ロン・ハワードが放つ渾身のダイアローグ劇『フロスト×ニクソン』
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テレビ界はちょうど春の番組改編期だが、全米で4,500万人が視聴したといわれる伝説のインタビュー番組の裏側を描いた映画『フロスト×ニクソン』が、3月28日から公開となる。
舞台は1977年アメリカ。リチャード・ニクソンがウォーターゲート事件により失脚し、米大統領史上初めて任期中に退任してから3年。ニクソンは信頼を裏切った国民に対して謝罪の言葉もなく、沈黙を守り続けていた。
そんな時、イギリスのコメディアン出身の人気トーク番組司会者、デビッド・フロストが、ニクソンへの直撃インタビューを申し込む。根っからのテレビ屋のフロストは、ニクソンへのインタビューが高視聴率を狙えると読んだのだが、アメリカの大手放送局は、たかがコメディアンとフロストを軽視して相手にしない。それでもあきらめないフロストは、多額の借金を抱えて番組を自主製作することに。インタビューに成功すれば全米進出も叶うが、失敗すれば自らを滅ぼす背水の陣のフロスト。そしてニクソン側も、フロストを組みしやすい相手と踏み、インタビューの場を逆手にとって、釈明と政界復帰の足がかりにしようと企むが……。
今年の第81回アカデミー賞では、作品、監督、脚色、主演男優、編集の計5部門にノミネート。受賞にこそ至らなかったが、質の高さはアカデミーの折り紙つき。頭脳と頭脳、言葉と言葉がぶつかりあい、いかに相手から本音を引き出すかの駆け引き、そして事前の情報収集といった裏側での戦いをスリリングに描き、下手なアクション映画よりもハラハラとした展開に手に汗握るはず。
主演男優賞にノミネートされたベテラン俳優、フランク・ランジェラが体現したニクソンも痛快。当初こそ余裕しゃくしゃくで、アメリカ国民を裏切った”悪者”なのに、小気味よいくらいのジョークや嫌味を連発して笑わせる。しかし、そんな彼の心の内が次第に露呈していくことで、思いがけず人間味にあふれたニクソン像となって表れてくるわけだが。
原作は舞台劇で、映画版のメガホンを取ったのは、過去に『ビューティフル・マインド』でアカデミー賞を受賞しているロン・ハワード監督。『ダ・ヴィンチ・コード』(今年5月に続編『天使と悪魔』も公開)や『アポロ13』など娯楽大作映画も手がける熟練の職人監督の技が、”インタビュー”という一見すると地味な題材をうまく料理し、言葉の応酬だけで終わらない、スリリングでスピーディーな展開で観客を引き込む映画に仕上げてみせた。
テレビ局の製作費削減が日々報じられ、あらゆる番組がバラエティ化していくと言われる今だからこそ、ひとつのインタビュー番組に自身の全てを賭けた男たちの姿が鮮烈に目に映るはず。面白いテレビ番組がないと思ったら、ぜひ映画館へ足を運んでみてほしい1本だ。
(eiga.com編集部・浅香義明)
ロン・ハワードの出世作。
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