止まらない芸能界のドラッグ汚染──”薬”を手放せない悲しき業界
#いわんや悪人においてをや #ドラッグ
「犯罪者である彼あるいは彼女にも我々同様に人生があり、そして罪を犯した理由が必ずある。その理由を解明することはまた、被害者のためにもなるのでは?」こんな考えを胸に、犯罪学者で元警視庁刑事・北芝健が、現代日本の犯罪と、それを取り巻く社会の関係を鋭く考察!
ここ数ヶ月、俳優の中村俊太が大麻所持、元グラビアアイドルの小向美奈子が覚せい剤取締法違反でそれぞれ逮捕されるなど、芸能界のドラッグ絡みの事件が相次いでいる。私自身は芸能人ではないが、仕事がらテレビに出演することもあり、芸能人の友人も少なくなく、彼らから業界に蔓延するドラッグにまつわる話を耳にすることがある。
日本の芸能界が闇社会と不即不離の関係にあるということは、暗黙の事実として多くの人が承知していることであると思うが、これは闇社会から芸能界が一方的にたかられているということではなく、ある種の相互補助の関係の上で成り立っていると考えられる。芸能人は大衆に注視され、場合によっては一方的なねじれた感情を抱かれることがある。そんな存在から金の卵を産む鶏を守ることは、自分たちの勤めであると闇社会の住人たちは自負している。警察は事件が起きなければ動けないため、身の安全を守るために芸能界としてもそれを受け入れている現状があり、このような相互利害の一致が不即不離の関係を作り出しているのだ。
その芸能界も、いまや表向きも華やかなばかりではなくなった。不況の盛りである現在、「低予算で密度の高いものを作る」という命題はどの業界にもあるが、芸能人の舞台となる各種メディアでもその傾向は顕著だ。そして、そんな時代の流れが彼らをドラッグへ導いてしまっている面がある。覚せい剤の主成分であるフェニルメチルアミノプロパンは、簡単にいってしまえば脳の感覚を非常に敏感にする効果がある。ただ、自分が不快だと感じる感覚に関しては逆に鈍化するため、セックスの感度は増しても、空腹や眠気、寒暖などは感じなくなる。そのため、特殊かつ過酷な労働環境に身を置く人間にとって、まるで魔法のような効力を持つこととなる。実際、1951年に覚せい剤取締法ができるまで「ヒロポン」として市販されていた覚せい剤は、戦後の過酷な状況から逃れるために人々に求められた。当時ヒロポンはまさに魔法の薬だと思われていたが、その結果として数十万人もの依存者が生まれ、命を落とした人もいる。
芸能界でも同様に、スケジュールの厳しさと極度の緊張からの開放、リラクゼーションの手段としてドラッグが求められている。例えば、田代まさしが「ドラッグなしではおちゃらけが出来なかった」と当時の心境を語るようにだ。また、小向美奈子が逮捕直前「週刊ポスト」(小学館)などで語ったように、表舞台では笑顔を振りまき、その裏では奔放な性生活を送り、闇社会の人間と対面しても恐怖心を感じないようなメンタリティが必要とされる中で、それを助けてくれるのがまさにドラッグなのだ。私自身も、毎日のように朝のワイドショーに出演し、それから取材や執筆、講演、打ち合わせ、情報収集などを繰り返す日々を送っていたが、警察官時代と同じくらいハードな日常であった。それは、とても一般の社会人の感覚ではやっていけるものではないことは理解できる。
ドラッグが危険なのは、たんに依存性の問題だけでなく、それが常用化した社会や場所、コミュニティではコミュニケーションツールとしての役割を果たすようになる点にもある。今年3月、宮崎県でサーファーグループが大麻取締法違反罪で逮捕されたが、彼らには「サーファーなら大麻ぐらい吸えて当たり前」という意識があった。つまり、大麻を吸引することで仲間意識を共有していたのだ。潜在的にタブーを犯すことによって強い連帯感を得られるのは、秘密結社に入るためのイニシエーションと同じである。これは、アルコールでも代用できることであるが、アルコールが苦手な日本人が多いということ、また大麻に幻覚作用があり、なおかつ法的にタブーであることがさらに儀式としての機能を高めるのである。
このような、ドラッグを媒介にした付き合いも、芸能界の一部と闇社会の関係をより深めることになっている。ただ、その関係性が悪化したり解消されたりした場合、片方が他方に裏切り者としての代償を払わせることになる。コミュニティから出た人間は、コミュニティに足を引っ張られるのだ。たとえば、これは私が友人の某女性タレントから聞いた話だが、彼女は闇社会にガジられていたという。ドラッグを使用していた過去をネタに、ゆすられていたのだ。そして、彼女と同様に闇社会にガジられている芸能人はほかにもかなりいるはずである。芸能界におけるドラッグが、芸能界自体の毒を緩和するための文字通り薬として機能している側面がある限り、芸能人のドラッグ事件は芸能界から出る澱として今後も起こる。そして、芸能界と闇社会との不即不離の関係も続いていくのである。
(談・北芝健/構成・テルイコウスケ)
●きたしば・けん
犯罪学者として教壇に立つ傍ら、「学術社団日本安全保障・危機管理学会」顧問として活動。1990年に得度し、密教僧侶の資格を獲得。資格のある僧侶として、葬式を仕切った経験もある。早稲田大学卒。元警視庁刑事。伝統空手六段。近著に、『続・警察裏物語』(バジリコ)などがある。
続・警察裏物語-27万人の巨大組織、警察のお仕事と素顔の警察官たち
人間だもの、警官だって!
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