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お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第29回

ビートたけしが放った『FAMOSO』は新世紀版「たけしの挑戦状」か

famoso01.jpg『FAMOSO』ネコ・パブリッシング

 ビートたけしと所ジョージがプロデュースした新雑誌『FAMOSO』が注目を集めている。4月1日のエイプリルフールに創刊された同誌は、たけしが編集長、所が副編集長を務めていて、「ウソしか載っていない」ことが売りのバカバカしい雑誌。2001年に休刊した写真週刊誌『FOCUS』を模したデザインで、個別の記事から編集後記まで全ページがでたらめな内容だ。

 肝心の記事の中身も、一目でウソとわかる荒唐無稽なものばかり。「楠田枝里子さん、ロボット疑惑の真相!」という記事では、旧ドイツ軍の内部資料で楠田枝里子の設計図が発見されたと伝えている。また、「花畑牧場裏に謎の空き箱が!――田中義剛の成功に森永の影」という記事では、花畑牧場の生キャラメルは、森永のキャラメルを指でつぶして包み直しているだけではないかという疑惑が持ち上がったと報じている。全編がこの調子で、時には編集長・副編集長自らも被写体となり、縦横無尽に悪ふざけを展開している。

 この雑誌のすごいところは、一貫してネタに徹している、というところだ。もう少し商売っ気を出して広告を入れたり大々的に宣伝したりすればもっと儲かりそうなのに、あえてそれをしない。入っている広告は自前の偽物ばかりだし、採算度外視で上質の紙を使っているため、売れているのにこれ以上増刷もできないという話もある。お笑い界の大御所2人が純粋に遊び心だけで取り組んでいる感じがあり、そこにむしろ彼らの真剣さが感じられる。

 ビートたけしのお笑い観の本質は、「面白い」よりも「くだらない」を上位とするものである。お上品なものや欺瞞的なものに対して「バカヤロー」と唾を吐いてきた「権威の破壊者」であるたけしは、笑いにおいても権威的なものを嫌う。笑えないほどくだらないものだけを笑いとして認める、ということを一貫して行ってきた。「くだらない」と言われるのが、たけしにとってはいちばんのほめ言葉なのだ。この点こそが、「レベルの高い笑い」を標榜する松本人志との最大の違いだ。

 このような倒錯的とも言えるたけしのお笑い観は、今の時代において主流であるとは言えない。だからこそたけしは、ある時期からお笑いを捨てて、映画監督、知識人のポジションへ撤退することを余儀なくされたのだ。

 一方で、こういったたけし的なお笑い観に密かに憧れと共感を抱いている人間も実は数多くいる。今回、『FAMOSO』を買い求めたのも、おそらくはそういう層の人々だろう。くだらないことがなかなかできなくなったテレビの世界と比べて、出版界にはまだまだ自由がある。雑誌全体の売上が低迷する中で、「面白くもないなら、せめてくだらなくあれ」と、たけしは雑誌業界に挑戦状をたたきつけているのだ。
(お笑い評論家/ラリー遠田)

●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は2009年11月下旬予定。ご期待ください。

FAMOSO (ファモーソ)

遊ぶ大人。

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●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第28回】NON STYLE M-1王者が手にした「もうひとつの称号」とは
【第27回】ダチョウ倶楽部・上島竜兵 が”竜兵会”で体現する「新たなリーダー像」
【第26回】品川祐 人気者なのに愛されない芸人の「がむしゃらなリアル」
【第25回】タモリ アコムCM出演で失望? 既存イメージと「タモリ的なるもの」
【第24回】ケンドーコバヤシ 「時代が追いついてきた」彼がすべらない3つの理由
【第23回】カンニング竹山 「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来
【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代
【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中
【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性
【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」
【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在
【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは
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【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略
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最終更新:2013/02/07 12:56
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