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佐藤秀峰、雷句誠......掟破りのマンガ家続出で激変!

原稿料暴露、編集者との確執 いまマンガ界は崩壊寸前!?【2】

raiku02.jpg原稿紛失や編集者とのトラブルなどをめぐって、
小学館と対立した『金色のガッシュ!!』の雷句誠氏。
今年9月より講談社のマンガ誌にて連載スタート
予定。

■【1】はこちら

●高給編集者と貧乏作家 不平等な関係性

 多くの担当作家を抱え、日々、作品制作の現場に立ち続ける、あるマンガ誌編集者は、佐藤、雷句両氏について「どちらも気持ちはわかる」と語る半面、「ふたつの問題を同一視されては困る」という。

「雷句さんの件については、原稿を紛失している以上、出版社と編集部に100%非があると思います。ただ、佐藤さんの場合は、ある意味、不運な出来事ともいえるのではないでしょうか。もしかしたら、佐藤さんの担当編集も、ほかの作家さんとは円滑に仕事をしているかもしれない。もちろん、作家さんに不信感を抱かせるような行動を取ることは論外です。ただ、今回の件で出版社側がオフィシャルな見解を発表していないということもありますが、佐藤さんの発言だけを取り上げて、『マンガ家と編集者の関係がヤバくなっている』とまとめられると、正直、違和感を覚えますよ」


 確かにすべてのマンガ家が担当編集と良好な関係にあるわけがない。しかし、以前なら不満があっても口を閉じていたはずのマンガ家が、この1年のうちに相次いで声を上げたのはなぜなのだろうか?

『テヅカ・イズ・デッド』(NTT出版)などの著書を持つマンガ評論家として、そして東京工芸大学マンガ学科准教授として、マンガについての考察を続ける伊藤剛氏によると、その原因としてまず考えられるのが「『世代』と『表現の場』の問題ではないか」という。

「これまでのマンガ業界には、連載時に支払える原稿料は多少安くても、コミックスの印税でマンガ家に還元できる構造がありました。ところが、今は、マンガ誌はおろか、コミックスの売り上げも落ち続け、世の中の景気が好転する気配もない。しかも、ネットのような個人が自由に自分の意見を発信できるメディアもある。本音や実情を公表する人が現れても不思議はないですよね」(伊藤氏)

『マンガ産業論』(筑摩書房)や『マンガ進化論』(ブルース・インターアクションズ)などの著書を持つ編集者・作家の中野晴行氏も「分配の不平等にマンガ家が気づいたから、暴露に踏み切ったのでは」と口を揃える。

「90年代初頭、大手出版社のコミックスは最低でも5万部は刷られていましたが、今は、最低2万部が相場といわれています。文庫版なら8,000部がせいぜい。一方、定価300円弱の週刊マンガ誌は、そもそもムリな原価計算の上に成り立っている赤字体質の媒体です。実はページ2万円の原稿料でも原価オーバーになる。だから、中堅といえどもマンガ家の収入は、世間が考えるほど高くないんです。ところが、大手出版社では30代で年収1,000万円という社員も当たり前のようにいます。これでは『ちょっと待て』と言いたくなるマンガ家も出てきますよ(笑)」(中野氏)

 しかも、マンガの世界に限らず、出版業界には、雑誌連載開始時に作者と出版社の間で、原稿料や連載期間についての契約書を交わす習慣が根付いていない。もちろん、日の目を見る前のマンガがどれだけヒットするかなど、誰にも予測できないだけに、連載前に原稿料や連載期間を決めることのできない編集部の事情はわかる。しかし、マンガ家にしてみれば、そのため「雑誌の都合で連載を打ち切られたり、引き延ばされたりすることがある上に、慣習や気兼ねから原稿料の値上げ交渉ができない」(伊藤氏)のも、また事実だ。これも、佐藤や雷句が原稿料を暴露した理由のひとつだろう。

●今後のカギとなるエージェントの存在

 ただし、マンガ家ばかりが割を食っているわけではない。マンガが一大ビジネスへと成長した今、編集者も大きな負担を強いられているのだ。

「連載立ち上げ時期なら、編集者は作品作りに注力できます。しかし、そのコミックスの発行部数が10万、50万と増え、映像化やグッズ化などの話が舞い込むようになると、例えばメディアミックスプロジェクトの窓口担当まで編集者が背負い込むことになる。仕事量が増え、業務内容が煩雑になれば、佐藤さんの一件のように、作家との間に話の齟齬や連絡の不備が生じる要因になります。ドラマやアニメの制作会社など、かかわるプレーヤーの数が増えたら、出版社も、マンガ制作の担当は編集部、グッズや映像化権の管理担当はライツ事業部、といった形で分業して、あらためてマンガ家を交えたプロジェクトチームを組むような形にビジネモデルが変わるはずですが、『マンガは作家と編集者のもの』という従来からの意識が対応を阻んでいるのかもしれません」(伊藤氏)

 また、伊藤氏、中野氏ともに、今後は出版社のみならず、マンガ家自身もこの業界の構造の変化に自覚的になることが必要だと指摘する。

 しかし、担当編集だけでは、ドラマ化、グッズ化などのヒット作を取り巻く状況に対応しきれないように、毎週の締め切りに追われるマンガ家がひとりで、すべての案件を処理できるはずがない。そこで、伊藤、中野両氏が提案するのが「マンガエージェント」だ。

「佐藤さんや雷句さんのように、編集部とビジネスの話ができるマンガ家は少数派。芸術家肌の人が多いせいか『おカネの話なんてできないですよ』と言い切ってしまう作家も珍しくありません。それでなくとも権利ビジネスは複雑です。それだけに、ある程度売れているマンガ家は、元編集者や法律・財務の専門家の協力を仰ぎ、スタジオを法人化するなどして、出版社と企業対企業の交渉ができるエージェント的な仕組みを作るべきでしょう」(中野氏)
【3】につづく/取材・文=成松哲/「サイゾー」6月号より)

金色のガッシュ!! 33

完結巻。

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最終更新:2010/02/08 15:39
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