胸の谷間に”桃源郷”を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』
#映画 #邦画 #綾瀬はるか #パンドラ映画館
デビュー当初はグラビア誌で眩しい水着姿を披露していた綾瀬はるかのふくよかな胸がスクリーン上で揺れて弾む。2008年は『僕の彼女はサイボーグ』の人型ロボット、『ICHI』の女座頭市などビミョーな役、キテレツな役が続いた綾瀬はるかだが、映画女優としてようやく等身大の役に巡り会えた。タイトルはご存知『おっぱいバレー』。綾瀬はるか(以下、綾ぱい)は推定Dカップの美乳を武器に男子生徒たちを熱血指導する中学教師を演じる。公式戦で1勝すれば、先生がおっぱいを見せてくれる! という約束を取り付けた男子中学生たちが血まなこになって猛特訓に励む、エッチ系スポ根映画なのだ。
脚本は国仲涼子主演のNHK朝ドラ『ちゅらさん』(01)で知られる岡田惠和。『ちゅらさん』では沖縄から上京してきた天然系の女の子が、”空気が読めない”と紙一重の天真爛漫さでささくれ立った都会人の心に潤いをもたらした。アメリカ人が愛する古典的名作『スミス都に行く』(39)の女の子版といえるハートウォーミングなドラマだった。映画での代表作『いま、会いにゆきます』(04)も、ヒロイン・竹内結子が記憶を持たない聖女として現世に奇跡を起こすファンタジーだった。岡田惠和の脚本作品には度々、聖女が現われ、どん詰まりの生活を送る男たちに福音を与えて、再び去っていく。
『おっぱいバレー』で綾ぱい扮する国語教師の寺嶋美香子も、エッチな妄想で頭の中がパンパン状態の男子生徒たちが待つ中学校へ臨時教員として突如やってくる。「私、ドウテイが大好き!」と朝礼であいさつをぶちかまし、うぶな男子中学生たちに鼻血の洗礼を浴びせる。ドウテイといっても、高村光太郎の詩集『道程』のことなのだが。”ドウテイ大好き!”と宣言した若い教師が顧問となれば、それまでまともに練習をしたことのない男子バレー部も張り切りざるを得ない。「試合に勝ったら、先生がおっぱいを見せてくれる」という約束は中学生男子にとっては、イタリアン・マフィアの血の掟より重く、モーセの十戒よりも神々しい。聖女ならぬ聖職者のおっぱいを崇めるため、軟弱男子部員でさえ『ロッキー』ばりの猛トレーニングを楽々とクリアしていく。男子という生き物はモチベーションさえあれば、何でもやってしまう単純な動物であることがよくわかる。また、新米教師も自分のこと(正確には自分の胸)を一途に慕う生徒たちの健気さにほだされていく。女子は雰囲気に弱いことがよ~くわかる。
ちなみに『おっぱいバレー』のメガホンをとったのは『海猿』(04)、『LIMIT OF LOVE海猿』(05)の羽住英一郎監督。ある意味、『おっぱいバレー』は中学生男子にとっての脳内パニック映画である。『海猿』は”人命救助”に燃える男たちのドラマだったが、本作は”生おっぱい”に熱くなる童貞少年たちの命懸けのドラマなのだ。インポッシブルな目標に向かって突き進む汗臭い男たちの物語という点で、羽住監督は一貫性を貫いている。バレー部員の父兄役で出演している仲村トオルならずとも「ナイス、おっぱい!」と羽住監督と綾ぱいには声を掛けたい。
鈴木則文監督の珠玉の青春映画『パンツの穴』(84)のようなストレートなエロシーンを期待するのは無理だが、綾ぱいのジャージ越しに漂うほんのりとしたセクシーさも特筆したい。『神様のパズル』(08)で谷村美月が見せたピッチピチのジャージ姿、『深呼吸の必要』(04)で長澤まさみが見せたオバサン帽子&エンジ色ジャージのコーディネイトに匹敵する”ジャージ萌え”映画でもある。北九州市での長期ロケによって、綾ぱいのノホホンとした雰囲気に拍車がかかっているのもプラスポイントだろう。「実話に基づいた」を謳った水野宗徳の原作小説では現代の静岡が舞台だったのを、まだネットで無修正動画が見れる日がくるなど夢にも思わなかった1979年の北九州に設定を変えたことが成功に結びついたといえる。故郷と同じように、エロも遠くにありて思うほうが、より慕情が高まるということか。
昨秋、東映の2009年度新作映画のラインナップ発表会にて、司会を務めていた東映・岡田裕介社長が嬉しそうに「おっぱいバレー、おっぱいバレー」とタイトルを連呼していた。おっぱいは赤ちゃんから大の大人まで魅了する”聖なる桃源郷”なのだ。『おっぱいバレー2』を企画する際は、ぜひとも3D映画『飛び出す!おっぱいバレー 女教師の逆襲』にしてほしい。
(文=長野辰次)
●『おっぱいバレー』
原作/水野宗徳
脚本/岡田惠和
監督/羽住英一郎
出演/綾瀬はるか 青木崇高 仲村トオル 石田卓也 大後寿々花 福士誠治 光石研 田口浩正 市毛良枝
配給/ワーナー・ブラザーズ映画、東映
4月18日(土)より全国ロードショー
http://www.opv.jp
●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX
[第8回]“都市伝説”は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』
[第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』
[第6回]派遣の”叫び”がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』
[第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が”倒錯美”の世界へ
[第4回]フランス、中国、日本……世界各国のタブーを暴いた劇映画続々
[第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は……
[第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは”映画の神様”となった
[第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事