アコムCM出演で失望? タモリの既存イメージと「タモリ的なるもの」
#お笑い #企業 #タモリ #この芸人を見よ!
今年3月から、タモリが消費者金融大手「アコム」のイメージキャラクターとしてCMや広告に露出していることに対して、世間では動揺と失望の声が広がっている。この件では、現在のタモリのイメージの良さと消費者金融のイメージの悪さが改めて浮き彫りになったと思う。
タモリ好きを自認する多くの人にとって、サラ金の広告塔になるのは「タモさんらしくない」行為だと映ったということなのだろう。だが、そもそも「タモリらしさ」とは何なのか。サラ金のCMに出ただけでがっかりされてしまうくらい、タモリが聖人君子のような扱いを受けるようになったのはいつからだろう。むしろタモリは、そのような世間のタレントに対するレッテル貼りに逆らい続けて、そこから逃れながらキャリアを重ねてきたのではないだろうか。
タモリはもともと、山下洋輔や赤塚不二夫らにその才能を見いだされるまでは、福岡出身のただのド素人だった。タモリが彼らを魅了したいわゆる「密室芸」は、イグアナの真似、4カ国語麻雀、寺山修司や昭和天皇の物真似といったマニアックなものばかり。もともとは日陰がお似合いのマイナー芸人だったのだ。
だが、タモリはその地位にとどまらなかった。密室芸の使い手として知られる不気味な芸人だったタモリは、昼の帯番組『笑っていいとも!』(フジテレビ)にレギュラー出演を果たして、いつのまにか「お昼の顔」になってしまった。陰から陽へ、タモリはあっという間にタレントとしてのイメージを転換させていったのである。
かといって、自分の信念を曲げて人気取りだけに走ったというわけでもない。『いいとも!』を続ける一方で、『タモリ倶楽部』(テレビ朝日)に代表される自身の趣味を生かした仕事にも積極的に取り組んでいた。
タモリはビートたけし、明石家さんまと並んで「お笑いビッグ3」と呼ばれることがある。だが、漫才や漫談の経験があり、紛れもなく「お笑い芸人」としての確かな出自を持つたけしやさんまと違って、タモリには芸人であるというはっきりとした自覚やこだわりのようなものはあまり感じられない。むしろ、「芸人だからこうあるべきだ」とか「こうしなくてはいけない」といった暗黙のルールを公然と破っていくことに楽しみを見いだしているような印象を受ける。
そんなタモリの特異性を改めて思い知らされることになったのが、昨年8月の故・赤塚不二夫の葬儀だ。タモリが赤塚に捧げた弔辞は、日本中の人々の感動を呼んだ。だが、あれさえもタモリにとっては一種のパフォーマンスにすぎなかったという説もある。
タモリが『いいとも!』生みの親である元テレビプロデューサー横澤彪氏に語ったところによれば、何も書かれていない紙を見ながら朗読しているふりをしたのは、歌舞伎の「勧進帳」のパロディーだったのだという。自分の中でそのネタをネタとして成立させるためにも、タモリは感情を表に出さず、一滴の涙もこぼさずに淡々と言葉を捧げていた。見ている人を安易に泣かせることも笑わせることも拒否して、あの一世一代のパフォーマンスを成し遂げたのである。
もちろん、「勧進帳」のパロディーだという本人の証言さえも、どこまでが本気なのかはわからない。本来の「タモリらしさ」とは、こういうつかみどころのなさ、お仕着せのイメージを常に拒否しようとする「タモリ的運動」の中にこそ見いだされるのではないだろうか。
タモリは昔も今も、一定の型に収まらないタレントである。タモリとアコムの関係に違和感を覚える人は、頭の中で無意識のうちに「サラ金=悪」「タモリ=善」というレッテル貼りを行っているのではないだろうか。
タモリの座右の銘は「適当」である。タモリが本当は何を考えているのかは、本人にさえもわからないのかもしれない。
(お笑い評論家/ラリー遠田)
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これもまた看板はタモリ。
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