「女は笑いに向いているか?」柳原可奈子が切り拓くお笑い男女平等社会
#お笑い #この芸人を見よ!
「女は笑いに向いていない」と言われることがある。松本人志はかつて、著書『遺書』の中で「お笑いでは自分の全てをさらけ出さなくてはいけないのに、女は身も心も素っ裸になることができない」という趣旨のことを述べて、だから女は笑いに向かない、と結論付けていた。
だが、最近では、お笑い文化全体の盛り上がりに伴って、今までにいなかったような新しいタイプの女性芸人が次々に出てきている。彼女たちは、自分自身が「裸になれない」ということを弱点とせずに、むしろ強みとして生かしながら活躍を続けているように見える。その代表格が、若手女性芸人実力ナンバーワンとの呼び声も高い柳原可奈子である。
柳原のコントの題材になるのは、周囲に微妙な違和感を与えるタイプの女性だ。例えば、彼女が演じる「スタイリストの北条マキ」は、常に自らのセンスの良さを誇示して、尊大な態度を貫くいけすかない業界人である。その他にも、中身のない話を一方的にまくし立てる「女子大生マミ」、化粧をしながらだるそうにしゃべる「総武線の女子高生」など、柳原は微妙にズレている女性たちの言動に着目して、彼女たちがまき散らす違和感そのものを再現しようとしている。いわば柳原は、自分が裸になれない代わりに、身の周りにいる女性たちを裸にすることで、多くの人の共感を誘うキャラクターを次々に生み出しているのである。
一般に、女性は男性と比べて、他の女の人に対する目線がシビアである。女性の目には、女の生き方のダメな部分や計算高い部分が透けて見えている。ただ、見えているからといって、彼女たちが日常でそれを露骨に口にすることはあまりない。女性たちの間では、「それをさらけ出してもお互いにあまり得をしないから、そういうことに触れるのはやめておきましょう」という暗黙の了解がある。だから、彼女たちはお互いをかばうように自意識を隠す。見えているものを見えないことにしながら、日々をやり過ごしているのだ。
だが、柳原は、この暗黙のルールを堂々と破ってみせた。彼女は、そんな女性たちが「見えているけど見えないことにしているもの」を白日の下にさらしてしまった。鋭い観察眼で、肥大した女性の自意識を丸裸にしてしまう。しかも、ネタの中に素の自分を一切交えないで淡々と演じることで、彼女たちの生き様をこの上なくリアルに描写することに成功している。
女は面白い。そのことにいち早く気付き、それをネタの形にまとめあげたことが柳原の最大の功績だ。女性を単なる「社会的弱者」と見なす立場からも、「触れてはいけない聖域」と考える立場からも、こんな形のネタは生まれてこなかっただろう。柳原の登場は、1つの新しい時代を象徴している。すなわち、女性が女性について語り始めた時代だ。女が女を笑えるようになったことで、お笑い界の男女の壁は壊された。大げさに言えば、このことによって初めて、お笑い男女平等社会が実現したのである。
女性は裸になれない。だが、他の女性の心が無防備になっている瞬間を切り取ることはできる。柳原はそうやって自分の芸風を確立していった。女らしさは、お笑い芸にとって必ずしもマイナスであるとは限らない。それは、観察してデフォルメして楽しむこともできるものなのだ。
(お笑い評論家/ラリー遠田)
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【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは
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