不況な社会の救世主!? 漫画雑誌『アフタヌーン』から新感覚の新書
2003年に『バカの壁』(養老猛著・新潮社刊)が大ヒットして以来、新規参入が一気に増え、すでにバブル崩壊寸前となっている新書市場。そんな中、4月10日に講談社より新たな新書が誕生した。その名も「アフタヌーン新書」、月刊漫画誌『アフタヌーン』発の新レーベルである。
『アフタヌーン』といえば、1986年に漫画誌『モーニング』の兄弟誌として創刊。他誌にはない独自の視点で、さまざまなジャンルの漫画に挑戦してきた。マニアのツボをつくディープな内容にファンも多く、これまでに『ああっ女神さまっ』『寄生獣』などヒット作も続出。現在、毎月の発行部数は12万部に達し、昨年秋にはアフタヌーン増刊号『good!アフタヌーン』も創刊するなど、不況な出版界で好調な成績を残している。
とはいえ、漫画雑誌から新書が生まれるとは異例。一体どんなものか、さっそく10日に発売された第一弾のタイトルを見てみると――『がっかり力』(本田透)、『ヤリチン専門学校 ~ゼロ年代のモテ技術~』(尾谷幸憲)、『なぜ、腐女子は男尊女卑なのか? オタクの恋愛とセックス事情』(腐女子シンジケート)、『僕秩プレミアム!』(ヨシナガ)と、タイトルだけ見ても、そのノリの軽さと統一感のなさにちょっと動揺。レジに持っていくのも躊躇われるが……。
しかし、実際に手にとってみると、「読めばラクになる新書」とのキャッチコピーの通り、文体やタッチは軽いが、中身は意外にしっかりしていて面白い。
たとえば、本田透氏の『がっかり力』。内容は、不景気な時代だからこそ「カリカリ」と怒らず、ひたすら「がっかり」しながら現実を受け止める方が視野が広がり勝利をつかめる……というユニークな視点から描いた文化評論。プロ野球から映画、歴史、恋愛などにおいて、いかに「がっかり」した人のほうが成功したか、事例を挙げて説明している。「巨人に入れなかった清原は、カリカリしすぎたからトホホな野球人生になったんだ」とか、「『崖の上のポニョ』はがっかりアニメだったが、『もののけ姫』の頃よりカリカリ感がなくなった宮崎駿はむしろ今のほうが作品は素敵」など、余計なお世話とも思える視点で、著名人や巨匠の偉業を分析する。
そして最後には、自分の人生がいかに「がっかり」の連続かを語り、それでも「カリカリ」しなかったら本が出せるようにはなった、と、持ってくる。いささか強引な気もするが、読後は、「そうか、がっかりするのは良いことなのか」と、思わず納得してしまう。
だが、この本、数年前に大ブームとなった渡辺淳一大先生の『鈍感力』に似ているのは気のせいだろうか。「物事にいちいち敏感に反応せず、鈍感になって現実を受け入れたほうがうまくいく」という内容は、言い回しや事例は違えど、「がっかり力」と本質は同じのような気が。しかもタイトルも似ているし……。ちょっぴり残念な要素に「がっかり」するが、しかしそれこそ著者の思うツボなのかも!? 本田氏はあとがきで「内容ががっかりなあげく、売れなくて二重にがっかり、なんてオチがつきそうで今から先走ってがっかりしています。」(=つまり、勝手に意訳すると「がっかりして構えていた方が思いがけず売れることもあるよね」ということ)とも、書いているし。その開き直りっぷりを真似すれば、確かに人生うまく行くのかもしれない、と勇気をもらえる一冊だ。
その他にも『ヤリチン専門学校』など、目からウロコの内容が目白押しの「アフタヌーン新書」。第二弾は5月11日に刊行が予定されており、今後どれほどぶっ飛んだものが出てくるのか、楽しみなシリーズだ。
(文=是川和樹)
もうこの際、がっかりしよう。
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