美人女優は”下ネタ”でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』
#海外 #映画 #DVD #パンドラ映画館
東スポの見出しとキャバ嬢の「今度、遊びに連れてって」という言葉ほど信用できないものはないが、女優を美しく撮り上げる監督は信用してもいいと思う。とりわけ米国のファレリー兄弟は、美人女優に変キャラ、Hネタを平気でやらせてしまう素晴らしい監督だ。男子は美女の変顔やギャップのあるリアクションにすごく弱い。モデル出身のキャメロン・ディアスは、ファレリー兄弟の大ヒット作『メリーに首ったけ』(98)で”頭のネジが1~2本緩んでいるお人好しな美女”という理想の女性像をハツラツと演じ、前髪をおっ立てた彼女の笑顔に世界中の男子は首ったけになった。キャメロン・ディアスがあれほど輝いていた作品は以後、見当たらない。
その後もファレリー兄弟は『愛しのローズマリー』(01)ではおすまし女優のグウィネス・パルトローを心の美しい肥満体女に変身させ、結合性双生児を主人公にした『ふたりにクギづけ』(03)では海千山千の大ベテラン女優メリル・ストリープとシェールから「あれ、結構かわいいかも」と思わせる表情を引き出している。”おバカ映画”の先駆者として認知されているファレリー兄弟だが、女優たちはファレリー兄弟の演出に身も心も委ねているのだろう、親密な空気感がスクリーン越しに伝わってくる心地よさがある。
日本では残念ながらDVDストレートとなった最新作『ライラにお手あげ』は、『ウォッチメン』で売り出し中のマリン・アッカーマンと『近距離恋愛』(08)の知性派女優ミシェル・モナハンをWヒロインに迎えた下ネタ満載コメディ。『40歳の童貞男』(05)のスティーブ・カレルとどこか風貌の似ているベン・スティラーが2人の美女の狭間で悶え苦しむというストーリーだ。中でもスウェーデン出身の金髪女優マリン・アッカーマンは捨て身のギャグに挑んでおり、熱い女優魂を感じさせる。ギャグがあまりに過激すぎてデート映画には不向きなのも、日本で劇場未公開となった一因だろう。
したボビー・ファレリー監督。兄ピーター
は風邪のためドタキャンってのもファレ
リー兄弟らしい。
08年11月、「したまちコメディ映画祭in台東」のため、ファレリー兄弟の弟、ボビー・ファレリー監督が初来日した。滞在中の彼の言葉から、なぜファレリー作品に出ている女優たちは輝いているのか? という長年の疑問が解明された。なんでも、兄ピーターは俳優たちを相手に”時計ギャグ”というネタをやるらしい。ズボンのファスナーを下し、自分の●●●を取り出して、「今、何時か分かるか~い?」と尋ねるというもの。下らない、下らないにもほどがあるぞ、ピーター・ファレリー。
ちなみに弟ボビーも負けていない。『メリーに首ったけ』でキャメロン・ディアスが「キャー」と叫ぶシーンの表情がイマイチだったので、カメラの横でボビーはズボンを脱いでお尻をぺろんとキャメロンに見せたそうだ。思惑通り、彼女は「ギャ~!」といい感じに叫んでくれたとのこと。兄は前、弟は後ろと、それぞれ露出する部位が分担されている点もさすが兄弟である。
映画祭のイベントの合間にボビーに話を聞くことができた。ファレリー兄弟にとって”下ネタ”はキャストとのコミュニケーションを図る手段なの?
「あははは、そうなんだ。監督のボクらがギャグをやることで撮影現場に笑いが生まれる。笑うことで気分がほぐれるし、リラックスすることで俳優たちは普段はやらないような演技や表情もできてしまうものなんだよ。ほんと、現場の雰囲気で俳優の表情ってずいぶん変わっちゃうからね」
自分たちの映画に出てくれた女優のチャーミングな表情を撮るためなら、照明やカメラのセッティングにもじっくり時間をかけるし、パンツを脱ぐことも全然厭わないというファレリー兄弟。ちなみに兄ピーターは今年53歳、弟ボビーは51歳である。
『メリーに首ったけ』ではベン・スティラーの飛ばしたスペルマを、キャメロン・ディアスが”ヘアジェル”と勘違いしてしまうギャグがあまりにも有名。この下ネタもファレリー兄弟ならではの会話から生まれたそうだ。脚本のアイデアを2人で練っていたところ、ピーターが「あのさ~、オナニーしていて自分のスペルマが飛んで行って、どこに行ったか分からなくなったことないかい?」と問いたところ、ボビーは「お兄ちゃん、それギャグに使えるよ! でもお兄ちゃんのスペルマは一体どこに消えたんだろうねぇ」。こんな下らない会話のお陰で、キャメロンは一躍スター女優の座に就くことができたわけか。兄さん、あなたの白い精子はどこに消えたんでしょうね。何だか西條八十のポエムみたいだな。ちょっといい下ネタでした。
ボビーは兄弟で監督するメリットについても語ってくれた。
「ウォシャウスキー兄弟、ザッカー兄弟、コーエン兄弟……と米国には兄弟監督が結構いるよね。それぞれ独自のスタイルを持っているけど、ひとつ共通して言えることがあるんだ。1本ヒットが出ると、ハリウッドのメジャースタジオは同じような作品ばかり撮らせようとする。ボクらはギャグで当たったから、ギャグばっかりの映画にしろと言うんだ。それ以外のドラマ部分は削ってしまえとね。ひとりだと、プロデューサーたちにワーワー言われ、『そういうものなのかな』とつい思ってしまう。その点、兄弟でやっていると『やっぱり自分たち本来のやりたいことをやろうと』と思えるんだ。たまに兄弟ゲンカもするけど、大事なシーンを撮るときは兄弟でしっかり協力しあうんだよ」
今の日本のバラエティー番組は”空気を読み合う”笑いが主流となっているが、ファレリー兄弟のコメディを観ていると、笑いにはもっと破壊的なパワーがあることに気付かせられる。『ライラにお手あげ』にも世間的な常識やモラル、ドラマ的なお約束といった枠組そのものを、どーんと突き崩してしまうパワーが込められているのだ。
メジャースタジオが押し付ける古臭い固定観念を笑い飛ばすため、そして美人女優のはじけた笑顔を見るため、これからもファレリー兄弟は元気よくパンツを脱ぎ続けることだろう。
(文=長野辰次)
●『ライラにお手あげ』
原案/ニール・サイモン
脚本・監督/ボビー・ファレリー、ピーター・ファレリー
出演/ベン・スティラー、ミシェル・モナハン、マリン・アッカーマン、ジェリー・スティラー、ロブ・コードリー
発売・販売/角川エンタテインメント
発売中
このスタッフキャストでDVDストレートとは……。
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX
[第10回]ジャッキー・チェンの”暗黒面”? 中国で上映禁止『新宿インシデント』
[第9回]胸の谷間に”桃源郷”を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』
[第8回]“都市伝説”は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』
[第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』
[第6回]派遣の”叫び”がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』
[第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が”倒錯美”の世界へ
[第4回]フランス、中国、日本……世界各国のタブーを暴いた劇映画続々
[第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は……
[第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは”映画の神様”となった
[第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事