佐藤優が分析する「インテリジェンスと陰謀論」の境界線(後編)
#政治 #インタビュー #佐藤優
●核心にアクセスできない二級エリートたちの罪
──では、「物語」の作り手に、共通した特徴があるとすれば、それはなんでしょうか?
佐藤 一概には言えませんが、”二級のエリート”に多いのではないか、という気はしています。ものごとの舞台裏をある程度はうかがうことができるのだけど、核心情報にはアクセスできない。そこで真実を知って納得したいという欲求を満たすため、「こうであるはずだ」という結論へショートカットしてしまう。
──ショートカットというのはつまり、検証の省略ということですか?
佐藤 省略の場合もあれば、回避や怠慢の場合もあると思います。今の世の中、私たちの身の回りには、膨大な情報と知識があります。教育を受けているから、論理的な思考もできる。その気になれば、疑問点をひとつひとつ丁寧に詰めていくことはできるんです。ところが場合によっては、相当な時間がかかることがある。労力もかかるし、面倒くさくなる。そうすると、「自分が理解できない問題について、誰か専門家が簡単明瞭に説明してくれるだろう」という順応の気構えができてしまうんです。そういうところに、陰謀論の付け入る隙がある。
──情報化が進んでも、陰謀論の勢いが衰えないわけですね。
佐藤 それと、陰謀論が勢いを増すのは、やはり社会が不安に覆われる時なんです。
不安を突き詰めていくと「死」に行き当たります。そしてそれは、必ずしも個人の死だけを意味するわけではない。経済システムは、景気循環を繰り返しているように思えますが、たまに急停止することがあります。私たちは普段、気にしていないけれども、カネと商品には非対称性があるんです。一定のカネがあれば、それでいつでも商品を買うことはできるけれども、商品がいつもカネになるとは限りませんよね。不況になると、人はこのことに気づき、不安に襲われる。なぜならば行き着く先に、恐慌という”経済システムの死”が見えるからです。
今が、まさにそういう時でしょう。最近の世界経済危機の中で、派遣切りの問題が浮上し、正規社員の人たちも「明日はわが身」という不安を感じだした。すると、「自分の落ち度でそうなったんじゃない。しかし、なぜなのかはわからない。誰か説明してくれ!」となる。そんな欲求が強まっている時代だと思います。
●差別に繋がる陰謀論 十分に警戒すべき
──21世紀になって登場した陰謀論の多くは、アメリカが”主役”になっているように思えますが、その点はいかがでしょうか?
佐藤 スーパーパワーとして突出した存在だからかもしれませんが、アメリカがキーワードとして語られる場合、陰謀論というより、「帝国主義論」というオモテの議論になっているように思えます。
むしろ陰謀論の標的になっているのは、アメリカの中の「ユダヤ」でしょう。すべては、ユダヤ人が世界征服をもくろんでいるという、「シオン賢者の議定書」【註】の焼き直しですね。陰謀論は往々にして、こうした少数者差別を含んでいます。その点は、徹底的に警戒すべきでしょう。
──では、最後に、陰謀論に踊らされないために、気をつけるべきポイントを教えてください。
佐藤 「わからない」という状態に耐える力が必要ですね。自分が何をわかっていないのか、それを直視することが物事を知る第一歩です。
それから、良質な文学を読むことは、陰謀論への抵抗力をつけるのにうってつけです。なぜなら文学とショートカットは相容れないですから。物語を途中で端折った面白い小説なんかありませんよね。陰謀論というのは推定有罪、すなわち結論ありきですから、論理の崩れや仕掛けの稚拙さが目立つんです。優れた文学をたくさん読み込んでいれば、バカバカしくて付き合えないと思えますよ。
(取材・文=李策/「サイゾー」4月号より)
【註】20世紀初頭、「ユダヤ人長老たちによる世界征服計画書」という触れ込みで広まった会話形式の文書。ロシア帝国秘密警察(オフラーナ)が、帝国政府への民衆の不満を反ユダヤ感情に向けさせるために捏造したとされる。
●さとう・まさる
1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了後、ノンキャリアの専門職として外務省に入省。02年に背任と偽計業務妨害の容疑で逮捕。05年、東京地裁で執行猶予付き有罪判決を受ける。現在、最高裁に上告中の「起訴休職外務事務官」。
「反ユダヤ主義」の温床?
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