生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』
#アイドル #海外 #映画 #パンドラ映画館 #タイ
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全国のM系男子がうれし泣きする日がやってきた。ムエタイ王国タイで大ヒットしたプラッチャヤー・ピンゲーオ監督のアクション映画『チョコレート・ファイター』がついに日本に上陸するのだ。『マッハ!』(03)、『トム・ヤム・クン!』(05)でトニー・ジャーを人気スターに押し上げたピンゲーオ監督だが、『チョコレート・ファイター』の主演俳優は、ジージャ(本名:ヤーニン・ウィサミタナン、1984年生まれ)という女の子。雑誌の表紙やグラビアを飾るアイドル級のルックスを持ちながら、ノースタント・ノーCGによる超絶アクションの数々を披露している。いかつい男たちを次々と倒す、彼女のしなやかな蹴りと強烈なひじうちに、チョコレートのような甘く官能的な陶酔感を覚えるマニアが日本にも続出するに違いない。
4月15日、ジージャが来日しての舞台挨拶が行なわれた。『チョコレート・ファイター』の撮影から2年以上が経っているものの、まだあどけなさの残る風貌だ。身長155cmと見るからに小柄で華奢。ちなみに本作に驚いてジージャのトレーナーをタイから呼び寄せた『ウォンテッド』(08)のアンジェリーナ・ジョリーは身長173cm。『キル・ビル』(03)のユマ・サーマンは181cm、小柄に見える『グリーン・ディスティニー』(00)のチャン・ツィイーでさえ164cm。日本では『女必殺拳』(74)の志穂美悦子が164cm、『真・女立喰師列伝』(07)の水野美紀が167cm、『お姐ちゃんお手やわらかに』(75)の和田アキ子が173cm。このことからもジージャがアクション女優として、いかに軽量級かわかるだろう。しかし、そのジージャがクライマックスで見せる、ミニマムサイズの体型を活かした限りなく狭い空間でのデンジャラスなアクションには誰しも目をみはるはずだ。
るところがチャームポイント。好きなタ
イプは「きちんとした人。浮気をしない
人。私や家族を大切にしてくれる人。
ハンサムでなくても全然構わないんで
す」なんだって。
テコンドー九段の使い手であるジージャは、高校3年生のときに『七人のマッハ!!!!!!!』のオーディションを受け、本作のアクション監督パンナー・リットグライに見出された。見た目が幼いために『七人のマッハ!!!!!!!』での役のイメージと合わず女優デビューは果たせなかったが、ピンゲーオ監督に紹介されたことで、彼女の人生の扉が大きく開いた。日本やハリウッドでは絶対に撮影できない無謀なアクション映画で知られるピンゲーオ監督はジージャに会い、またも無謀なプロジェクトを発動した。4年がかりで彼女にトレーニングを積ませ、アクション女優に育て上げるというもの。そして、そのデビュー作に『チョコレート・ファイター』を用意したというわけだ。製作にさらに2年を要している。桃栗3年、ジージャは6年。何とも気の長いプロジェクトである。
男顔負けの最強ヒロインであることにリアリティーを持たせるため、ピンゲーオ監督は、ジージャが演じるタイ人と日本人とのハーフである”ゼン”は、生まれつき脳に障害を持っているという設定を与えている。他人とのコミュニケーションに問題があるが、その代わりにゼンには驚異的な反射神経が備わっている。そしてビデオで『死亡遊戯』(78)や『マッハ!』などのアクション映画を観ることで、ブルース・リーやトニー・ジャーら歴代アクションスターの動きを瞬時に記憶してしまうのだ。『レインマン』(88)でダスティン・ホフマンが驚異的な記憶力の持ち主を演じたことで広く知られるようになった”サヴァン(賢人)症候群”である。天才作曲家モーツァルトや放浪の画家・山下清もサヴァン症候群だったと言われている。社会への適応力が低い代わりに、特定の分野で優れた才能を発揮する天才たちだ。ゼンは敵との実戦を通して、カポエラや剣術も身に付けていく。
しかし、ゼンの最大の武器は、恐怖心を持っていないことだろう。怪我をするかもしれない、後から報復されるかもしれない、そんなことを考えることもなく自分よりも大きな男たちに怯まずに立ち向かっていく。武器を持った相手にも全く躊躇することはなく、かえって敵が戸惑ってしまう。これまでのアクション俳優とは異なる、型破りのニューヒロインなのだ。もちろんサイボーグやゲームのキャラクターではないので、戦う度に生傷が増えていく。それでも彼女は戦うことを止めようとはしない。
ピンゲーオ監督の『マッハ!』『トム・ヤム・クン!』がCGやワイヤーワークを多用するハリウッド映画へのアンチテーゼだったように、『チョコレート・ファイター』も現代社会への一種の隠喩を読み取ることができる。格差社会が進み、持つ者と持たざる者の二極分解はますます進む一方だ。持たざる者は、少しだけ持っている者と全く持っていない者へとさらに分離していく。そんな中で、持たざる者にとっての唯一の武器は”持っていないこと”なのである。ゼンは恐怖心がないことを武器にしているが、演じるジージャも俳優としてのキャリアがないことが武器なのだ。なまじ女優として映画出演の経験があったなら、ヒロインだろうがおかまいなく顔面に蹴りや突きが見舞われる本作を最後まで演じ切ることはできなかっただろう。失敗することを恐れない彼女の一途さが、観る者のハートをジンジンと痺れさせる。
ゼンの父親マサシを演じた阿部寛は「香港映画みたいにピンゲーオ監督も脚本は用意せず、撮影するシーンのセリフを当日教えてもらって演じたんです。それに仮セットを3カ月前に組んで、そこで毎日リハを繰り返しているんですよ。日本では1日で済ませてしまうような数分間のアクションシーンを2週間くらいかけて撮影している。ラストのNG集を観てもらえばわかると思いますが、みんな生傷だらけでした(苦笑)」と振り返る。一度撮り終えたマサシがボコボコにされるシーンをピンゲーオ監督が納得せず、1年半後にタイに呼び戻されて別設定で撮り直したとも語っている。撮り直しを頼む方も、それを受ける方も大したものだ。ピンゲーオ監督も苦労人の阿部寛も、妥協したアクション映画がいかにつまらないかを身を持って知っているからだろう。
ジージャは今回の舞台挨拶を含めて3回目の来日。「日本料理、大好き。日本のお菓子もとっても大好き!」と話す親日家だ。また、ぽっちゃり体型のピンゲーオ監督のことを「ドラえもん」と呼ぶお茶目さんでもある。秋葉原をこよなく愛するピンゲーオ監督は『チョコレート・ファイター2』を企画しており、ヒロインが日本にやって来るというストーリーになるらしい。ジージャの蹴りを食らいたいエキストラを日本で募集すれば、アントニオ猪木の108ビンタ以上に希望者が集まるに違いない。まぁ、実際はプロのスタントマンでなくては彼女の蹴りを受けることはできないわけだが、せめて本作でイメージトレーニングだけは積んでおきたい。南国タイからやって来た美少女の官能的な蹴りが、日本の草食系男子たちを目覚めさせる!
(文=長野辰次)
●『チョコレート・ファイター』
監督/プラッチャヤー・ピンゲーオ
アクション監督/パンナー・リットグライ
出演/ジージャ、阿部寛、ポンパット・ワチラバンジョン、”ソム”アマラー・シリポン、タポン・ポップワンディー、イム・スジョン ソーミア・アバハイヤ、”オー”シリモンコン、デイ・フリーマン、サー・マオー
配給/東北新社
5月23日(土)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
http://www.chocolatefighter.com/
アクション映画の教科書、生き様の教科書。
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