる。両作はどちらも、イケメンたちが仲間と自分の信念のために戦う物語。その姿が女子の萌え心をくすぐり、彼らがいた時代を詳しく知りたいという探究心を掘り起こしたわけだ。06年開業の歴史モノ専門書店「時代屋」でも、07年頃から客層に変化があったという。
「オープン当初は40代以上の男性が大半でしたが、07年頃から徐々に女性、特に若い世代のお客様が増え始めました。戦国武将や幕末志士についての小説や解説書を探しにくる方が多いですね」(時代屋神田小川町店・大前美鈴さん)
同店はもともと、年配層にコンスタントに売れる作品を揃えていたが、07年以降、若い女性がどんどん増加し、現在では客層の男女比が五分にまでなった。それに伴って歴女ニーズが高そうな商品を増やしたそうだが、ここ1~2年で出版社もその流れに足並みを揃えてきたという。
「最近、若い方の間でも大御所の作品に挑戦する傾向が強まっています。この動きを受け、『尻啖え孫市』や『坂の上の雲』のカバーが、従来の厳かなデザインから若い世代を意識した少し柔らかいものへと変化しました」(前出・大前さん)
”ジャケ買い”を狙うなど、出版社側でも読者層拡大を狙った戦略が活発化しているようだ。「『しゃばけ』のドラマ化など、歴史モノのドラマや映画が話題になると女性客が増加する」(前出・書店員)というから、『天地人』が放送されている間は、出版社にとっても、読者層の拡大や、第二、第三の『のぼうの城』を生むチャンスなのだろう。
社会の円熟で”懐古志向”歴史モノは”定番”へ
こうして見ると、今は時代小説ブームというよりは、ゲーム、マンガ、ドラマ、映画、小説、すべてがつながった「時代モノブーム」といえそうだ。この同時多発的ヒットの要因は3つ考えられると、博報堂生活総合研究所エグゼクティブフェローの関沢英彦氏は言う。
「まずは、現代が成熟した社会であること。社会が高度になると、過去に”学び”を求めたり、自分たちのルーツ探索をする動きが出てくるものなんです。これは現代の生活者の志向といえますね。次に作り手側の問題として、コンテンツ産業の慢性的なネタ不足。『ダ・ヴィンチ・コード』や『レッドクリフ』など世界的に同様の流れがあるのですが、歴史には膨大な物語があるので、それをモチーフにすることでネタ不足を解消しているのです。そして最後に、社会環境がコミュニケーションにもたらす影響。昔なら個人で楽しむしかなかったニッチな趣味も、今だとSNSやオフ会など同好の士とつながるツールが身近にあり、ブームが起きやすい環境なんです」
ニーズ、作り手側の思惑、コミュニケーション環境。なるほどこのブームは、3要素がガッチリ噛み合って生まれたようだ。この流れは、今後も続いていくのだろうか?
「3つの要因の中で、作り手側のコンテンツ不足は特に深刻な問題のようです。当分解消されそうな気配はありませんので、歴史に依存する傾向は強まっていくでしょう。今は戦国や幕末が人気ですが、琉球王国の激動を描いた『テンペスト』などが評価を得ているように、これまであまり注目されることのなかった時代や地域にフォーカスした作品が増えるのではと思います」(関沢氏)
どうやら、歴史という題材はコンテンツを生み出す”鉱脈”として、これからもどんどん発掘される運命のようだ。さらに、第一の条件として挙げられたニーズの変化は一過性のものではないはずで、もしかすると、このブームはいずれ、老若男女を問わない「定番」へと収斂していくのかもしれない。
(文=下元 陽[BLOCKBUSTER]/「サイゾー」7月号より)
へうげもの―TEA FOR UNIVERSE,TEA FOR LIFE
是非ドラマ化して。
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