トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > カンニング竹山「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来
お笑い評論家・ラリー遠田の【この芸人を見よ!】第23回

カンニング竹山「理由なき怒りの刃」を収めた先に見る未来

takeyamahosokinshi.jpg『カンニング竹山単独ライブ 「放送禁止」』
ビクターエンターテイメント

 カンニング竹山が「怒りキャラ」を封印してから、もう随分長い月日が過ぎた。現在の彼は、怒鳴り散らしながらスタジオに乱入してくることもないし、共演者にがむしゃらに怒りをぶつけることもない。以前は『エンタの神様』の舞台上で「今からここでウンコします!」と宣言して、ズボンを下げようとしたところをスタッフに連れ出される、ということもあった。そんな暴走キャラを竹山がテレビで見せる機会はほとんどなくなっている。

 竹山の怒り芸は、例えば松本人志や千原ジュニアの怒りとはかなり性質が異なっている。松本やジュニアの怒りは、基本的に他人を責めようとする意識の現れである。交通マナーの悪いドライバーや失礼なファンに対して、彼らは直接怒りをぶつけている。いわば、自分以外の場所に怒るべき対象が明確に存在しているのである。

 一方、竹山の怒りとは、もともと一種の開き直りから生まれたものだ。売れない芸人時代に、彼は多額の借金を負い、日夜借金取りに追われる身になった。精神的にも追い込まれるギリギリの状況で、漫才の中で居直って怒ってみせたところ、それが観客にウケて、怒りを芸にする道が開かれていったのだ。

 かつての竹山が、テレビで怒鳴り散らしていたのを覚えている人は少なくないと思うのだが、そのとき彼がなぜ怒っていたかを思い出せる人はあまりいないのではないだろうか。それはなぜかと言えば、彼が怒るべき状況で怒っているわけではなかったからだ。

 竹山は、コンビとしてもソロとしても『エンタの神様』に何度か出たことがあったが、きちんとしたネタをやったことはほとんどなかったように記憶している。これはまさに、番組に合わせたネタを演じられない自分自身に怒りを向けて、そんな生き様をさらけ出して何とか笑いを取ろうとしていた、ということだ。前述の「ウンコ発言事件」などはその典型だろう。竹山の怒りの対象は常に自分の中にあった。すなわち、彼の怒りの標的はふがいない自分自身だった、ということだ。

 怒りを他人に向ける人には、傲慢で偉そうなイメージがつきまとう。一方、自分自身に怒っているだけの竹山にはそんな印象はない。テレビであれだけ怒鳴ったり暴れたりしていた竹山が、今では何となく「いい人」だと世間に思われているのはそのせいだろう。

 最近の竹山は、インターネット番組やライブなど、地上波テレビ以外の場所でも積極的に活動を続けている。3月25日発売のDVD『カンニング竹山単独ライブ「放送禁止」』は、昨年10月に行った初の単独ライブの模様を収録したもの。「テレビではできないことをやる」というコンセプトで、借金地獄に苦しんだ若かりし頃の体験談を告白したり、前田健との同性愛ドラマを演じたり、過激な企画が満載。大人が見て納得できるものを作りたい、という本人の意向を反映した意欲作となっている。

 名刺代わりの怒りキャラでテレビ界に殴り込みをかけたカンニング竹山は、生来の品の良さを武器にして、大人に支持される芸人を目指すという次の段階に入っている。
(お笑い評論家/ラリー遠田)

●「この芸人を見よ!」書籍化のお知らせ

日刊サイゾーで連載されている、お笑い評論家・ラリー遠田の「この芸人を見よ!」が本になります。ビートたけし、明石家さんま、タモリら大御所から、オリエンタル・ラジオ、はんにゃ、ジャルジャルなどの超若手まで、鋭い批評眼と深すぎる”お笑い愛”で綴られたコラムを全編加筆修正。さらに、「ゼロ年代のお笑い史」を総決算したり、今年で9回目を迎える「M-1グランプリ」の進化を徹底的に分析したりと、盛りだくさんの内容になります。発売は2009年11月下旬予定。ご期待ください。

カンニング竹山単独ライブ 「放送禁止」

テレビでできないことは、ライブでやる。

amazon_associate_logo.jpg

●連載「この芸人を見よ!」INDEX
【第22回】ナイツ 「星を継ぐ者」古臭さを武器に変えた浅草最強の新世代
【第21回】立川談志 孤高の家元が歩み続ける「死にぞこないの夢」の中
【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性
【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」
【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在
【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは
【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ
【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者
【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略
【第13回】U字工事 M-1決勝出場「北関東の星」が急成長を遂げた理由
【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」
【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃
【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力
【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」
【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児
【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」
【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ
【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」
【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」
【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」
【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」
【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」

【関連記事】  鳥居みゆき激白「人が死ぬコントは”生への願望”なんです」
【関連記事】 「誰も知らなかった『R-1』ファイナリスト」鬼頭真也の素顔に迫る!
【関連記事】 キングオブコメディ 今すべての『誤解』を解く!?

最終更新:2013/02/07 12:59
ページ上部へ戻る

配給映画