はんにゃ アイドル人気を裏打ちする「喜劇人としての身体能力」
#お笑い #この芸人を見よ!
笑いには、大きく分けて2つの種類がある。動きで見せる「視覚的な笑い」と、しゃべりで聞かせる「聴覚的な笑い」だ。近年のテレビバラエティ界では、「聴覚的な笑い」の方が価値の高いものとされてきた。ビートたけし、島田紳助、松本人志といったお笑い史を彩る巨人たちはいずれも、1人でしゃべって自己完結的に笑いを取ることのできる話芸の達人だった。
「聴覚的な笑い」がテレビで求められてきた理由は、そちらの方が元手がかからないからだ。明石家さんまや島田紳助を司会に配置すれば、それだけでそこそこ盛り上がる番組を作ることができる。動きの笑いを見せるコント番組を作るには、舞台装置、脚本、役者などを用意するための金と手間が余計にかかる。制作費削減が求められる昨今のテレビ界で、しゃべり芸がもてはやされてきたのは当然のことだろう。
また、松本人志が著書の中で「発想力重視の笑いこそがいちばん高度な笑いである」という主張を大々的に展開したせいで、そういう考え方がお笑い界全体に共通認識として広まっていった、という事実も見逃せない。
だが最近、「視覚的な笑い」の復権を試みて多くの女性ファンに熱狂的な支持を集めている1組の芸人がいる。それが、はんにゃだ。
『ザ・スリーシアター』『爆笑レッドシアター』(いずれもフジテレビ)というコント番組の中で、はんにゃ・金田哲のたぐいまれなる身体的能力が開花した。偉そうにしているが実は情けない「ヘタレキャラ」を演じる金田が、キレのある動きで舞台上を縦横無尽に駆け回る。その自由奔放な暴れっぷりがじわじわと評判を呼び、いつのまにかはんにゃは「レッドシアター芸人」の中心的な存在になっていた。劇団ジョセフィーヌを率いて、教え子たちに訳のわからない振り付けを熱く指導する「ジョセフィーヌ先生」など、新たなキャラクターも次々に生まれている。今では金田が舞台に登場するだけで大きな歓声があがるほどの人気ぶりだ。
はんにゃの最大の魅力は、金田がネタ中に見せる大げさで派手な動きである。彼らの代表的なネタに「ズクダンズンブングンゲーム」というのがある。これは、金田が川島に対して、「ズクダンズンブングンゲーム」という謎の遊びをやろうと提案するというもの。そんなの知らないと言う川島に対して、金田は「ズクダンズンブングン」というフレーズを唱えながら妙なダンスを始める。ほとんど金田の動きだけに頼った強引なネタだが、これで大きな笑いが起こるのだからすごい。金田のコメディアンとしての身体的表現力のレベルはかなり高い水準にある。
『爆笑レッドシアター』は単なるコント番組であるだけではなく、観客の前で演じられる一種のお笑いライブ番組でもある。動きの笑いは生で見たときにいちばん強力に作用する。金田のようなタイプの芸人にこういう場をきちんと用意したフジテレビ制作スタッフと内村光良の英断も評価されるべきだろう。
ビートたけしは、『たけしの誰でもピカソ』(テレビ東京)という番組ではんにゃのコントを見て、感心したような様子で「昔のコント55号ってこんな感じだったんだよ」と語っていた。はんにゃの金田は、萩本欽一以来日本演芸界に久々に現れた「視覚的な笑いのスペシャリスト」なのかもしれない。
(お笑い評論家/ラリー遠田)
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●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第29回】ビートたけし が放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か
【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは
【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が”竜兵会”で体現する「新たなリーダー像」
【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」
【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」
【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由
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