『言いがかり』訴訟は否定されるも暗雲は立ち込めたままか
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読売新聞社の法務室長が、事務文書に過ぎない『催告書』についての著作権侵害を訴えていた裁判で、3月30日に東京地裁は読売新聞社側の訴えを退け、原告敗訴の判決を言い渡した。
この裁判はジャーナリストの黒藪哲哉氏が、読売新聞社西部本社(福岡県福岡市)の法務室長、江崎徹志氏から送付されてきた『催告書』をインターネット上で公開したところ、送付した『催告書』は著作物であると江崎氏が主張し、黒藪氏に対して160万円の損害賠償を求めた裁判(記事参照)である。
判決言い渡しは東京地裁627号法廷で行われた。傍聴席はほぼ満席で、この問題に関心を寄せるジャーナリストや、新聞販売関係者などの姿も見られたが、テレビなどの大手報道機関の姿は見られなかった。原告側には代理人の喜田村洋一弁護士のみで、被告席には黒藪氏と弁護士たちが並び、判決を待った。
そして、裁判長の「原告の請求を棄却する」という声が終わると、傍聴席からはいっせいに拍手が起こった。
判決文で東京地裁の清水節裁判長は、江崎氏が同「催告書」を作成に使ったワープロソフトを「覚えていない」などのいくつもの理由から「不自然と言うほかはなく(中略)、本件催告書は、原告が作成したものではないと認められる」と判断。
さらに、「著作物」という点についても、「仮に、本件催告書を作成したのが原告である場合」を想定した検討も行われ、その結果、同「催告書」は「その表現方法もありふれたもの」であって、個性や創意工夫が認められるとは考えられないとし、創作性のある著作物とは認識できないとの判断を下した。
すなわち、裁判所は江崎氏の主張をことごとく否定し、「江崎氏が書いたとされる催告書は、ごくありふれた単なる事務的な文書に過ぎず、著作物とは認められない」と認定されたともいえよう。
判決後、黒藪氏は「ホッとした、というのが実感です」と述べ、「万が一にもこの裁判で負けていたら、調査報道という行為が非常に危うい状況になっていた可能性があると思います」と感想を述べた。
しかし、今月になって読売・江崎氏が東京高裁に控訴したことがあきらかとなり、この「『催告書』著作権裁判」はまだ決着ということにはならないようである。
この裁判は当初からSLAPP(=Strategic Lawsuit Against Public Participation)すなわち恫喝的目的の裁判である可能性が高いと指摘されていたが、同種の訴訟である「オリコン訴訟」(記事参照)もまた継続中である。さらに、新銀行東京元行員の横山剛氏が、同行の内部事情についてテレビ番組および週刊誌誌上にてコメントしたことに関して、同行から「守秘義務違反」として1,320万円という高額の損害賠償請求の訴訟を起こされている。横山氏のケースでは、放送局や週刊誌の版元などを訴外とし、横山氏個人のみを訴えるという点でオリコン訴訟のケースと酷似している。
今後、同じようケースは増えていくのであろうか。我々の生活と言論の頭上には、まだまだ見えない暗雲か立ち込めたままのような気がしてならない。
(文=橋本玉泉)
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