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『バッド・バイオロジー 狂った性器ども』

ヘネンロッター監督は死すとも、”悪趣味映画”は不滅なり!

henenlotter.jpg“結合性双生児”を主人公にしたホラー映画『バスケットケース』シリーズで知られるフランク・ヘネンロッター監督。相変わらず悪趣味極まりない新作『バッド・バイオロジー』の来日キャンペーンも、なんだかおかしなことに……。撮影/有高唯之

 渋谷のホテルの一室で発見された男性の死体は、米国カルト映画界の鬼才フランク・ヘネンロッター監督であることが判明した。フリークス兄弟の葛藤をグロテスクかつポエティックに描いたホラー映画『バスケットケース』(82)などで知られるヘネンロッター監督は、16年ぶりの新作『バッド・バイオロジー』のPRのために来日中だった。最期に本誌と交わした会話を再現したい。

──”結合性双生児”を主人公にした『バスケットケース』は、あまりに衝撃的なデビュー作でした。ヘネンロッター監督のお陰で日本でも80年代にはカルト映画ブームが起き、ずいぶんと歪んだ映画観を持つようになったファンが生まれたと思います。

「ははは、そうかい。キミもそのご機嫌なファック野郎の1人というわけなんだな(笑)」

──そのようです(笑)。前作『フランケンフッカー』(90)は最愛の恋人を芝刈り機に轢かれて失ってしまった発明狂の青年が娼婦の体を繋ぎ合わせて恋人を再現するというロマン溢れるB級ホラー映画でした。あんな素晴らしい映画を撮ったのに、その後一体どうしていたんですか?

「16年も待たせてしまったね。その間、作品のオファーはあったんだけれど、『バスケットケース』シリーズの続編を撮ってくれとか、血がドバドバ出るスラッシャー系のものを頼むとかで、どうもボクにとって気の進む企画がなかったんだ。気の合うプロデューサーとの出会いがなかったということだね」

──『バスケットケース3』(91)ではフリークス兄の赤ちゃんが1ダースも誕生するわ、最後は『エイリアン2』みたいなモビルスーツ戦になるわ、やり過ぎたために仕事を干されたわけでは……。

「いや~、決して映画をダメにしようとか狙ったわけじゃないよ。でも『バスケットケース3』は気乗りしない企画だったことは確かだね。その結果、自分が考えていたものとは、かけ離れた作品が出来上がってしまったんだ」

──『バスケットケース』は広告会社に勤めながら、自主制作で完成させた16mm作品でした。今も映画製作とは別の仕事を普段はされているんでしょうか。

「そうなんだよ。普段はワシントンにあるビデオ会社に委託され、旧作をセレクションしてキャッチコピーを考え、DVDとしてリリースする仕事をしているんだ。著作権関係のアドバイザーも務めているよ。クレイジーな映画を撮る一方で、マジメな仕事もやっているんだ(笑)。とはいえボクはNYに居たままで、実はその会社には行ったことがない。全てパソコン上のやりとりだけ。ボクのように人付き合いが苦手な人間にとって、これはこれで楽しい仕事なんだ。まぁ、今回は2カ月間休みをもらって新作を撮り上げたってわけさ」

BB_main.jpg女流前衛写真家のジェニファー(チャーリー・ダニ
エルソン)は異常性欲の持ち主。しかも、受精から
数時間でフリークスを次々と産み落とす。(c)2008
by Frank Henenlotter and Ryan R.A.Thorburn

──本作はヘネンロッター監督が久々に「撮りたい!」とマジで取り組んだ作品なんですね。7つのクリトリスを持つ女性と、巨大化した男根が自意識を持って動き回る男性が運命的に出会うストーリーは、とても神秘的。まるで現代のアダムとイブの物語のようです。

「ヤー、ヤー! その通りさ。新人類の神様の誕生を描いたドラマと言えるかもしれないね(笑)。セックスコメディとして笑ってもらってもいいし、秘密を抱えた男女のシリアスな悲劇と考えてもらっても構わない。ボクの作品は観た人が自由に解釈して、楽しんでもらえればいいんだ」

──秘密を隠しながらNYで暮らしている男女が主人公。ビデオ会社の仕事をしながら、こんなおかしな映画を作っているヘネンロッター監督自身のようにも感じられます。監督が「自分は他の人と違うなぁ」と意識するようになったのはいつ頃からでしょうか?

「ふ~ん、それは難しい質問だな……。ボクは6歳くらいから自分は周囲の人たちとは違うなと感じるようになった。でも、今の自分は他人とは違うということをちゃんと自覚できているだけでも落ち着いていられるし、自分が持っている秘密を敢えて他の人に見せようとは思っていない。本当を言うと、こういう風に初対面の人と話すことも苦手なんだよ。実家のあった田舎を出て、NYで暮らすようになったんだけれど、NYという街のいいところは、おかしな人間がたくさんいるということ。ボクの友達はアーティストが多くて、彼らと話しをしている分にはとてもリラックスできるんだ」

──(急にテンションの下がった監督に戸惑いながら)えぇっと、そもそもホラー映画やフリークスに興味を持つようになったのは、なぜでしょうか?

「8歳くらいから田舎の映画館のマチネで毎週ホラー映画を観て育ったんだ。映画を作らなくても生きていくことはできるけど、映画を観ることなしでは過ごすことはできなかった。でも、ボクが一番怖いと思うのはホラー映画に出てくるような超常現象ではなく、自分の体が病気や死によって冒され、コントロールできなくなってしまうことなんだ。実は本作の撮影直前の検診で、ボクはがんだと宣告されたんだよ。自分の体の中に知らない細胞ができている。これは、まさに恐怖。ところが朝いちばんで放射線治療、その後から映画の撮影、と並行して続けていたら、治療開始から22日目でがん細胞が消えてしまった。医者も不思議がっていたね。多分、映画の撮影で忙しくて、くよくよ悩む暇がなかったことがよかったんだと思うよ。2年半が経つけど、今ではすっかり大丈夫。つまり、ボクにとって映画製作が最高のセラピーだったのさ!」

──好きな映画を撮って、病気を治癒してしまうとは素晴らしいお話です。ヘネンロッター監督は、映画祭などの旅先で自分が死んでる写真を撮るのが趣味だそうですね。

「普通の観光写真を撮っても、つまらないからね。どうせ撮るならパンチの効いたものにしたいじゃないか。ゆくゆくは写真集か写真展でも、できればいいなと思っているんだ。東京では渋谷の交差点で自分が行き倒れている写真を撮りたかったけど、人が多くてまだ撮れていないところさ。丁度いい。今からボクはいい感じで死ぬから、うまいこと撮ってくれるかい?」

 ということで、出来上がったのが今回の写真。ヘネンロッター監督は自分が死体を演じている写真に満足して、小躍りしながらNYへと帰っていったのだった。いつまでも元気におかしな映画を撮り続けてほしい御仁である。
(文=長野辰次)

●『バッド・バイオロジー 狂った性器ども』
7つのクリトリスを持つ色情狂の女流カメラマンとステロイドの打ち過ぎで肥大化したペニスを持つ内気な青年は、それぞれ自分の身体的な秘密を隠しながらNYで暮らしていた。しかし、2人は運命に引き寄せられるように出会ってしまう……。ヘネンロッター監督をNYアンダーグランド界の前衛芸術家としてリスペクトしている伝説のラッパー、R.A.”ザ・ラッグド・マン”ソーバーンが製作を担当している。
監督・脚本/フランク・ヘネンロッター
製作・脚本/R.A. ソーバーン
出演/チャーリー・ダニエルソン、アンソニー・スニード
配給/キングレコード+iase
6月6日(土)よりシアターN渋谷にてレイトロードショー R18

●フランク・ヘネンロッター
1951年生まれ、NY在住。16mmで自主製作した『バスケットケース』(82)が”ミッドナイト・ムービー”のプログラムとしてカルト的人気を呼ぶ。その後も、未知の生命体が脳みそに注射した薬物でご機嫌になってしまう電波系青年の悲喜劇『ブレイン・ダメージ』(87)、9人の娼婦を繋ぎ合わせたヒロインがメッチャかわいい『フランケンフッカー』(90)などの怪作を作り続ける。寡作だが、一部で熱狂的な支持を得ている”キング・オブ・カルト”。『バスケットケース2』(90)のフリークスが大集合してのパーティー場面は監督自身も大のお気に入りだが、『バスケットケース3』(91)は仕事として嫌々ながら撮ったので気に入ってないと正直に語る。

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最終更新:2009/05/30 15:00
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