“宇宙”という名の密室で描かれる恐怖『アルマズ・プロジェクト』
#海外 #映画 #宇宙
2006年12月までのデータで、地球上から打ち上げられた人工衛星の総数は5,000をゆうに超えるという。その多くは”冷戦”と呼ばれた時代に、米ソが競って打ち上げたものだ。ソ連が世界初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げに成功し、アメリカに大きく水を開けたのが57年。それに対し、アメリカ人が「アポロ11号」を月面に着陸させ、「人類にとって偉大な飛躍だ」と誇らしげに胸を張ったのが69年だった。その後、2大国間のスペース・レースは熾烈を極め、ソ連は宇宙ステーション「サリュート」を次々に打ち上げた。だが「サリュート」は打ち上げのたびに失敗を繰り返し、幾人もの優秀な飛行士が宇宙の藻屑と消えることになる。この「サリュート」のうち、軍事目的に特化した機体を「アルマズ」と呼んだ。
映画『アルマズ・プロジェクト』は、98年11月に消息を絶ち、その4日後に大気圏に突入したロシアの人工衛星「アルマズ号」から回収されたブラックボックスの映像を編集したものだとされるセミ・ドキュメンタリー作品だ。表向きには冷戦も終結し、宇宙開発にも共同路線がとられるようになっていた98年。軌道上で航行を続ける人工衛星「アルマズ号」に、その買収を検討するアメリカのクルーが乗り込む。ところがその直後、「アルマズ号」は地球との交信を絶ち、船内では想像を絶する事態が引き起こされてゆく……と、大きく分類すれば「SFスリラー」ということになる本作だが、そのカメラと編集の妙は特筆に値するものとなっている。
セミ・ドキュメンタリー手法といえば、99年に一大旋風を巻き起こした『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や昨年の『クローバーフィールド』が真っ先に思い浮かぶはずだ。『ブレア~』や『クローバー~』のカメラは、常に登場人物の視点に準じていた。これにより映画は未曾有の臨場感を演出し、多くの映画ファンの度肝を抜いたのは記憶に新しい。
本作『アルマズ・プロジェクト』では、この”一人称”の役割をアメリカのクルーたちが持ち込んだ可動カメラが果たしている。”一人称”で描かれるのは、地球との交信を絶ち、徐々に不穏な動きを見せ始めるロシアクルーたちの異様だ。もともとの乗組員であるロシア人たちを”一人称”が”他者”として捉えることで、その「逃げ場のない密室」と化した人工衛星内の緊迫感が否応なく演出される。それに加えて「アルマズ号」船内に設置されている複数台の固定カメラが、今度はアメリカとロシア、それぞれのクルーを冷徹な視線で見下ろすことになる。さらには、船に設置されたアンテナが不可解な電波をキャッチし、それをモニターに映し出す。これらの映像がくるくると入れ替わるたびに、私たち観客の映画に対する立ち位置は変化を繰り返し、観客としての”自己”と”他者”が互いに侵食を始める。
いったい何が起こっている、本当に狂っているのは誰だ、いつから自分は、それを、誤解していた──?
スクリーンを眺めながら、宇宙という密室のなかで、私は私を失ってゆく。すでに作品世界に取り込まれた私たちに与えられるのは、真っ黒く、息苦しい絶望だけだ。そして、その絶望を観客が認識した瞬間、映画は単なる鑑賞物としての存在を超越し、”恐怖”という娯楽を体感するための装置となる。どうしようもない絶望をはらんだ、巨大で窮屈で真っ黒な密室──『アルマズ・プロジェクト』のブラックボックスは、今、その口を開いている。
●「アルマズ・プロジェクト」プレゼントのお知らせ
映画の公開前日6月5日(金)から6月7日(日)までの3日間、新宿東口のアルタ前にあるステーションスクエアという場所で、オリジナルプレゼントがゲットできるイベントが実施されるとのこと。映画が上映される新宿バルト9に徒歩で行ける距離なので、ぜひとも先にお立ち寄りを!
詳細は公式サイト:http://www.almaz.jp
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